13話 魔王、走る!!
翌朝、出発の準備を整えているところに
チェスターがやってきた。
「おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」
「あぁ、チェスターさん、いい宿を取ってもらって
ゆっくりできたよ」
「それは良かった。昨夜は夜襲がありませんでした
から、我々も骨休めができました」
「もう、大丈夫じゃない?昼間倒したので全部
だったかもよ?」
「だとよろしいんですが。はっはっは」
チェスターは、一息ついて言う。
「ところで勇者様ご一行は、どちらに
向かわれるのですか?」
「我らは魔王を倒しにいくのだ、チェスター殿」
パメラが言った。
「な・・なんと、帝都に向かわれるのですか!?」
チェスターは驚いたようだった。
「ここからは、帝都に近付くにつれ、魔人兵が
増えて参ります。くれぐれもご注意くだされ」
とチェスターは踵を返すと
「我々が国境まで護衛いたします」
といった。
「いや、チェスターさん、いいよそこまで」
「いやいや、せめて国境までは、護衛をさせて
頂きたい。
我々は帰りの道中で、また魔人を探索するゆえ
お気遣いなく」
(あぁ~・・・目立つなぁ・・・大丈夫かな・・)
程なく、出発した。
チェスターの護衛は騎馬20騎ほどで馬車の
両サイドを固めた。
意外とスピードは速く、昼前には国境まで
辿り着いた。
そこで、改めて馬車を止め、別れの挨拶をした。
「またお寄りください!!歓迎いたします!!」
チェスターは大きな声で言い、見送ってくれた。
(なーーんか、いいな、こういうのも)
チェスター達は馬車の姿が見えなくなるまで、
佇んでいた。
シュベル達は、それから山岳地帯を抜け、
ハーフルダの森を抜けるつもりであったが、
森を抜ける前で、夜を迎えた。
「アカ、これ以上は今日はやめとこう」
「そうですね、あんまり見晴らしがいい処での
野営はマズイですからね」
「リリア、パメラ、この森を抜ける前で野営する」
「わかりました。」
「承知した」
テントを設置し、火をおこした。
パメラが森の中で、キノコとウサギを採取し、
それを夕飯とした。
食後、シュベルはすぐさま、結界を張った。
魔人や魔物が近づいても、気づかれないようにした。
火を囲み、それぞれお茶を飲みくつろいでいる
ところに、アヤメから念話が入った。
「シュベル様よろしいですか?」
「うん。きたか?」
「はい、海魔族のジウバ様より、本日、ガルドからの
接触があったとのことです」
「うん、状況は?」
「はい、海路での移動は6万とガルドらが
話していたようです」
「6万・・・てことは、残りは陸路か」
「はい、ジウバさまが、そのように聞こえたと」
「それで出港は?」
「明日だそうです」
「そうか。異転は?」
「ご指示通り、本日完了しました」
「そうか、ザリアスに出入り口の閉鎖を急がせろ」
「わかりました」
「リベラの方は?」
「二日後に種族の族長を集めるようです」
「わかった。また報告頼む」
「はい。お気をつけて」
シュベルはアヤメとの念話を切ると
アカに念話で話した。
「アカ、出港は明日だそうだ。数は6万
残りは陸路だ。明日からの道中の途中で
ぶつかるかもな」
「承知しました」
アカは念話を切ったあと、シュベルを見て
頷いた。
パメラが、声をあげる
「あぁ~しかし、昨日のケイクは
ウマかったなぁ・・」
「そうですね、また食べたいですねー」
リリアも、思い出すように話した。
「あんな、甘くて美味しいもの、妹にも
食べさせたかったなぁ・・」
パメラが寂しそうに呟いた。
「え?パメラ妹いるのか?」
とシュベルが聞くと
「パメラさんは、妹さんを探して村から出て、
旅に出たのです。その途中で私と出会ったんです」
とリリアが言った。
「探すって・・・どうしたんだ?」
シュベルが聞く
「あぁ・・・魔物にさらわれたのだ」
パメラが応えた
「え?魔物に?生きているのか?」
シュベルが聞く
「ふぅーー・・・正直、わからん。
しかし、ファデラ王国で見かけたという
情報があったものなぁ・・」
パメラはうつむき加減で言った。
「ふーん・・名前は?」
シュベルが聞いた
「うん。二コレという」
ブブーーーーーーーーーーッ!!
