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非通知電話

新貝探偵社へようこそ。


ワタクシは所長の「新貝 団」と申します。

当探偵社では依頼の傍ら、ワタクシの趣味である奇っ怪な話を蒐集し、望まれる方に提供させて頂いております。



今宵、語りますは昨今流行の携帯電話に纏わるお話し。

とある事件の調査中、巡り会った数奇な少年のお話し。


では、暫しお耳を拝借――

 これは、僕が小学生の頃の話です。


 当時僕には、田中くんという同級生の友達がいました。保育園から二年生までクラスも同じで、家が近かったのもあり、良く一緒に遊んでいたのですが、三年生にあがった時のクラス替えで全二クラスしか無かったのに別れてします。

 最初は不運に思っていましたが、それぞれ新しいクラスで新しい友達が出来ると、廊下であったら話す程度で、次第に疎遠になっていきました。


 そして二年後、五年生の夏のある日、田中くんのお父さんが交通事故で亡くなってします。

 田中くんのお母さんは、夜遅くまで仕事をするようになり、田中くんは誰も居ない家で一人にするのは心配だという事と、何時でも母親である自分に連絡が出来る様、校長先生に相談して、四年生までだった児童クラブへの参加と携帯電話の所持を特別に許可してもらいました。

 今考えると、これが全ての発端だったのかもしれません。


 田中くんが児童クラブへ通うようになってから数ヶ月後、その時、私立中学の受験に向けクラブから五分ぐらいの場所にある学習塾に通っていていた僕は、それを知った田中くんのお母さんから「夜一人で帰ってくるのは危ない。家が近いから、帰りは一緒に帰って貰えないか。」と相談を受けました。

 僕の両親も一人より二人の方が安全だと賛成していましたし、僕も二十分ほどとは言え帰り道を一人で歩くのは寂しく感じていたので、喜んで了承しました。


 その翌日からは塾の終わった後、田中くんを迎えにクラブに寄ってから、二人で昨日見たアニメの事や流行のゲームのことなど、くだらないおしゃべりをしながら帰宅する生活になりました。

 しかし、そんな生活が数週間、一ヶ月と続くと、ふとした違和感を感じてしまいました。

 それは、クラスでもクラブでも他の児童の輪に入らず、ひとりぼっちで居る事です。

 これはつい最近知ったのですが、どうやら五年生にもなってクラブに通っている事と、本来持っていないはずの携帯電話を一人だけ持っていた事をやっかまれ、クラスではクラスメイトから、クラブではクラスメイトに指示された下級生から除け者にされていたそうです。

 当時の僕はそこまでは知りませんでしたが、ある日の帰り道、田中くんから「最近学校にもクラブにも行きたくない。だけど、休むとお母さんを心配させてしまう」と相談を受け、それならば気分転換にと、数年前に四つ年の離れた兄と一緒に作った秘密基地を紹介してしまったのです。


 その秘密基地は、街の中心に流れる河に掛かる鉄橋の真下にあった誰かが残して行った居住後を、捨てられていた段ボールや木材を使い自分達で改造したもので、道からは死角になり大人には見つからないし、直ぐ下を流れる流れの穏やかな河には魚も泳いでいたので、休みの日はよく釣りをしたり、大人に怒られないのを良いことに携帯ゲーム機を持ち込んで、日が暮れるまであれやこれやと楽しんだものです。

 そこに行くまでには、立ち入り禁止と書かれていたフェンスを乗り越えて行かなくてはなりませんでしたが、当時の僕らは身近な危険よりも冒険心を優先してしまい、そんな事にはお構いなしでした。


 そんな楽しい思い出の詰まった基地でしたが、兄は中学にあがり部活動に忙しくなってくると、急に大人ぶって「あそこは危険だから近づくな」と僕に言いつけるだけ言いつけ、見向きもしなくなってしまいました。

 その為、僕一人しか使う事がなくなってしまい、退屈さを感じていたので、兄と共に楽しかったあの輝く秘密基地を、田中くんと一緒に再び甦らせられるのではないか、という期待があってから紹介したというのも事実です。


 最初は田中くんも休みの日に一緒に遊びに行く程度だったのですが、次第に学校へ行くと家を出てから、学校にもクラブにも行かず、一日基地で過ごすようになってしまいました。

 今思うと、その時大人にその事実を告げていれば良かっただろうに、当時の僕は折角作った秘密基地が秘密でなくなってしまうのと、立ち入り禁止を無視している事は理解していたので、それについて怒られたくない、という身勝手な恐怖から言い出せずにいました。

 そんな罪悪感に苛まれながらも日々は過ぎていき、塾の終わりに僕がクラブへ迎えに行っていたのが、田中くんが僕の塾が終わった頃を見計らって、携帯電話で塾に電話をくれ、今から迎えに行く旨を伝え基地へ向かう、というやり取りに変化していきました。


