ヒデブの街の救世主
「それじゃ、ベヒモスの素材の売却代金は、
暇を見て、また持って来ますんで」
「また来るっす!」
ハバラ村での予定を、ひと通り消化したロックとウィルは、
ヒデブの街へと帰る事になった。
「ああ、こんな田舎の村じゃ、
金の使い道なんて、それ程無いから、
いつでも良いぜ」
ドボルが、そう返事を返した。
「そうですか・・・そうだ!
この村での、お金の使い道が無いなら、
次に来る時に、ヒデブの街で何か買って来ましょうか?」
「『お前、パン買って来い!』ってヤツっすね」
「街で買って来て欲しい物か、何かあるかな?
あっ、そうだ!ロックのお蔭で畑の収穫量が増えそうだから、
近場の村なんかに売りに行く為の荷車と、それを引くロバかなんかが欲しいかな」
「荷車とロバですね、分かりました。」
「ちょ~カッコイイ、ロバを探すっす!」
「おう、頼むな」
そうして、アンラックに次に肉を届けに来る予定を告げたり、
宿屋の女将エイミンや、娘のヘブンに別れの挨拶を済ませてから、
ロックとウィルはハバラ村を後にしたのであった。
「ロック先輩、ハバラ村の人達って良い人ばかりっすね!」
「だろ!俺もヒデブの街まで向かう旅の途中で、
ちょっと寄っただけだったんだけど、
村の人達が良い人ばかりだったんで、何かしてやりたくなったんだよ」
「はい、分かるっす」
ヒデブの街へと戻った2人は、
まずは、冒険者ギルドでの用事を済ませる事とした。
「こんにちは~!」
「ちゃ~っす!」
ギルドの入り口のドアを入った2人は、
元気よく挨拶をする
「あら、ロック君とウィル君、
ハバラ村から帰って来たのね、お帰りなさい、
それから、バフンキノコの報酬の方は、
まだ王都でのオークションが終わって無いから、
もう少し待ってくれるかしら」
受付カウンターに座っていたモモエが、
2人に気付いて声を掛けた。
「ええ、キノコの報酬は、いつでも良いんですけど、
新たな案件が増えまして、
その事で、ちょっとモモエさんに、ご相談したいんですけど、
この前の会議室って、また使えますかね?」
「マル秘報告っす!」
「ロック君達の相談ってのが、ちょっと怖いんだけれど、
会議室だったら、この時間なら、いつも空いてるわよ」
「では、お願い出来ますか?」
「しゃ~っす!」
「ええ、話を聞くから、ついて来て」
ロックとウィルは、モモエの後について、
先日の会議室へと向かった。
「それで、私に相談したい事って何なの?」
会議室にロック達を招き入れてから、
ドアを施錠したモモエが、そう切り出した。
「ええ、まずは、これなんですけど、
ご覧になって頂けますか?」
ロックは、アイテムボックスから畑で採取した
『マアマアキキ草』を取り出すと、
会議室の机の上に乗せた。
「ええっ!?これって、もしかして『マアマアキキ草』なの?
こんな大きな葉が育つなんて、珍しいわね」
「ええ、それは、俺とウィルが畑で栽培したもんなんですよ」
「自分らが育てたっす」
「えっ!?君達、薬草の栽培に成功したの!?
それって、大発見じゃないのよ!」
「そうなんですけど、それを発表するのは勘弁して欲しいんですよ」
「何でよ?ザドス勲章ものの大発見じゃないの」
「モモエさんは、俺の冒険者登録をしてくれたんで知ってると思いますけど、
薬草を栽培するには、農夫の職業と土魔法を極めている者と、
ウィルぐらいの水魔法の使い手が必要なんですよ」
「ロック君の土魔法が凄いのは知っていたけど、
ウィル君の水魔法も凄いの?」
「多分、A級冒険者パーティーに入っても、
おかしくは無い程だと思います。」
「いや~、それ程でもっす!」
「それは、確かに無理ね、それ程の水魔法の使い手を、
農作業に従事させる訳には行かないだろうし、
ましてや、ロック君みたいな存在が他にも居るとは思えないしね・・・」
「そうなんですよね」
「無理っす!」
実際には、ロック程では無いものの、
ドボルも、かなり土魔法が使えるのだが、
その存在が明るみに出る事により、ドボルに迷惑が掛からない様にと、
内緒にする事をウィルと打ち合わせていた。
「分かったわ、余計な混乱を招き兼ねないから、
この事は、私達だけの秘密にしましょう。」
「そうしてくれると助かります。」
「あざ~っす!」
「それで、この『マアマアキキ草』なんだけど、
畑って事は、安定して供給が出来ると考えても良いのかしら?」
「ええ、それは大丈夫です。
それから、これを使って低級治療薬を造ると良質になる様ですね」
「それは、助かるわね、
ヒデブの街は、冒険者のルーキーが多いから、
低級治療薬が常に品薄なのよ」
「ええ、そうお聞きしていたんで、
『マアマアキキ草』を中心に栽培しているから、
品薄は解消出来ると思います。」
「無問題(も~まんたい)っす!」
「中心って事は、他にも育てているの?」
「はい、中級治療薬に使う『ナカナカキキ草』も、
少し育ててみています。」
「もしもの時の為に、そちらの方も、
少しギルドに融通して貰えるかしら?」
「ええ、自分で治療薬が造れる訳でも無いので、
それは、構いませんよ」
「どうぞ、どうぞっす」
「ありがとう助かるわ、
薬草の買取価格なんかは、また後で相談するとして、
さっき、ロック君が『まずは』って言ってたけど、
他にも、まだ何か相談する事があるの?」
「ええ、ある意味、今の問題よりもヘビーなのがありますね」
「ちょ~ヘビー級っす!」
「今の問題よりヘビーって・・・」




