昼餉(1)
妖・丹胡と対決し、重傷を負って川に転落したサムライ・苦土佐平次。呪洞と伽世に救出され、意識を取り戻した佐平次は自分の犯した罪を告白する。
「佐平次」呪洞がふいに名を呼んだ。「もしも、あの妖にまた出喰わしたらどうする」
「さあ‥‥どうするかな」佐平次は小首を傾げた。「できればもうお目にかかりたくないがね」
「このままで済ます気か」
嫌味っぽい口調の佐平次に呪洞は喰らいつく。
「何が言いたい」
佐平次は呪洞を睨みつけた。
「彼奴に勝てるか」
呪洞は挑むような目で佐平次を見ている。
「何を考えているんだ」
「わしは彼奴を捕らえたいと思っとる」
「なんだと‥‥‥」
佐平次は呆気にとられて言葉がでなかった。
「わしは彼奴めを生け捕りにしたいと思っとるのだ」
「あの妖を生け捕る?」
「そうじゃ」
佐平次が目を剥く。
「正気か? あんな化け物、とても敵わん」
「放っておけば、これからも町人に犠牲が出るぞ」
「あれは狂人が刃物を振り回しているのとなんら変わらん。話のできる相手だとでも思っているのか」
佐平次は声を荒げた。脳裏に一切の躊躇なしに襲いかかってくる丹胡の姿がまざまざと甦ってくる。
「町人のことなど俺の知ったことではない。世話になった。俺は出て行く」
佐平次は苛立ちを隠さずに言うと、剣を片手に立ち上がった。
「まあ、待て」呪洞がたしなめるように言った。「伽世どのが昼の支度をしておる。焦るな」
佐平次は腰をおろして、静かに言った。
「どうしてあの妖を生け捕りにしたいのだ」
佐平次がそう訊ねた時、廊下をやってくる軽い足音がした。
「そこが肝心なところじゃな」
呪洞が真剣な眼差しで言った。
「後で見せたいものがある。おぬしにもきっと関係がある」
「俺にも?」
「お邪魔しても構いませんか」と障子の向こうから伽世の声がした。「もちろん」と呪洞が鷹揚な調子で応える。
佐平次はそれ以上追求することはせずに、居住まいを正した。
お待たせしました、と着物をたすき掛けにした伽世が積み上げた膳を運び入れる。