第20話 1枚のお好み焼き(2)
「は、はい。分かりました」
嗚咽を漏らすお客様に俺は言葉を返すと慌てて鉄板に食用油を落とし、ステンレス製のフライ返しで器用に油をまんべんなく広げる。
まあ、広げるのだが。やはり自分の目の前で俯く、銀髪の麗しい女性……。
そう、貴女は本当に人なのですか? と僕が尋ねたくなる衝動に駆られる程麗しい容姿をした異国情緒溢れる銀髪……。金色の宝石色した瞳を持つ女性なのだが。もしも北欧神話のフレイヤ神……。美と豊穣の女神様が現実にアースガルズから降臨されれば。僕の目の前で悲しく俯く女性のような人なのだろうなぁ? と思うのと。
お客様は『誰かに似ているな? 一体誰だろう……?』とも僕は思いつつ、油を敷いた鉄板の上に【広島お好み焼き】の生地に使用するメリケン粉を水やだし、調味料でトロトロに溶いた記事をお玉で掬い、ポン! と熱くなっている鉄板の上に落とすと。
今度はお玉の後ろを器用に使用して平らに広げる……。
そうお菓子のクレープのように薄く広げて生地を素早く作れば。僕は今度は水切り笊……。ボールに入っている千切りキャベツ……。
僕がこのお店【さつき】を立ち上げた時は、自分の手で包丁を握り、怪我をしながら千切りにしていたのだけれど。
今は我が家に異世界からこの世界の女神……。家の看板娘になってくれたレビィアとリムが僕の側に居て支えてくれる。
特に家のリムは美と豊穣の女神様……。商売の女神様だから、家のお店の中にはリムを祀る小さな祠も飾っているし。あの祠に向けてお祈り、願をすればちゃんと夢や希望が叶うらしい。
家のお店の常連になってくれたお客様達が皆噂をしているぐらいだ。
自分のしている商い、会社経営が上手く軌道に乗り出したとか。会社の業務……。営業成績が上がったと喜んでくれて巷の噂になっているのと。
【さつき】の店の前──。駐車場スペースの横にも竜神のつがいの像が置かれた祠があるのだが。
あれはレビァイの祠でね。家のかみさんはね、闘神の女神でね……。悪しき者達……。魑魅魍魎を滅ぼす力や地霊を押さえ、正常に働かせ、厄除けもできる竜の女神様だから。レビィアに嘆願をされて小さな祠を建て──レビィアを祀りだしたら。
【さつき】を中心とした数キロでの交通事故や窃盗事件……。万引きも本当に急激に減ったのと。
暴走族の暴走行為……。爆音の方も以前のように聞こえなくなり、何か町や商店街の治安の方も良くなった気がするのだ! と僕が説明をしたところで話しを元に戻すけれど。
まあ、家のお店に《《看板娘様》》が異世界からきてくれた事で【さつき】の経営も一気に軌道に乗り、遅れていた銀行への支払いも追いつき、僕達家族の生活にもゆとりができたので。電動野菜切り機を俺は御妃様に購入してもらい。今は以前よりもスピーディーにキャベツの千切りができるようになった。
まあ、そのキャベツの千切りを【広島お好み焼き】の生地の上に盛るのだ──!
それも? 僕の広島の味……。郷土料理の【広島お好み焼き】の特徴であるキャベツの山盛り──!
それも家のお店の近所にある安芸の武田氏の居城があった武田山のような小さな山ではなくて、鳥取県は西の富士山と呼ばれ称えられている《《大山》》の山のようにボリューム感たっぷりに盛れば。




