昼餉(2)
温かい料理の香りが佐平次の鼻をくすぐった。茄子の焼き物、豆や豆腐を煮た物、赤蕪の漬けもの。豆腐は、佐平次が特にお気に入りの食べ物だった。
伽世が稗と粟の飯を椀によそってくれる。佐平次の分は粥になっている。
「なんと‥‥」
「お口にあうかどうか」
「さぞ手間であったろう」
佐平次が恐縮すると、伽世はちいさく微笑みながら「いいえ」と言った。加代は微笑むと、おもわず見とれてしまうほどの愛らしさがあった。
「どうなさいました」
伽世からつい目をはなせずにいると、伽世が不思議そうに訊いた。
「い‥‥いや、なんでも‥‥なんでもありません。しかし、うまそうだな」
「本当じゃ」
食事の匂いをかいだ途端、佐平次の腹が、なにかの動物みたいにぐうと鳴いた。さっきまで食欲を感じなかったのが嘘のようだった。7日もろくに飲み食いしていないのだから、食欲を感じないのがおかしかった。
佐平次には気がかりなことが山のようにあったが、それよりも先に必要なものがあった。
「頂こうではないか」
呪洞がさっそく箸をとる。
「うん」
「どうぞ、召し上がってください」
「佐平次はゆっくり食え、腹が受け付けんじゃろう」
「そうしよう」
夕餉が始まり、三人がそれぞれに食事を口に運んでいると、ゆっくりと料理を噛んでいた佐平次の箸がぴたりと止まった。
「どうなさいました?」伽世が気づいて尋ねた。「お口に合いませんか」
「ん‥‥いや‥‥」
佐平次は歯切れが悪い。
「お体の具合が?」
「うん‥‥あの‥‥」
「おっしゃってください」
伽世がきっぱりと言った。無口でおとなしそうな印象とは裏腹に、意外と気が強いのかもしれない。
「味がない」
「あら」
佐平次が気まずそうに言うと、伽世は目と口をまるくした。どうしよう、と指先でくちびるに触れて。
本当のところ、味がないどころではなかった。何を食べても、砂を噛むようで、紙を食むようなのだ。毒が入っていてもこうはなるまいと佐平次は思った。これが伽世の料理の腕前なのだろうか。
「そんなことあるまい」呪洞が訝しげに言った。「うまいぞ、これなんか」
そう言って、ちゃっかり佐平次の皿から漬物を取る。
「なにか他のものを‥‥‥」と、伽世は今から用意できるものがあるか考えているようだった。
「いや、いい」今度は佐平次がきっぱりと言った。「せんでくれ」
「でも‥‥」伽世はあからさまに不満げだ。
「せっかく伽世どのが拵えてくれたのだから、食う」
「体のせいではないのか」やりとりを聞いていた呪洞が言った。「まだ元どおりでないせいじゃろ」
「うん、きっとそうだろう」佐平次も強くうなずく。
「そうかしら‥‥」伽世は納得がいかないようだ。
「そうにちがいない。いや、すまなかった。せっかくの食事にケチをつけるようなことをして」
佐平次はそう言うと、残りの食事をいきおい良くかきこんだ。