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黄昏のG   作者: 裏山おもて
4章 眼と躰
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「ほほう。攻撃の目標対象が攻撃者自身になった、と?」

「はい。僕が見た限りは」


 メイジェンの問いに、ユウトはうなずいた。


 夜も深まり始めた時刻。

 王城の一角にある機動隊本部――その会議室で、ユウトとメリダはメイジェンに報告していた。


 地下取引の現場は東部隊の治安巡査班に任せていた。商会の幹部と北部隊の造反者たちは現行犯で捕まるだろうが、機動隊員個人が樹氷を買うことはできない。つまり彼らに樹氷を渡した者もいるはずだ。

 目を覚ましたら尋問が始まるだろう。ここからはユウトの出番はないだろうと判断したのだ。


 それより問題なのは、消えた少女のほう。

 すぐにメリダを起こしたユウトは、メリダを連れて内壁までやってきた。メイジェンに伝言してもらおうと思ったとき、ちょうどシンクが会議から戻ってきたのだ。

 そのまま三人で本部に向かった。メイジェンはまだ会議室に残っていて、事情を話すと眉間にしわを寄せた。


「……メリダリア新兵と言ったか。貴方はどうだ。そのとき自覚はあったのか?」

「い、いえ! 魔法を使っているときは、間違いなく相手に剣を向けていたつもりでした!」


 メリダが背筋を伸ばし敬礼をしつつ答えた。


「いま思い出すとどうだ」

「ユウト新兵の言う通り、自分に剣を向けていた記憶があります!」

「そうか。じつは私もそうだったのだ。そのときは相手の動きを止めたつもりだった。だが思い出せば、まったく逆のことをしてしまった記憶がある」

「つ、つまりどういうことでしょうか」

「残った記憶とその認識が正しいということは、幻覚や幻惑などではないだろう。催眠でもない。その瞬間に起こっている感覚だけを狂わせる魔法……そう思ったほうがいい」


 メイジェンは大きく嘆息した。


「厄介な魔法だな」


 どんなに強い魔法を持っていようと、自分に使ってしまっては相手を倒すもなにもない。

 メイジェンが困ったような顔をして、隣に立っているシンクに顔を向けた。


「シンクは聞いたことはないか? 我々人類が魔法を手にしてから百余年、様々な魔法を見てきたと思うが」

「すみません。存じ上げないです。ただ……」


 言葉を濁すシンク。


「ただ、なんだ?」

「……いえ。お気になさらずに」


 歯に物が挟まった言い方は珍しかった。

 メイジェンは短く「そうか」と答えると、部屋の時計に視線をやる。


「もう遅くなってしまったな。ふたりとも、即時の報告ありがとう。それと樹氷片取引の件についてもよくやってくれた。明日にでも口を割らせて共謀者もすべて釣り上げてやろう。あとで正当な報酬は用意しておく。……入隊一年目で実績を上げるとは将来有望だな」

「勿体ないお言葉! ありがとうございます!」


 メリダが深く頭を下げる。


「では、帰ってゆっくり休みたまえ」


 メイジェンが手を打って、解散となった。

 ユウトはシンクとメリダの三人で王城を後にして帰路についた。

 もう夜も半分過ぎた頃合いだろう。気温がまた一段と落ちていた。

 外套を身に巻きつけながら歩き、貴族街を通りすぎる。内壁を越えるとメリダは狭い路地を指さした。


「あたしの家は北街なんだ。ここからはひとりで帰るよ。今日はすまなかったなユウト」

「気にしないで。また明日、おやすみ」

「ああ、おやすみ」


 暗い路地に去っていくメリダ。

 その背中を見送ってからユウトたちも歩き出す。

 しばらく無言で歩いていたら、道半ばでぽつりとシンクがつぶやいた。


「……また危険なことをして」


 呆れているようだった。


「そんなつもりはなかったんだけどな。拘束するのは商会のひとだけのつもりだったし」

「そうそう予想通りに事態が動くと思ってるんですか? だとすれば、ユウトは甘いです。甘すぎます」


 シンクは怒っているようだった。


「なんのために私がずっとユウトのそばにいると思ってるんですか。様々な状況からあなたを守るためですよ。それなのに私がいない隙に危ないことに首突っ込んで、どれだけ心配すると思ってるんですか」

