魔法訓練
「はっ、はっ、はっ、はっ、ふ~う。」
今日も、日課のクロスカントリーコースを使った
ランニングを終えたロックが一息吐いた。
最近では、2人の兄の他に、
父マックが選抜した村の子供たちも、
このコースを使って冒険者になる為の訓練を積んでいた。
後に、柔軟体操やクロスカントリーコースを使った訓練を、
ロック・メソッドと呼ぶ様になり、
この訓練によって実力を付けた村の若者たちが、
冒険者として活躍する様になった為に、
一地方の村なのに、
多くの有力な冒険者を輩出する事から、
『奇跡の村』と呼ばれる様になるのだが、
それは、まだ先の話である。
「う~ん、ランニングで基礎体力の訓練は積めるんだけど、
土魔法の方がレベルアップ出来ないんだよな~。」
偶に、村の畑仕事を手伝ったりするものの、
出来れば、毎日使い続けた方が、
土魔法が上達するのを分かっているロックとしては、
物足りなかった。
「でも、もう防護柵の内側は、
手を加え様が無いからな・・・」
ロックは、自分が造ったクロ・カンコースを眺めながら、
呟いた。
「そうだ!父さんに聞いてみよう。」
何かを思いついた様子のロックは、
父を探して自宅へと戻って行った。
「父さん、居る?」
自宅の玄関ドアを開けながら、
ロックは、家の中へと声を掛けた。
「うん?何だロック。」
「ああ、父さん、
家に居てくれて良かった。
父さんに相談があるんだけど、
土魔法の練習がしたいから、
今度は、防護柵の外側を走っても良いかな?」
「う~ん、柵の外側か・・・
まあ、ロックの土魔法の威力なら、
大概の魔獣は撃退出来るか・・・分かった!
許可は出すから、周りに十分に注意しながらやるんだぞ。」
「うん、アイテムボックスの中に岩球を、
沢山造って入れて置くよ。」
「魔獣に投げるのは良いが、
投げる方向には十分に注意を払うんだぞ、
間違っても村の方に向かって投げない様にな。」
「父さん、それはダチョウ的なフリで?」
「ちゃうわ!本当の意味でだ!」
父マックから許可を貰ったロックは、
早速、防護柵の外側を整地し始めた。
柵の内側を、やり始めた頃と違って、
土魔法のレベルが、かなり上がっているので、
整地はサクサク進んで行った。
一週間程が経過して、
村の防護柵の外側が50メートル幅ぐらいに、
キレイに整地された段階で、
父のマックは、ロックに声を掛けた。
「おい、ロック。」
「な~に、父さん?」
「どうせ土魔法を使うんなら、
村の周囲に、防護壁や濠を造れないか?」
「そうか!
その方が魔力を使いそうだね、
分かった。やってみるよ。」
ロックは、柵から2メートル程離れた部分から、
3メートル幅の濠を掘って行き、
掘り出した土を圧縮して固めながら、
柵の横に2メートル幅で積み上げて行った。
流石に、大量の魔力を消費する様で、
初日は、濠が深さ50センチ、
防護壁は高さ20センチ程であったが、
日に日に、ロックの土魔法が上達して行き、
一か月を経過した頃には、
濠の深さは10メートル、
防護壁の高さは5メートル程となっていた。
「ロック、これ以上、
濠を深くすると、転落の危険があるから、
川から水路を引いて、水を張ってくれるか。」
「うん、分かったよ父さん。」
ロックは、濠の表面に『硬化』の魔法を掛けて、
水が滲み込まなくすると、
近くの川から水路を造って来て、水を張った。
「ロック、あと防護壁なんだが、
上に人が上がっても大丈夫か?」
「うん、土を圧縮しながら積み上げたから、
人が登ったぐらいじゃビクともしないよ。」
ロックが、近くに落ちていた木の棒で、
防護壁を叩くと、カンカンと石を叩く様な音がした。
「じゃあ、壁の上から弓矢で攻撃出来る様に、
村から登れる様に階段を造ってくれるか。」
「うん、良いよ!」
ロックは、土魔法を使って階段を造り上げると、
父のマックと一緒に登ってみた。
「おおっ!流石に見晴らしが良いな。」
「そうだね!」
「しかし、端っこに手摺でも付けないと、
怖くて端に寄れんぞ、こりゃ。」
「今、造るよ、
え~と、『造形』」
ロックが魔法を唱えると、
高さ1メートル20センチ程の手摺が出来上がった。
「おおっ、早いな!
ロック、また土魔法の腕前が上達したみたいだな。」
「うん、毎日、
魔力が少なくなるまで使っていたからね、
魔力の操作も大分上達したよ。」
「そうか、それだけの土魔法が使えれば、
火魔法や風魔法とも遜色が無いな・・・
良し!ロック、明日から兄さん達と一緒に、
冒険者になる為の特訓を始めてみるか?」
「良いの、父さん!?」
「ああ、年齢的には、
ちょっと早い気もするけど、
体力面でも、魔法面でも問題無いだろ。」
「やった~!
ありがとう、父さん。」
戦闘スキルが無く、戦闘向きの魔法も無かったロックが、
漸く、冒険者になる為の一歩を踏み出せたのであった。