考えるな、感じろ!
「ジョセフさん、
今日は、宜しくお願いします。」
「おう、宜しくなロック、
気配の消し方とか、
獲物の捌き方をバッチリ教えてやるから、
期待して置けよ。」
「はい、楽しみです!」
村で猟人をしているジョセフは、
ザドス王国での、ご多分に漏れず元冒険者で、
一般に一流と言われる、
A級冒険者パーティーの『アイアン・エッジ』に所属して、
後衛で弓職を務めていたのだが、
アルビナ王国で、アダマンタイトの採取依頼を受けた際に、
運悪くメタルモンキーの群れと遭遇してしまって、
前衛職は全員死亡、
後衛職も多数が大怪我を負って、
冒険者を引退せざる負えなくなってしまったのであった。
ジョセフは、優秀な『隠密』スキルを持っていたので、
ただ一人軽傷で済んでいたのだが、
仲間と共に引退の道を選んだのである。
「ロック、
気配を上手に消す意味は、
獲物に気付かれずに近寄る為もあるが、
自分が敵わない相手と遭遇した際に、
気付かれずに遣り過ごすのが、生き残るコツなんだぞ。」
ジョセフは、言ある毎に、
村の冒険者を目指す若者たちに、こう告げて居り、
若者たちも、ジョセフの過去を知っているので、
皆、素直に了承していた。
「はい、自分の身を守る為にも、
頑張って覚えます。」
「良し、じゃあ森に入ってみるぞ。」
「分かりました。」
ロックは、ジョセフと一緒に、
村から、5キロ程離れた場所にある、
狩場の森へと入って行った。
「ロック、
まだ森の浅い場所だから良いが、
もう少し奥へ進んだら足音に注意するんだぞ。」
「ジョセフさんの足音が全然聞こえないのですが、
どうやって消しているんですか?」
見た所、履いてる靴はロックと変わらなそうなので、
何かしらのコツがあると睨んだロックは、
ジョセフに尋ねてみた。
「な~に、特別難しい事はしとらんぞ、
なるべく足のつま先で歩く様に心掛けて、
枝などを踏まなければ、山の土は軟らかいから、
足音は余り出ないぞ。」
「つま先歩きですか・・・」
ロックは、つま先で歩いてみる様に気を配ると、
確かに、足音が小さくなった様だが、
ジョセフと比べると、まだまだ大きく感じた。
「後は、足の置き場所なのかな?」
ロックは、ジョセフが踏んだ場所に、
自分の踏み出す足を重ねてみたところ、
驚く程に、足音が小さくなった。
「ほう、足の踏み位置に気が付いたか、
ロックは、中々(なかなか)優秀な様だな。」
「でも、ジョセフさんが、
どういう基準で、踏み場所を選んでいるかが分かりません。」
「それは、長年の勘てヤツだな、
ロックは洞察力が優れている様だから、
直ぐに分かる様になるさ。」
「そうなんですか、
早く分かる様になりたいです。」
しばらく、森を進んで行くと、
ジョセフが、手でロックに停まる様に指示して来た。
「?」
ジョセフが、森の中を指差しているのだが、
ロックには、何があるのか分からなかった。
すると、ジョセフは背負っていた弓を構えると、
先程、指差していた方向に矢を放ってから、
そちらに向かって走り出したので、
ロックも後に続いたのだが、
何かが、高い場所からドサッ!と落ちた様な音がして、
漸く、ロックの目にも首に矢が刺さった鳥が見えた。
「全然、分かりませんでした!?」
「ああ、野生の動物は気配を消すのが上手いからな、
目で見ようとしないで、
生き物が持っている存在感を感じ取れる様にならないと、
仕留めるのは難しいんだ。」
(存在感か・・・魔力の流れみたいなもんかな?)