ケモ耳守り隊
「これだけ大きくて密閉された空間なら、
もしかして、やっほ~!」
ロックは、大きな声を出してみる
『やっほ~、っほ~、ほ~・・・』
「お~、やっぱり音が反響して、
木霊みたいに聞こえるな、
よ~し、静かな湖畔の森の影から♪」
『静かな湖畔の森の影から、影から、から・・・』
「もう起きちゃ如何とカッコウが鳴く♪」
『もう起きちゃ如何とカッコウ、カッコウ、カコカコカコ』
「何で、先に進むねん!」
『進むねん、ねん、ん・・・』
「・・・・・。」
ロックは、息を潜めて様子を窺っているが、
特別な変化は無かった。
「ただの、気の所為だったのかな?
もう、一度確かめてみるか、ある~日♪」
『ある~日、る~日、ひ・・・』
「森の中♪」
『森の中、の中、か・・・』
「熊さんに♪」
『熊さんに、さんに、に・・・』
「出~会った♪」
『ドナドナドナド~ナ、ド~ナ、ナ・・・』
「何でやねん!」
『何でやねん、やねん、ん・・・』
「い~や、もう騙されないぞ、
誰か、柱の裏辺りに隠れているだろ!」
『ギクッ、クッ、ッ・・・』
「ギクッって、口で言ってるじゃん・・・
もう、諦めて出て来たらどうだ」
『居ませんよ、せんよ、よ・・・』
「いやいや、もう受け答えしちゃってるから」
『しまった、まった、った、た・・・』
「もう、エコー掛ける必要無いでしょ」
「それも、そうじゃな」
柱の影から、白髪頭に、
同じく白くて長い髭を生やした
仙人みたいな、見た目のお爺さんが出て来た。
「お爺さん、いつも、
こんな悪戯をしてるんですか?」
「いやいや、ルーキーが来た時だけじゃな、
脱衣所に人影が見えたもんじゃから、
つい悪戯心が湧いての」
「ルーキーとは限らないんじゃないんですか?」
「こんな時間に風呂に入るのは、
ルーキーぐらいなもんじゃよ、
普通の冒険者だったら、
飲みに出掛けているか、
明日に備えて寝ているかじゃからの」
「なる程、それで分かったんですか」
「第一、この風呂場には、
音の反響で五月蠅く無い様に、
反響防止の結界が張り巡らされているからな、
普段から利用している連中なら、騙されんのじゃよ」
「へ~、そんな結界があるんですね」
「うむ、ここの女将に頼まれて、
ワシが結界を張ったんじゃよ」
「お爺さんは、魔法使いなんですか?」
「いや、一般的な魔法使いでは無くて、
魔導具を造っとるんじゃよ、
街で『ジョゼ爺ィのマジカルショップ』という
店を出して居るから、
何か魔導具を入用な時は顔を出してみるんじゃな、
ちなみに、店の名の『ジョゼ爺ィ』は、
ワシの名前のジョゼッペから来て居るんじゃよ」
「はい、その時はお世話になります。
申し遅れましたが、
俺は、ホワタ村から冒険者になる為に、
この街へ来たロックと言う者です。
ジョゼッペさん、今後とも宜しくお願いします。」
「ワシの事は、ジョゼ爺ィと呼べば良いぞ、
他のもんも、そう呼んどるからな、
それはそうと、ホワタ村のロックと申したか?
もしかして、ラックやリック達と・・・」
「はい、兄弟です。
俺が一番下の、5男坊になります。」
「ほう、そうかそうか、
あやつらの弟なら、将来の見込みは十分じゃな」
「ジョゼ爺ィさんは、兄達の事を良く知ってるんですか?」
「うむ、2人とも、
この街で、冒険者としての腕を上げてから、
巣立って行き居ったからな、
そうじゃ、お主はリックの冒険者パーティーの名を、
知って居るかの」
「ええ、確か『ケモ耳守り隊』ですよね」
「そうじゃ、今は、
そう名乗って居るが、
元々のパーティー名は『神々の黄昏』と、
名乗って居ったんじゃよ」
「へ~、そうなんですか」
(どう考えても、その方がマシだと思うんだが・・・)
「ところが、ある日の事じゃが、
仲間の故郷の村が、A級の魔獣に襲われての、
この街の冒険者ギルドにも救援要請が来たのじゃが、
お主も知っての通り、この村の冒険者は低級な者ばかりじゃ、
A級魔獣など、とてもじゃないが対処のしようが無かったんじゃよ、
しかし、リック達は仲間の故郷を見捨てる事が出来なかったんじゃな、
皆で、禁断の魔導具を身に付けると、
魔獣を討伐する為に、村へと向かいおった。」
「それで、魔獣は討伐出来たんですか?」
「うむ、かなりギリギリの戦いであったが、
魔導具のお蔭もあって、何とか倒せたんじゃ」
「先程、禁断の魔導具と仰っていましたが、
それは、どの様な物だったんですか?」
「その魔導具は、頭に装着するんだが、
数時間の間、攻撃力と防御力を1000増やすんじゃよ」
「それは凄いですね!?」
「しかし、恐るべき副作用があっての、
装着したが最後、一生ケモ耳しか愛せなくなって、
しまったのじゃ・・・」
「そんな、恐ろしい副作用が・・・」
「うむ、サルで実験した時は、
何とも無かったんじゃがな」
「あんたが造ったのかよ!
人の兄貴に、何してくれちゃってるの!?」