「ごめんごめん。今度から心配させないから」

「そういうことじゃありません。危険を避けてくださいってことです。それに、」


 じっとユウトの目を見つめてくる。


「心配くらい、させてください」


 唇をとがらせたシンクだった。


「わかったよ。気をつけるって」


 なんだか心配性の姉を持ったような気分だった。

 寒い夜道を体を寄せ合うように歩き、家に戻ってくる。

 さすがにこの時間は誰の気配もない。起きている家もなく、ときどき治安巡査班の隊員とすれ違うくらいだった。

 家まで戻ってきたとき、ふとシンクが眉をひそめた。


「あら? なにか届いてますね」

「あ、ほんとだ」


 家を出るときは気づかなかったが、ポストに封筒のようなものが挟まっていた。

 シンクがそれを手に取りつつ家の中に入る。

 ユウトはリビングで外套を脱ぐと、すぐにコップを取り出して水を注ぐ。長い間なにも飲んでいなかったから喉が渇いていた。水を一気に飲み干したとき、シンクに呼ばれて振り返った。


「これ、ユウト宛ですよ」

「僕に?」


 首をひねって手紙を受け取る。

 たしかに宛名はユウトになっていた。

 誰だろう。

 封筒を破る

 中に入っていたのは小さな部品のような金属と、小さな手紙のようなものだった。


「これは……」


 訝しむ。

 金属は黒く光る歯車だった。

 手に取った瞬間、予感のようなものが脳裏によぎる。

 慌てて手紙を開いた。



『 ユウトへ


  役立てなさい。


     Gより』



 何度も手紙を読み直す。

 短いその一文はあの時と同じだった。


「……G……」


 正体不明の何者かが、またユウトに送ってきた。

 今度は小さな歯車。

 シンクが隣で眉をひそめて覗いてくる。


「例の方ですね。なんでしょうか、これ」


 ユウトの手から歯車を取り、じっと眺める。

 なんとなくその使い道はわかったが、ユウトは正直にそれを使いたいとは思わなかった。むしろ捨ててしまいたいと思ってしまった。

 どこか遠くへ投げ捨ててしまいたい。

 だが、そんな勇気すら今のユウトにはなかった。


「……たぶん、こうするんだよ」


 シンクの手から取り戻して、その歯車を義手のギアの部分に嵌め込んだ。

 カチリ、と音がして綺麗に嵌めこまれた歯車。その瞬間なにかが義手のなかで蠢く気配がして、ギアのつまみがいつもと逆方向へと回った。


「『黑腕』が、何か言ってますね」


 シンクが耳を近づけた。

 たしかにユウトの耳にも、機械音のようなものが聞こえてくる。だがなんて言ってるのかうまく聞き取れない。そもそも音声というよりは作動音に近かった。言語ではないだろう。


「ちょっと離れててシンク」


 さすがに前のときみたいにいきなり衝撃を放つっことはないだろうが、念のため腕先を上に向けておく。

 しばらく上に向けていると、ようやく義手が静かになった。

 何度か曲げたり伸ばしたりしてみる。

 感覚は、いつもと変わらなかった。


「……どうなったのでしょう」

「わかんない」


 何かが起こったことはわかるが、何が変わったのかはまったくわからなかった。

 ただ、さすがにここで色々試そうとは思えなかった。

 壁や天井を壊したくない。


「明日の空いた時間、ちょっと外の世界で動かしてみるよ」

「そうですね。私も付き合います」


 ユウトは寝室へ入り、義手を外した。

 ベッドの枕元にあるテーブルに義手を置く。


「誰なんだ、君は……」


 姿も見せず、ただ物を贈ってくるだけ。

 顔の見えない『G』には憤りを覚えていた。できることなら顔を合わせてきちんと説明してほしい。こっちの動きは掴んでいるのだろうから。


「ほら、はやくシャワーを浴びてくださいユウト。寝る時間がなくなっちゃいますよ?」

「……ああ、わかったよ」


 深いため息をついて、ユウトは寝室から出て行った。



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