6話 魔王、怒る!
重苦しい空気が魔王の部屋を支配していた。
レイグリッドとリベラが、椅子に腰をかけ肩
を落としている魔王の傍に寄り添っていた。
「オレが・・オレが死なせた・・ミリアを」
「シュベル様、ミリアは使命を全うしたのです。
ガルドの裏切りは、私達にも気づけなかった
事です。
シュベル様だけの責任ではありません」
レイグリッドは、静かな声で話し、続けた。
「それよりもガルドの動向です。ミリアが
掴んだ情報の検証をしませんと」
「レイグリッド様?ザリアスは何をしている
のです?」
リベラが、少しイラついた声でレイグリッド
に尋ねた。
「ザリアスはミリアの亡骸を探しに行く
手配をしている」
「許さねぇ・・ミリアを殺った奴は・・許さねぇ」
魔王は呻くように呟いた。
「シュベル様・・・・」
リベラが魔王の肩を摩った。
遠くから走ってくる足音が近づいてきた。
足音は魔王の部屋の前で止まると、ドアがノック
された。
「入れ」レイグリッドが言う
「し・・失礼します。今さっき、ノリッチ公国より
緊急が入りました。魔・・魔人が多数、公国に
攻め入ったと!」
魔王が顔を上げた。
「な・・なんだと!?」
「誰だ!?誰の指揮だ?」
レイグリッドが気色ばんで叫んだ。
「そ・・それが・・わ・・私の部下です!
申し訳ありません!!」
「ど・・どういう事だ?お前の軍は出動して
おらんだろう??」
レイグリッドが慌てた。
「はい!攻め入っているのは、新たに
魔人化された軍と 思われます!
その数10万!」
「な・・10万・・・・」
リベラが驚きで声を失った。
「さらに・・侵略軍は・・その・・魔王軍と
名乗っている模様です!!」
ザリアスは自分の部下がしでかしたことに、
身を焼かれるような思いだった。
「・・ガルドだな・・」
魔王は、話を聞きフラァっと立ち上がった。
「これだぁ、オレがシックリこなかったのは。
なんかお膳立てされているような・・・・
そっか・・なんか読めたぞ・・」
と魔王はブツブツとつぶやいた。
そしてザリアスを見て言った。
「ザリアス、お前を責めはしないよ。
責められるべきは オレだ。オレの責任だ。
わかったんだ」
「そのような事はございません!
私が軍を任されていながら・・
申し訳ございません!」
ザリアスは慌て、また跪いた。
「違うんだザリアス。
これは長い間に渡って綿密に練られた
計画なんだよ。
ふっ・・ガルドらしい・・」
魔王は苦笑いをした。
「ザリアス、公国はどれぐらいまで
持ちそうだ?」
「はい。現状を目の当たりにしておりませんが・・
恐らく10万の魔人となると、
5日もあれば陥落かと・・
そのあとは雪崩れ的に周辺国は墜ちると
思われます」
それを聞き魔王は考えを巡らせるように
空を仰いだ。
そして何か意を決したように、
レイグリッド、リベラ、ザリアスを
見まわして言った。
「レイグリッド!」
「ハッ!」
「お前は早急に、異転の準備をしろ!
どれくらいの時間で次の世界へ行けるのか
割り出せ。すぐにだ!
わかり次第、オレに報告しろ!」
「ハッ!」
「リベラ!」
「はい!シュベル様!」
「お前は、西の大陸と中央の大陸の国境あたりに
結界を張れ!中央から西に誰も入らせるな!
そして西からも中央に行かせるな!」
「畏まりました!」
「ザリアス!」
「ハッ!」
「お前は出撃できる軍を整えろ!
魔人を2~3万だ!
準備出来次第、オレに報告しろ!」
「シュベル様、2~3万でよろしいのですか?
向うは魔人が10万おりますが・・」
「なぁに、所詮、魔人化されたばかりの
人間か獣人だろ?それに・・」
魔王はニヤッと笑った。
「オレとお前も行くのさ」
ザリアスは自分の失態を恥じていた。
魔王の言葉を聞き、名誉挽回のチャンスをくれた
と思った。
「は・・はい!!喜んで御伴いたします!!」
各人は急ぎ部屋を出ていった。
あぁ、ミリア・・すまないことをしてしまった。
これはオレの失態だ。
ガルドの陰謀に気づかなかった、オレのミスだ。
しかし、まだ詳細がわからない。
ガルドの狙いはたぶん、この世界を
手に入れ、魔王として君臨することだ。
まず、間違いないだろう。
しかし、いくらなんでも10万の新魔人
だけでは、この世界は制圧できない。
ガルドの事だ、オレが出てくるのも
予想しているだろう。
アイツにしては、詰めが甘い。甘すぎるっ!
まだ何かある!情報が足りない!
オレは頭をフル回転させて考えていた。
すると・・・・
ん?・・なんだ?なんだこれは、何か感じる・・・
こ・・これはっ!