 ここまでが、事件が起こるまでの話です。



 六年生にあがると、私立を受験する児童が多かった僕の小学校ではクラス替えが行われず、依然田中くんは一日基地で過ごす日々を繰り返していました。

 その時には、僕の両親も田中くんのお母さんも学校の先生も、田中くんが不登校になっているのは把握していましたが、その原因がクラスメイトから除け者にされるせいなどとは露とも思わずに、まだ父親を亡くしたことから立ち直れていないのだろうと考え、そっとしてあげて欲しいという田中くんのお母さんの要望で、僕を通じて経過を観察する状態になっていました。

 これは僕自身が両親と一緒に、田中くんのお母さんと学校の先生達に打ち明けられた内容なので、間違いないです。


 そして、事件が起こってしまいました。


 五月の連休が終わり、数日が過ぎた日の金曜日、季節外れの大雨が僕の街を襲いました。

 それはもう酷い大雨で、傘をさしてもズボンと靴はびしょびしょ、鞄の中の教科書は塗れてぐしゃぐしゃになるほど。

 学校は緊急的に午後の授業を中止し、保護者に迎えに着て貰う措置を執りました。

 田中くんお母さんはどうしても仕事を抜けて来れないという理由で、僕の母と学校に田中くんも一緒に引き取って貰えるよう連絡をしてあって学校には来ませんでした。

 僕の母も田中くんを伴うつもりで居ましたが、しかし、その日も田中くんは登校していません。

 こんな雨だから、そのまま自宅に居るのだろうと僕たちは考え、先生が田中くんの携帯電話に連絡を入れたところ、自宅に居るという返答だったので、田中くんのお母さんへの連絡は自分がしておくという先生にお礼を言って、僕は母の運転する車で帰宅しました。

 午後から雨脚が更に強まり、窓が割れるのではないかと思える程大粒の雨が叩き付け、ニュースでは様々な警報や注意報がひっきりなしに飛び交っていたのを、今でも覚えています。

 塾も休みになったので、リビングで母と一緒に会社に居る父の事を心配したり、部屋で宿題を済ませていたりしていましたが、夜の六時を過ぎた辺りでしょうか、雨のせいで電車が止まってしまい身動きの取れなくなった父から連絡を受け、母と一緒に隣の駅まで迎えに行く事になりました。


 支度を済ませて家を出ようとすると、電話がなりました。

 父からの連絡かもしれないから、と既に靴を履いていた母に指示され電話にでると、悪戯電話だったのか何度声を掛けても何も反応がありません。

 気味が悪かったので、母から教わっていた通り「今忙しいのでまた掛けてください。」と答えて切り、駅に向かいました。

 なので、田中くんが行方不明になっていたというのは、駅前のレストランで食事を終えた後、十時前に家へ帰ってきた時に田中くんのお母さんから掛かってきた電話で知りました。

 僕は秘密基地の事を含めて、思い当たる事を全て刑事さんに話ましたし、雨の上がった翌日、刑事さんと鉄橋下を見に行きましたが、基地は全て流されていて、何も残っていなかった。

 前日は上流のダムが危険水域に達していたので、昼過ぎに放水を行ったから、それで流されたのだろうという結論でしたし、実際下流から十六時三十一分で時計が止まった田中くんの携帯電話が見つかった事から、まず間違いないだろう、という事になりました。

 それ以降は一度も鉄橋下には行っていません。


 田中くんのお母さんは最後まで田中くんの生存を主張していましたが、事件のあらましは『家に居ると言って居た田中くんは実は基地に来ており、ダムの放水に飲まれ流されてしまった。死因は溺死。遺体はそのまま海に出てしまい、回収不可能』という結論で捜査が終了した事を受け、悲しみからご自宅で自殺したと聞きます。


 そして、その後です。毎日、夕方を過ぎた時間になると決まって無言電話が掛かってくる様になったのです。

 当時、僕の一家が住んでいたマンションは、田中くんのお母さんが週刊誌に伝えた「田中くんの死因は、危険なところに作った秘密基地に誘った僕のせいだ」と言う内容が掲載されてしまい、報道陣に囲まれていましたから、おもしろ半分の野次馬達の悪戯だろうと、相談した刑事さんからも引越を薦められたのと、報道陣に囲まれて母がノイローゼになっていたので、その年の冬に隣町の一軒家に引っ越す事になりました。

 それからは、無言電話もマスコミの追跡もピタリと無くなり、田中くんを迎えに行く様になる前と変わらない生活に戻りました。

 ただ、それを理由にするつもりはありませんが、受験の方は勉強なんてしていられる状態ではありませんでしたから、不合格に終わってしまい、今の公立中学校に通う事と成りました。



 問題が起き始めたのは約三ヶ月前、五月の事です。

今、僕たちの間ではスマートフォンを持っていることが一つの流行で、僕も頼み込んでやっと誕生日プレゼントの先取りという事で買って貰えました。

 嬉しくて直ぐに友達みんなと番号とLINEの交換して、寝るのも忘れて夢中になりました。

 ですが、使い始めて一週間もしないうちに、非通知番号から電話が掛かってくる様になったのです。

 最初は間違い電話かなと思って無視していたのですが、決まって平日夜の五時半から六時過ぎの間にかかってくるので、クラスメイトの誰かが連絡をくれているのかなと思い、その日LINEのグループでクラスメイトに確認をしてみましたが、誰も心当たりはありません。