シュベルとアカは一斉に飲んでいたお茶を
吹き出した。
「ど・・どうしたのだ??大丈夫か?」
パメラが驚いて言った。
「ゲホゲホッ・ダ・・ダイジョブダ・・ゲホッ!」
「そ・・それで?」
シュベルの背中に冷たい汗が流れた。
「うん、我に似て、可愛い娘でなぁ、魔王にでも
捕まって、変な事をされたらと思うと・・」
「そ・・それはなーーーいッ!!!!」
シュベルが思わず大声を出した。
「ブゥっ!」と、アカがまた噴出した。
「どど・・どうした、ヨースケ殿、
今日はおかしいぞ??」
パメラがビックリして言った。
リリアも驚いていた。
「いい・・いや・・だだ・・大丈夫だ」
(どうりで、どっかで見た顔だと思った!
確かに、パメラと似てるわ!!)
アカから念話が入った
「クックック・・シュベル様、マズイ展開ですね。
気をつけましょう」
「わわ・・笑ってんじゃねーよ・・」
シュベルが念話で応じた。
「でで・・でさ、いつの話なんだ?そ
の連れていかれたってのは」
「もう、4年になるか・・」
(間違いない!!!!)
「ま・・まぁ、ひょっとしたら、
村にもう、帰ってるかも知れないぞ?」
シュベルが言った。
「うん。そうだといいが・・
もし、妹に手でもだしていたようなら!!
魔王のやつ、どうしてくれようっ!」
「そそ・・それはないいっ!!と、お・・思う」
(やめてくれー!・・勘弁してくれーー!
オレのイメージがっ!・・・・)
「でも、魔王ってそんなにヒドイ人なんですか?」
リリアが言った。
「それはもう!そうに決まってる!
顔はそうだな、例えればだ!
ゴブリンと豚を合わせたような醜い顔でだな、
毛むくじゃらで、年中発情しているような
奴に決まっている!!」
(ハイッ!年中発情は否定しませんっ!って
ちがーーーーーーーうッ!!!)
「そ・・そんな・・ちょと怖くなってきました」
リリアが真面目な顔で言う
(おい・・おい・・おーーいっ!!
し・・信じるなっ!)
「い・・・いやぁ、そこまではヒドク・・
なな・・ないんじゃないかなぁ・・ははは」
シュベルが力なく言った。
アカは、声を殺して、必死で笑いを堪えていた。
赤い竜が顔を真っ赤にして。
翌朝、森を抜けた一行は、先を急いだ。
陸路でファデラ王国を目指す、魔人兵と
かち合わないよう、主要な道は極力、
避けていった。
シュベルは前方を常に遠目で確認し、
魔人兵が現れ衝突が避けられない場合、
バリアを張り、突破するつもりでいた。
恐らく魔人兵の数は3~4万。
戦うには多すぎた。
「まだ、当分、大丈夫そうだな」
シュベルが警戒を緩め言った。
「そうですね、いくら早くても
まだここまでは
辿り着けないでしょう」
アカも、ホッとした様子で言った。
「この先の国はどこだ?」
「カピエナ王国です」
「できれば、城下に入りたいな。
野営は神経が磨り減る」
シュベルが言った。
「クスッ!それは昨日だけじゃ
ないんですか?」
アカが笑いを堪えながらいった。
「うっせ!テメー、楽しそうにしやがって・・」
「ははは、申し訳ありません」
「とにかく、城下に近くなったら、馬車を止めて
様子を探りに行くぞ」
「承知しました」
カピエナ王国は、侵略反対派の国であった。
ガルドが真っ先に潰しにかかるであろう所だった。
歴代の王は、伝統的に武人で、筋の通らない事を
極端に嫌う、良くも悪くも頑固な王族だった。
王が武人だけに、経済活動に疎く、国民の大半は
農業で生計を立てていた。
シュベルらは、城下から少し離れた廃村を見つけた。
そこに馬車を置き、城下の近くの森の陰から
様子を伺った。
「まだ明るいから、魔人らは動いてないのかな」
「そうですね、ここから見る限り人の出入りも
無いですし・・魔人に占拠されているかどうか、
わかりませんね」
「忍び込むか!」
シュベルが行こうとした。
するとパメラがシュベルの肩を抑え言った。