ミリアの魔力だ!弱々しいが、感じる!
生きているかも知れない!!
どうする・・・・そうだ!
オレは念話で赤竜・黒竜・青竜に語り掛けた。
「おい!お前ら、いるか?どこだ?」
「シュベル様、私は中央大陸上空におります」
とアカが答えた
「シュベル様、我は西の大陸国境付近におります」
と黒竜が答えた
「シュベル様、私は中央大陸の北側、海上です」
と青竜
「よし、アカ・アオ・クロ、お前たちミリアを
助けにいけ!!」
「生きておられましたか!!」クロが叫んだ。
「あぁっ!今、アイツの魔力を感じる。弱々しいが
生きていそうだ!!
恐らく、帝国王都から西へすぐの森だ!
すぐいけ!!そして連れて帰ってこい!」
「すぐに参ります!アオ!クロ!行こう!」
アカが声をかけた。
よしっ!生きていてくれ!!ミリア!
ーーーーーーー帝国王都---------
ガルドは目覚めた。
昨夜、魔力を使いきり、王宮の王の間に運ばれた。
まだ魔力は回復途中だった。
「運ばれたか・・覚えておらんな・・」
40万の魔人化は、もちろん経験がなかった。
ある程度のダメージは覚悟していたが、予想以上の
消耗だった。
「さすがに・・ここまでは読み切れてなかったわ・・」
ガルドは自嘲気味に笑った。
ドアが鳴った。ゲランが入ってきた。
「ガルド様、お加減はいかがですか?」
「あぁ・・今、目覚めたが、万全ではない。
状況はどうだ?」
「はい。予定通り、明け方に進軍しております。
5日もあれば、ノリッチは陥落しますでしょう」
「ゲラン、3日でやれ。昨晩、竜がこっちにいた。
始末はしたが、シュベルの命で来たと言っていた。
竜と連絡が途絶えた状態になればシュベルの事だ、
すぐに手を打ってくるぞ」
「は?そのようなことが・・?」
「まぁ、想定内だがな」
「それとガルド様、帝国は昨夜のウチにガルド様
の国となりましてございます」
「ふむ、手筈通りだな」
「こちらも既に貴族連中は取り込んでおりましたから」
「新魔王国の誕生だ。ゲランこの大陸全体もすぐに
手中に収めろ」
「はい。予定通り手は打ってございます」
「急げよ。注意を怠らずにな」
「御意」
ゲランは報告を終え、部屋から出ていった。
早く回復しなければ・・シュベルが出てきたら面倒だ。
ガルドは、シュベルの知性には一目置いていた。
しかし、やり方が気に入らなかった。
誇り高き魔族が低俗な人間に迎合する様は、見ていて
遣り切れなかった。
シュベルのやり方は合理的で効率的だ。
それは理解できるが、それでいいのか?・・と
常々、疑問を感じていたのだった。
歴代の魔王は凄かった。恐ろしくもあった。
人間などには決して情けなどかけなかった。
特に先代の魔王に、ガルドは目を掛けて
もらっていた。
先代の魔王には、魔族は全てに於いて優れている
と、常日頃から教えられていたのだった。
その想いもあり現状を素直に受け入れられなかった
ガルドは、やがて、これは我々のあるべき姿ではないと、
自身の結論が出した。
そして、ガルドは行動を起こす事にしたのだ。
ガルドは機会を伺いつつ計画を練っていった。
そしてついに、この世界でチャンスを見出した。
シュベルが東大陸を、不毛な地として、あまり
手を入れなかったのだ。それは放置に近かった。
都合のいいことに、この東大陸には欲にまみれた
人間どもが溢れていた。エサをちらつかせると、
すぐに飛びついてきた。
異転して間もなく、ガルドは密かに計画を
遂行し始めた。新たな魔王となるために。
再び、横たわり、ガルドは呟いた。
「さぁ、幕は上がったぞ?どうするシュベル?
魔王に相応しいのは私だということを
思い知るがいい。
クククククッ・・ゥハハハハハッ!!」
竜にミリアを探しに行かせ、しばらくすると
アカから念話が入った。
「シュベル様!見つけました!」
「そうか!生きているか?」
「はい。生きてはいますが、かなり衰弱しております」
「連れて帰れそうか?」
「今、アオが回復魔法をかけておりますので・・
少し動いてくれれば、連れて帰れます」
「そうか、頼んだぞ。そこは危険だ。急いでくれ」
「分かりました。急ぎ、連れて帰ります」
アカとの念話が終わったあと、すぐにレイグリッド
から念話が入った。
「シュベル様、2日です。2日で異転可能です」
「よし、進めてくれ。二日後に異転する」
「畏まりました」
続けて、ザリアスから念話が入った。
「シュベル様、出撃準備が完了いたしました。
待機します」
「わかった。ミリアが見つかった。生きてるぞ!