 悪質な勧誘電話じゃないか、なんて声が出てくると、同小から入学して二年間クラスが一緒だった佐藤くんが、小学校時代のクラスメイトである金木さんのお父さんが携帯電話会社に勤めているからと、佐藤くんが作っていた小学校時代の六年一組グループに入れてくれました。

 佐藤くん、金木さんと僕は小学校時代クラスが違っていたので、金木さんとは初めてしゃべりましたが、金木さんは親身に相談に乗ってくれたし、お父さんにも聞いてくれる事を約束してくれて、すごく嬉しかったです。

 また、田中くんの除け者にしていたのが佐藤くんグループだったというのを知ったのも、その時でした。



 ところが、その翌日からです。僕のスマートフォンに掛かってきていた非通知の電話が、クラスメイトのところにも掛かってくる様になったのです。

 それも、数秒のずれはあっても、全員のところへ一斉にかかってきて、気味が悪いなんてものではありません。

 クラスの男子の中には、実際に受話してみた子も居ましたが、聞こえてくるのは小さなノイズだけだったそうです。


 一ヶ月も続くと女子達はパニックに陥り、自分の部屋に引きこもる子も出てくると、悪質な悪戯であると判断した学校が保護者と協力して大々的に調査をする事と成りました。

 勿論、事の発端となってしまった僕も先生に何回も話を聞かれたし、スマートフォンも調査の為に提出しましたが何もわからず、わかった事と言えば、警察に協力を仰ぎ、携帯電話会社に問い合わせて非通知先の番号を照会した結果、一年以上前に利用料の未払いにより強制解約をした番号だから、発信元として使われているのはあり得ないという事と、その番号を着信拒否しようとしてもエラーが発生して設定出来ない事、携帯電話を買い換えて新しい番号にしても掛かってくる事、という不可解な事だけ。

 流石の学校も警察もこれにはお手上げで、調査は継続するが、発信者が飽きて止めるまで無視するしかないという発表したぐらいです。


 ですが、発表から数日後、何時もと変わらず掛かってきた非通知着信に堪りかねた鈴木さんのお父さんが電話に出て「うちはお前と無関係だ!二度と掛けてくるな!」と怒鳴ったところ、鈴木さんのスマートフォンには翌日以降掛かってこなくなった、という報告があがりました。

 最初はみんな半信半疑でしたが、藁も掴む想いで何人かが試したところ、一人また一人と掛かってこなくなったという報告が増えるにつれ信憑性も増していき、ついに先週の火曜日、佐藤くんや他の男子の様に自分で試した子も居れば、親に頼んだ子も居ましたが、クラス全員が一斉に鈴木さんのお父さんと同じ様に答える事となりました。


 そして同じ日、この非通知着信事件は僕の中学のクラスだけで起こっていただけだと思っていたら、小学校時代の六年一組の子たちの間にも掛かっていたというのを、スマートフォンを警察に提出していた僕は、パソコンのメールで金木さんから教わりました。

 直ぐに鈴木さんのお父さんの話をしてあげると、とても喜んでくれたし、LINEグループに回してくれたそうです。

 僕もつい昨日のお昼に、学校からスマートフォンを帰して貰えたので、同じ方法を試した所です。


 結果としては、もう非通知着信はみんなのところに掛かって来ていないそうです。




 ただ・・・、クラスみんなで電話に出た翌日、学校のトイレで佐藤くんが、次の週、別の中学に進学していた佐藤くんグループの池田くんと太田くんが水泳の授業中に、神隠しに遭いました。

 佐藤くんの事で、こうして探偵さんに一緒に呼ばれていた金木さんとも、一昨日から連絡が取れていません。


 そして、今朝からずっと頭に響くんです。ヒタッ...ヒタッ...って、何かが近づいてくる足音が。

 なんとなく・・・なんとなく、解るんです・・・、ああきっと僕もどこかに行っちゃうんだなって。



 電話に出たとき確かに聞こえた。

 

 「今度は僕が迎えに行くよ。」


 って、田中くんの声がした――

この後、少年がどうなったのか、ですって?


フフッ、お客様、それを聞くの無粋というもの。

どうしても気になるのであれば、そうですね・・・然るべき機関にでも、確認を取られてみるのも宜しいでしょう。


但し、その際は是非窓口まで直接出向いた上で・・・。

電話、というものは確かに便利ですが、どこで誰が聞いているか解りません。



人というのは、往来にして己が声を聞き受けてくれる相手に寄るものです。

不要な縁を断ちたければ、それをはね除ける必要があります。つまり、早々に忘れてしまうのです。


もし、難しいのであれば、誰かから頂いた指輪を身につけておくと良いでしょう。

価値や形は問いません。貴方は一人ではないという契約の証を立てておく事をお薦めします。

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