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白と赤  作者: 伊月煌
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He didn't know the tragedy will come.

月桂樹の話です。

ちょっと長めになりそうなので何話かに分けて載せることにします。

彼の過去に迫るお話。

よければ是非に。



東から太陽が昇り始めた。

まだ春先。

寒くてベッドから出る気には毛頭ならないわけだ。

「薄情者だな、俺は。」

隣にいた奴にも聞こえるほどの大きさで、俺は唐突に呟いた。

「ん?」

先に起きていたらしく、布団から出てベッドの淵に腰掛けている彼が意味を問うた。

「こんな時だっていうのに、幸せだと思ってしまう。」

これまでの作戦で多くの仲間が死んだ。

昨日の掃討作戦も勝ちはしたが当然被害も出た。

そもそもこんな戦地、しかも前線に駆り出されているというのに。

幸せだなんて、俺は中々の薄情者だ。

「……ならば、俺も共犯だ。」

彼が、普段仕事では使うことのない優しい声で言った。

「……?」

「俺も幸せだと思ってる。」

目を細めてそう言った彼は、俺の髪を指で梳いた。

「……ディオ、髪触るの好きだよね。」

彼が俺と2人きりの時に俺の髪を触るのはよくあることだ。

「綺麗だからな、お前の髪。」

彼はそう言うと名残惜しそうに俺の頭から手を離して、腰を上げた。

「……時間か?」

サイドボードの時計を見ると、彼の部隊のブリーフィングが始まる1時間前だった。

「ああ、そうだ。」

彼の声が、先程とは違う、仕事で聞く声色になった。

その声にほっとするような残念なような。

「部隊長は大変だな。」

彼が部隊長に就任して3年が経つ。

特務部隊の隊長に22歳で就任する彼はやはり優秀なのだ。

「お前ほどじゃない。」

俺は2年前に作戦参謀補佐を狙撃部隊長と兼任することになった。

彼は自分は俺よりは多忙じゃない、と言ってきかないのだ。

そんなことないのに。

「俺は、」

「隈、出来てる。少し体重も落ちた。」

目の下に出来た隈を彼は親指でなぞった。

やはり、隠し事なぞ出来ない。

「っ……」

「何があった。」

眉間に皺を寄せて、彼は尋ねた。

「…何も。部隊長と参謀補佐と兼ねてるからね。ちょっと忙しいだけ。」

嘘はついていない、そう自己暗示をかける。

「……イル、」

彼は訝し気に俺の名を呼んだ。

「ディオは心配性だなあ、大丈夫だよ。」

隠し事は出来るだけこの男にはしたくない。

けれども、この隈の理由も、痩せた理由も今は話せない。

俺は自分の顔にいつもの笑みを張り付けることで精一杯だった。


***


彼の起床時間に合わせて起きると、自分の隊のブリーフィングまでかなりの余裕が出来る。

シャワーを浴び、朝食をとり、歯を磨いて作戦室へ向かう。

「ししょー!」

自分の部隊の作戦室に入るや否や、弟子が抱きついてきた。

いつの間にか、自分より背が高くなっている。

「こら、作戦室でその呼び方は禁止だって!」

言っても聞かないのはわかっている。

が、一応建前として抱き着いてる弟子の頭を小突いた。

「隊長にどつくのは、ヴェールくらいだろうなあ。」

周りの隊員がこの光景に笑う。

「だって……」

「だっても何もあるか!うちぐらいだよ。こんなにゆるいのは!」

陸軍狙撃部隊。

数多ある陸軍部隊の中で最も所属人数の少ない子の部隊は他の部隊に比べて部隊内の規律が厳しくない。

それは、お互いがお互いを信用しているからであり、無法地帯になることはないとわかりきっているからだ。

「それは隊長がゆるいからでしょ。」

「何弟子の所為にしてるの。」

また笑いが起こる。

こうして作戦室で笑いが起こるような環境で俺は仕事をしている。

この環境がたまらなく好きだ。

「ほらほら、ブリーフィングの時間ですよ。」

副隊長のロシュが騒いでいる隊員に声をかける。

これもお決まり。

ロシュは個性豊かな彼らをまとめるうちの隊のブレーキの役割を担ってくれる。

彼の存在が無法地帯になり得ない理由でもあるし、俺も含めた他の隊員たちも彼に絶大な信頼を寄せている。

彼の一声で作戦室の真ん中にあるデスクに隊員全員が集まった。

ブリーフィングの時間だ。

「指令書が出た。」

俺がそう言うと、全員の顔つきが変わる。

空気が一変した。

誰しもが、あの弟子でさえも戦闘態勢にスイッチが切り替わった。

「今回の作戦は敵の陣営を一つ潰す。いつもより少し大きめの指令だ。」

狙撃部隊は特務部隊の後方支援に回ることが多い。

白兵戦が強い我が軍では特務部隊が反乱軍の掃討を担うためだ。

「いつも通り特務部隊の援護の後、敵の白兵と、出来ればスナイパーを落とす。」

「出来れば?」

隊のムードメーカーであるジェイクが眉を寄せた。

「上は殺らないと責めるくせに。」

上層部はきっとそうするだろうなあ。

俺は肩をすくめた。

「仕方ないよ。老将どもは椅子にどっかり座るしか能がないんだから。」

そう言ったのはジェイクとバディを組んでいるブルースだ。

「まあ、いつも通りの任務だと思ってくれ。」

彼らの発言に苦笑しながら、そう言った。

「あまり気負って死なれても困る。うちは少数精鋭だからね。全員で生きて帰るぞ。」

そう言うと、全員の了解の意が聞こえた。


***


ブリーフィングの後、作戦室を出ると後ろから声をかけられた。

「コートス、」

声の主は俺がこの建物の中で会いたくない人物の1人だった。

「……ヘルマン中将。」

ジル・ヘルマン軍部参謀室首席参謀。

『幹部会』。

作戦参謀室の参謀たちのことを指し、作戦司令の次に権力を持つ連中のことだ。

中将はその『幹部会』の中で最も地位の高い位置に座っている。

「先日の参謀会議、ご苦労だった。」

「……恐れ入ります。」

参謀補佐をしている俺は参謀会議に出席し、戦闘作戦を組み立てる役割を担っている。

「お陰で昨日の掃討作戦は素晴らしい業績を上げた。」

「……存じています。」

知っている。

報告は上がっているのだが。

何が言いたいのだろう。

一人心の中でごちた。

「まるで敵がどのような動きをしているかが見えているようだった、との報告だ。」

「…何を仰りたいのかわからないのですが。」

嫌味を言いたいのか、探るような口調に思わず声のトーンが下がる。

昨日の掃討作戦は俺が立案した陣形をとった。

被害は出たが、反乱軍を壊滅まで追い込んだ。

一体何の不満があるというのか。

「いやいや、コートス少佐は参謀の素質がある、と思ってね。」

中将が歪に笑った。

その笑みに俺は一瞬、ぞくりとした。

「恐れ入ります。作戦の準備がありますので自分はこれで失礼いたします。」

「おお、引き止めてすまなかった。武運を祈ってるよ。」

歪な笑みのまま激励の句を述べると彼はゆっくりと自分の執務室の方角に歩を進めた。

「………くそが。」

俺は眉間に皺を寄せ、低い声で吐き捨てた。


以前に書いた話とイルが若干(だと思いますが)キャラが異なるのはきちんと理由があるし、それは今後書いていく次第です。

一人称とか、人ととのコミュニケーションの取り方とか注意してみてみるといいかもしれません。

トータル何字になるのかワクワクドキドキしています。

割と近いうちに続きは上げる予定ですのでよろしくお願いします。

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