その男、ジェイク
「んじゃ、さっそく腕を見せてもらうか」
ジェイクが管理を任された練習場に、歩夢は連れられてきていた。数字上の能力こそ知っているものの、現実に見てみたいとジェイクが言ったためだ。確かに態度こそぐうたらではあるものの、職務となれば真面目に取り組むというリカの評価は正しいようだ。
「はい、頑張りますっ!」
「頑張らなくてもいいが、自分の力はしっかり示してくれ」
頷き、心を集中させる。今は試合ではない、自分の持てる力を全力で示すだけだ。
火の魔術、水の魔術、土の魔術、風の魔術。それぞれを順番に行使していく。時間にして一分も経過していないが、緊張のせいもあって終わった時には歩夢の白い肌にはまるい汗がいくつも浮かんでいた。
「これで、終わりです」
「話にならんな」
一刀両断という言葉がこれほど似合うのはなかなかないだろうというくらい、ジェイクはあっさりと切り捨てた。
「ううう、ダメでしょうか?」
「ダメだな、お話にならん。データは概ね正確なものだが、お前の場合は特に正確だな。すべてにおいて平均以下か。成績で言うならオールD。勝てないわけだ」
にべもない言葉に歩夢は俯く。ジェイクの言っていることは歩夢の自己認識と一致していたが、それでも他人から改めて言われると心にダメージは負う。
「そうですよね、私なりに頑張ってきたつもりなんですけど……」
「無意味な努力は徒労というんだ。努力という表現は適当ではないな」
ジェイクはにべもない。思わず零れそうになる涙を歩夢はぐっとこらえた。泣いても仕方のないことだ。そもそも事実を言われただけで泣いてどうするのか。ジェイクに呆れられるだけだろう。
「泣いてもどうにならんということは理解しているようだな。思ったよりはマシなようだ」
ジェイクは泣きそうな顔をしている歩夢を見ても優しい言葉をかけるわけでもなく淡々と言った。しかしそれでいいのだと歩夢は思った。自分は傷をなめてほしいわけではない。目先の戦いに勝ちたい。これがすべてなのだから。