「待て。ヨースケ殿、忍び込むのは我に任せろ。
我は身が軽い」
「そ・・そうだな、森の民だもんな。わかった。
じゃ、城壁から上って、様子を伺ってくれ。
魔人がいたら、ここはパスだ」
「承知した」
パメラが行こうとする
「パメラ!」
「ん?どうした?」
「ムリすんなよ、一人で戦おうとするな!」
「あいわかった」
パメラはニコッと笑って、城壁へと行った。
カピエナの城下の城壁はあまり高くない。
伝統的な武人の王は、守るのをキライ、
打って出るほうが好みだった。
そのため、城門も騎馬隊が一斉に出れるよう、
広く取ってあった。
パメラは城壁を難なく越え、中に入っていった。
建物の屋根を伝い、監視塔の陰に隠れた。
監視塔には誰もいなかった。
「おかしい・・・人の気配がない、
魔人すらいないとは、どういうことだ?」
パメラは何個かの建物の中を調べた。
どの建物の中にも、人の気配は無かった。
「まるで『死の街』だ・・ここはなんか
マズイ気がする・・取りあえず戻ろう」
パメラが物陰から、建物の屋根に
上がろうとした。
その時、何者かが足を掴んだ!
「わっ!わぁーーッ!!!!」
「おい!なんか、なんか聞こえなかったか?」
シュベルがビクッとして言った。
「はい、パメラ殿の声かと」
アカが言う。
「ぱ・・パメラさん捕まったんでしょうか?」
リリアが心配そうに言う。
「ダメだ!行こう!」
とシュベルが動こうとした、その時
騎馬の音がした。
「ちょっとまて!」
シュベルは遠目でその騎馬を確認した。
騎馬は4騎、遥か向うから城下に向かっていた。
さらにシュベルは目を凝らした。
首の無い、黒騎士がカピエナに向かっていた。
「あ・・あれはっ!デュラハンだっ!!」
シュベルが言う。
「な・・なんですと!?
すると・・・ここはっ・・!」
アカが言う。
「アンデッドの巣窟だ!!」
シュベルが声を上げた
「あ・・アンデッド??って?」
リリアが聞いた。
「死霊だよ!物理攻撃は効かない!」
シュベルが応えた。
「え??えーーー!?」
リリアが、泣きそうな声を出した。
(まぁ、女子だからな、死霊は怖いだろ)
「しゅ・・ヨースケ様、どうします?」
アカが聞いてきた
「オレは聖魔法はもってねーし、光しかない
これで凌ぐしかねーな・・」
シュベルは少し考えたあと
「アカ、お前はリリアとここにいろ
物理攻撃が効かねーから、行っても無駄だ」
シュベルは言った。
「ヨースケ様・・でも!」
シュベルは念話に切り替えた
「アカ、ここは魔法しかない。
オレは魔力を上げる!
パメラには、わりぃけど、
一旦、気絶してもらうかも知れん。
とにかく助けないと、
パメラが死霊に取り込まれる!!」
「わかりました。リリア殿を
お守りしておきます」
「うん、頼んだ」
シュベルは念話を切って、城壁へと行った。
城壁はシュベルでも難なく越えられた。
シュベルは城壁を降り、そこで一気に
魔力を上げた。
「パメラ・・どこだ?・・・」
シュベルは聴力を上げた。パメラが気を
失っていても呼吸はあるはずだ、と考えた。
死霊は呼吸をしない。
全神経を聴力に集中した。すると微かな
呼吸の音が拾えた。
(まだ陽は高い。影をさけて明るい所を通ろう)
デュラハンが城壁内に帰るまで、
あまり時間がない。
シュベルは急いだ。
反応が近くなってきた。そして、ある建物の前で
シュベルは立ち止まった。
窓は全部、閉め切ってあった。建物内部は真っ暗だった。
(クソッ!魔法で建物をぶっ壊して、明かりを入れれ
ばなんてことないが、下手をしたらパメラが下敷き
になる。仕方ねー。行くか)
シュベルは建物の中に入った
かび臭い匂いが充満していた。
暗くて何も見えない。
シュベルは左手に『ライト』を魔法で灯した。
しばらく奥にいくと
パメラの反応を地下から感じた。
(チッ!お決まりの地下室かよ!んっとに!)
