農業革命
「日も暮れて来たし、そろそろ食堂に行くか」
「了解っす!」
宿の部屋で、一休みしていたロックとウィルは、
夕日が差し込む木戸を閉めて、
宿の隣にある『アンラク食堂』へ向かう事とした。
「ちょっと隣で食事してくるよ」
「しゃ~っす!」
「は~い!行ってらっしゃいませ」
宿の入り口にあるカウンターに居たヘブンに声を掛けると、
元気な返事が返ってくる
「こんばんは~」
「ちゃ~っす!」
「ああ、ロックさん、ウィル君、いらっしゃいませ、
直ぐに食事にするかい?」
「ドボルさんは、まだ来ていませんか?」
「ああ、まだだね」
「じゃあ、食事はドボルさんが来てからで、お願いします。
果実水を2つと、何か軽く摘まめるものを、
お願い出来ますか?」
「畏まりました。」
ロックとウィルは、注文を済ませると、
食堂の入り口から見え易いテーブルに、
腰を落ち着ける事にして、
まず、ロックが座ってから、
普通のイスでは、ウィルには大き過ぎるので、
いつもアイテムボックスに入れて持ち歩いている、
ウィル専用の、上げイスを、食堂のイスの上に乗せてあげた。
「あざ~っす!ロック先輩、あざ~っす!」
少しすると、果実水と軽食をトレイに乗せた
アンラックがやって来て、テーブルの上に乗せる
「お待たせしました。
こちら、果実水とポテラフライとなります。」
「ありがとう御座います。」
「あざ~っす!」
アンラックが厨房へと戻って行ったので、
ロックとウィルは、さっそく料理へと手を伸ばした。
「うん?このポテトフライ、
何か、独特の弾力と粘りがあって美味しいな」
「そうっすね、自分も、このポテラフライは大好物なんすよ」
「へ~、この辺で採れるイモなのか?」
「イモっすか?
ロック先輩の出身地では、イモって呼ぶんすか?」
「ああ、そうだぞ」
「そうなんすか、
ええ、ヒデブの街の近くの森でも採れるイモ(虫)っすよ」
「へ~、森で採れるって事は、野生種なんだな」
「そうっすね、養殖をしてるとは聞いた事が無いっす」
(養殖?栽培の言い間違いか?)
「よう!待たせたな」
ロックとウィルが、ポテラフライをバクバク食べながら待っていると、
漸く、畑仕事を終えたドボルがやって来た。
「いえ、俺達も来たばかりですよ」
「そうか、
おっ、ロックはポテラフライが食えるんだな、
俺は、どうも苦手でダメなんだよな」
「へ~、農家なのに苦手なんて残念ですね」
「お?おう」
その時、ドボルの来店に気付いたアンラックがやって来た。
「いらっしゃい、ドボルさん、
食事の方は、ロックさんから『グレートラビッツの香草焼き』を、
ご注文頂いてるんだけど、
飲み物と、お摘みは何にするかい?」
「そうだな~、エールとミキ豆にするかな」
「はいよ!」
ミキ豆とは、地球のエダ豆に似た形をしていて、
ただ、その一粒の大きさが5センチ程もあり、
4~5粒程入った房が、塩茹でにされて出される
少しすると、エールとミキ豆を、
トレイに乗せたアンラックがやって来て、
ドボルの前に置いた。
「そんじゃ、改めてカンパイと行くか?」
「はい」
「了解っす」
「では、良き友人との再会と出会いを祝して、
カンパ~イ!」
「「カンパ~イ!」」
取り敢えず、ドボルが喉を潤すのを待ってから、
お互いの近況報告が始まった。
「ロック達の、冒険者活動の方は順調に行ってるのか?」
「はい、お蔭様で、先日Dランクに成れました。」
「おいおい、ロックが、ヒデブの街へ行ってから、
まだ、そんなに経っていないのに、
もう、Dランクまで上がったのかよ、
そりゃ、順調以上だろ!」
「はい、運が良かったのと、
ウィルに手伝って貰ったのが大きいですね」
「自分なんて、まだまだっす!
ロック先輩の、努力と実力っすよ」
「だよな、運だけで、
こんなに早くD級なんて成れないよな」
「そうっすね」
「ドボルさんの方は、何か変わった事がありましたか?」
「俺の方は、特別、代わり映えがしない毎日を送っているな、
強いて言えば、例年より畑の出来栄えが良い事かな、
ロックが言ってた様に、なるべく毎日、
土魔法を使い切るのを心掛けて、
畑の土造りをしていたのが良かったのかな」
「だと思いますよ、
毎日、土魔法を使い切る事によって、
ドボルさんの、土魔法と農夫のレベルが上がるし、
畑の土の中に、わずかな魔力が残って、
作物の育ちも良くなりますからね」
「そうなのか?」
「ええ、どうやら、そうらしいんですよ、
畑の土の中に、クズ魔石に土魔法を付与したものを混ぜ込むと、
より効果的との、実験結果が出ていますので、
後で、アイテムボックスの中で死蔵されてる、
クズ魔石を差し上げますね」
「お、おう、
そりゃ、俺からすれば、大助かりだから良いんだけどよ、
ロックの方は、俺に教えちまっても良いのか?
土魔法の魔力を、畑の土に含ませると、
作物の成長が良くなるなんて、大発見だと思うぜ?」
「独占しても意味がある様な情報ではありませんし、
積極的に広めて、世界から食糧難が無くなった方が良いですよ、
それに多分、ベテランの農夫の方や、野菜作りの名人の方とかは、
何となく気付かれて居られる人も、居るんじゃないですかね」
「それで、何で技術として広まらないんだ?」
「それ程、大した事と思われていない場合や、
中には、技術を独占されたい方も、いらっしゃるのかも知れませんね」
「なる程な~」