竜たちが連れて帰るまで待機しろ」
「おぉ!!そうでございますか!良かった・・
ホントに良かった・・」
ザリアスは、やはり責任を感じているんだろう、
かなりホッとした様子だな。
レイグリッドが部屋に戻ってきた。
「シュベル様!ミリアが生きているというのは!?」
「あぁ、衰弱が激しいようだが、竜たちが連れて
帰るだろう」
「おぉ・・良かった・・リベラにも知らせねば・・」
「うん。そうしてやってくれ」
レイグリッドが念話を送ると、かなり喜んでいた
らしく、すぐに魔王国に帰るとの事だった。
出迎えてやりたいのだろう。
「ところでレイグリッド、オレの思惑を話そう」
「はい。伺おうと思っておりました」
「ミリアが帰ってきて、話せる状態なら、より鮮明に
全貌が見えるだろうが、今は猶予が無い」
「はい」
「さっきも言ったように、取りあえずオレは
ザリアスと ノリッチ公国に飛んで、魔人を
始末する。
行ってみないとわからないが、もしその場に
ガルドが居たら、奴を魔王としてオレが始末する」
「ガルドを魔王として??どういう事でしょう?」
「あいつは自ら自分を魔王として、ぶち上げた。
この世界の人間は、西北にあるであろう魔王国が
東大陸に拠点を移したと思うだろう」
「ふむ。なるほど」
「まだ拠点がこの西大陸の奥にあるということを
知っているのは」
「西大陸の住人ですな・・」
「そう。だからリベラに大陸の国境近辺に結界を
張らせた。情報の遮断だ」
「なるほど!」
「今は東大陸にいるであろう、ガルドがこの世界での
魔王ということになっている。
本物の魔王、つまりオレの存在は、誰も知らない。
だから、奴を倒せば、魔王討伐になるって話さ」
「ほう!利用するのですな?」
「そゆこと」
「ただ一つ問題がある」
「それは?」
「魔人や魔物が魔王を倒すって不自然だろ?」
「そうですね。明らかに不自然です」
「だから、取りあえず先に10万の魔人どもは
一気に削る。
オレだけなら厳しいが、ザリアスと一緒なら
一気にいけるだろう。
あと、雑魚は魔人部隊に任せる」
「はい。ま、楽勝でしょうな」
「で、大本命のガルド魔王様と、たぶん一緒にいるで
あろう、側近のゲランとローゼリだが、こいつらは
オレたちが倒すと、マズイよな。表向き」
「そうですねぇ。。シュベル様の存在が取りざた
されますね。今まで表に出ておりませんから」
「そこでだ!レイグリッド。
オレは勇者と手を組むことにした!」
「は??い・・いまなんと仰いました?」
「オレとザリアスが、勇者、リリアちゃんの
パーティに入るのだよ!!
そして、リリアちゃんを援護して
魔王を討伐させるのだ!」
イヤイヤイヤ!素晴らしい!!!
我ながら、素晴らしい考えだ!!!
一石二鳥、いや三鳥の値打ちがある!!
表向きは勇者が魔王を討伐したことに
なるしぃ、オレとリリアちゃんは、ひょっとしたら
ひょっとするかもだしぃ♡
「そ・・それは、あまりにも・・」
「あまりにもなんだ?」
「勇者の前で、あの破壊的な魔力を使うのですか?
間違いなく怪しまれますぞ?」
「あのさ、仮にも勇者だぜ?そこそこ強いだろう。
だからオレは援護的にだな・・・・」
「シュベル様。ひょっとして今回の勇者が女性だから
ですか??それにリリアちゃんとは?」
あ、ヤッベ。口が滑った!
「いやいやいや・・そ・・そんな事は、な・無いぞ。
まぁ、リリアーヌとか言ってたから、
リリアちゃんかなーーー って思っただけだしぃ!」
「まぁ、いいです。シュベル様の女好きは今に
始まったことじゃございませんから・・」
「お・・おま、おおおお女好きって言うなぁ!
た・・ただぁ、ちょっと可愛い子が
好きっていうかぁ・・」
「よろしいです。その作戦、乗りましょう!
出来る限りのバックアップは致しますので」
「よし!話は決まりだな。あとは、ミリアが
帰ってから話を聞いてみよう。
あ、治癒魔法を使える奴いるか?」
「あ、そう言えば、以前保護したダークエルフに
治癒魔法の使い手がおりました」
「じゃぁ、その者をミリアが帰ってきたら連れてきて」
「畏まりました」
おぉおお!レイグリッド公認で、リリアちゃんと
パーティが組める!!
二人しかいないから、受け入れてくれるだろう!
ザリアスは、壁役できるし。
オレは、魔法使えるし。
つか、使えるどころじゃねぇな・・バレるかな。
まぁ、力をセーブすればいいことだし。
あとはリリアちゃんを探して、仲間に入れて
もらうだけだ!
ガルド、テメェーひでぇ奴だけど、役にたったぜ!
待ってろ!しっかりとテメェのクビを
貰いに行くからな!!
魔王は口元が緩むのを抑えきれなかった。