完成
「よし、薬草畑造りに適した土に仕上がったな、
じゃあ、畝を作る前に、
外堀の水が溜った様だから、先に水路を作ってしまうとするかな」
そう話すロックの眼前には、
粉砕された低木や草などと共に、
土魔法が付与された小さな魔石が混ぜ込まれた土が、
ホカホカと湯気を発てていた。
「ロック先輩!外堀からの水路っていうのは、
溝でも掘って来るんっすか?」
「いや、それだと防犯上の問題とか、
水気で土壁の劣化とかの問題が考えられるから、
あの、石を利用して地下水路を作るよ」
ロックの視線を追った
ウィルの目には、ロックが畑の土造りをする際に、
地中から掘り出した
大小様々な大きさの石が山積みされているのが見えた。
「なる程、本来なら捨てる手間が掛かる物を、
有効利用するって訳っすね」
「そういう事だな」
ロックは、地中に埋まっていた石が、
山積みされている場所へと移動すると、
土魔法を使って加工して行き、
直径が10センチ程の、石のパイプを作ると、
正方形の形をした畑の4方向に、
土の中を外堀に繋がる様に埋めて行き、
引き込んだ水が、均等に畑を潤す様に、
さらに細い石パイプを、畑の地中に張り巡らせて、
常に湿度が保たれる様に調整を施した。
「ウィル、どうだ?
畑全体に、均等に水が流れているかな?」
「そうっすね・・・
あそこら辺と、こっちの方が少ないっすかね」
「オッケ~、今、魔法で調節するよ『変形』っと、
どうだ?」
ロックは土魔法を使って、石パイプの径を調節する事によって、
微妙な水量を変更して行った。
「良いっすね、ばっちぐ~っす!」
「よ~し、じゃあ後は畝を作って、
まだ小さい薬草を植えてみるかな」
「あれ?ロック先輩、
小さい薬草なんて、持ってたんっすか?」
「ああ、この前、水妖精王様の所に行った時から、
今回の薬草畑造りを考えていたから、
小さめの薬草も、アイテムボックスに入れて置いたんだよ」
「流石っすね!ロック先輩」
ロックは、畑に畝を作って行くと、
ウィルにも手伝って貰って、
そこに、まだ小さな薬草を植えて行った。
「あれ?ロック先輩、
あの、端っこの1列に植えてあるのは、
なんすか?」
「ああ、あれは低級魔力回復薬の原料になる、
『カイフクシ草』だよ、
この前、あれも生えているのを見つけたから、
いくらか抜いて来て置いたんだ」
「あれも、育ったら売れるんっすか?」
「ああ、新人冒険者が多いヒデブの街では、
中級や上級よりも、低級の方が需要が多いからな」
「畝の方は、これで全部、植え終わったっすから、
終わりっすか?」
「ああ、これで暫くは、
薬草の成長を見守って行く様だな、
最初は細目に見ておいた方が良いだろうから、
ギルドのクエストは、近場のものしか受けられないな」
「そうっすね」
「それに、外堀と土壁のお蔭で、
魔獣や動物には、畑を荒らされる心配は無いけど、
他の冒険者に見つかると、薬草を抜かれちゃうかも知れないからな」
「ロック先輩、外堀に水を張ってあるんっすから、
水妖精王様に、お願いして結界を施して貰えば、
良いんじゃないんっすか?」
「えっ?そんな事が出来るのか?」
「はい、水溜りとかの、死に水じゃ無理なんっすけど、
ここの堀は、地下水脈から繋いだ水が湧いてるっすから、
水妖精王様のお力が、十分に及ぶっすよ」
「そうなのか、じゃあ、
ウィルから、水妖精王様に聞いてみてくれるか」
「良いっすよ」
ロックとウィルは、土壁に魔法で穴を開けて、
畑から外に出ると、
また元通りに、穴を塞いでおいた。
そして、外堀の淵に立つと、
ウィルが水の中を覗きこみながら、
水妖精王とのコンタクトを試みる、
「そんじゃ、お声掛けしてみるっすね、
『あ~、あ~、水妖精王様、聞こえるっすか、
こちらウィルっす。
ちょっと、お願いしたい事があるっすから、
聞こえたら応答願うっす。』
ちゃんと、聞こえたっすかね?」
『ウィル、お願いと言うのは何かえ?』
すると、直ぐに水の上に水妖精王が現われた。
「水妖精王様、先日は、ありがとう御座いました。
ウィルに頼んで、お呼び立て致しましたが、
お願いがあるのは、俺なんですよ、
実は、薬草を栽培する畑を造ったのですが、
他の冒険者に荒らされない様に、結界を施して頂けたらと思いまして」
『ほう、それは中々面白い試みだねぇ・・・
ふむ、水の状態も問題は無い様だし、造作も無い事さ、
『認むる事を禁ず』ほれ、出来たぞえ、
これで、ロックとウィル意外には、
この場所が認識出来ないさね』
「ありがとう御座います。水妖精王様、
また改めて、そちらの方に、
お礼に伺いますので宜しくお願いします。」
『ロックには、ウィルが世話になってるからねぇ、
このぐらいの事なら、何時でも頼るが良いぞえ』
水妖精王は、そう告げると、
水の中へとス~ッと消え去って行った。
「はい、ありがとう御座います。」
ロックは、水妖精王が消えていった堀に向かって、
礼を言いながら、頭を下げた。