シュベルは地下への階段を見つけ降りて行った。
階段を降り、しばらく行くとドアがあった。
「ギギギィイイイ・・」
と音がする扉を開けると
そこに、パメラがグッタリと横たわっていた。
「おぉ!パメラ!パメラッ!!」
パメラの反応は無かった。
「生気を吸われたか・・仕方ない担ぐか」
シュベルは身体強化と
フライの魔法を自分に掛けた
「さ、行くぞ。パメラ」
シュベルはパメラを軽々と担いだ。
パメラの胸が背中に当たった。
(ウッワァーーッやっぱ、デケー!!
パフンパフンだぁ・・・ってそんなこと
言ってる場合じゃねーわ・・)
その時、一団のアンデッドが現れた。
スケルトンとマミーだった
一気に襲い掛かってきた。
「あーーもう!うっとうしい!!
これだからアンデッドはキライなんだよ!!」
シュベルは取りあえず、アンデッドを
魔法で倒しながら地下室から上がった。
ところが既に
そこには無数のアンデッドが蠢いていた。
「ダメだ、いちいち相手してらんねー・・」
シュベルは天井に向け、右手を上げた
そして、風魔法で、爆風をおこした。
シュルシュルゴォーーーーッ
ドッパーーーンッ!!!!!!
建物の一階から屋根まで大きな穴が開いた
一気に太陽の光が差し込んだ。
「ウゲェーーッ!!」「ウゴォーーッ」
アンデッドが次々と消えていった。
「よしっ!!」
シュベルはパメラを抱え走った!
建物を抜け、通りに出て
陽の当たる場所を選び、ダッシュで駆け抜けた。
走って、走って、走った!
やっとの思いで城門を抜け、ホッとしたとき、
向うからやってくる、デュラハンが
シュベルに気づき、
ウマのスピードを上げて追ってきた。
「や・・・やっべ!!」
シュベルは城門の左手にある、
森に向かって走った。
アカらが待っている所だ。
デュラハンらが方向を変え、追ってきた!
(チクショーッ!チクショー!チクショーッ!!
誰だ!魔王が聖魔法を使えないって
決めた奴わぁっ!!!!)
そして、ありったけの声を出し、アカとリリアに
向かって叫んだ。
「逃げろーーッ!!逃げろ――ッ!!!!!」
その叫び声を受け、状況を悟った
アカとリリアは、廃村に向かって一目散に
必死で走り出した。
デュラハンをまいて、4人は、ようやく
廃村に辿り着いた。
「ハァ・・ハァ・・ハァ・・
これで・・ハァハァ・・もう・・ダイジョブだ」
シュベルは廃屋の壁に背中をつけ腰を落とし
荒い呼吸を整えていた。
「さ・・さすがに、身体強化しても・・
人担いで走ったらキツイわ・・ハァハァ」
「ヨースケさん・・ハァハァ・・後ろから来たのに
私達を追い抜いていきましたよ?ハァハァ・・」
とリリアも息を切らしていた。
「あれだけ早く走れば、ハァハァ・・
それはキツイでしょう・・ハァハァ」
アカも息を切らしてた。
「だって・・ハァハァ・・オレ・・ハァハァ
オバケ・・怖ぇーんだもん・・・・」
「はぁ??」
アカとリリアがそう言い、シュベルの顔を見た。
「ククククッ・・アッハハハハハ!!!!」
3人は顔を見合わせ、大笑いをした。
「ところで、パメラさんは、大丈夫なんですか?」
リリアが聞いてきた。
「あぁ、生気を少し取られただけだ。
オレが魔力を流して、
回復魔法を掛ければ、戻るさ」
シュベルが答えた。
「今日は、ここで野営ですね」
アカが言った。
「仕方ない、あんなとこ、
二度と行きたくねーし」
やがて、手当をしたパメラが気が付き
一連の話をリリアがした。
パメラは笑いながらも、
シュベルに感謝したのであった。
帝都まで、あと3日の距離だった。




