マイナスイオン
「こんばんは~」
ロックは、冒険者ギルドの受付嬢である、
ミューニャーから紹介された
『ジゴクノカマ亭』を訪れていた。
「は~い、いらっしゃいませだね~」
宿の入り口を入ると、
右手にカウンターがあって、
そこへ、20代後半から30代前半ぐらいに見える、
色っぽい女性が立っていた。
「あの、冒険者ギルドで、
ミューニャーさんに伺って来た
新人冒険者のロックと申しますが、
空いてる、お部屋ってありますか?」
「あらあら、ご丁寧なご挨拶をどうもだね~
私は、この宿の女将でノンレムっていうんだね~
宜しくだね~
お部屋は、空いてるから泊まれるだね~
ミューニャーちゃんの、紹介ならサービスするだね~」
「ありがとう御座います。
では、取り敢えず1週間でお願いします。」
「1週間だと、朝晩の食事付きで35000ギルだね~
入浴料はサービスしとくね~」
「はい、ありがとう御座います。
じゃあ、これでお願いします。」
ロックは、大銀貨4枚40000ギルを手渡した。
「まいどありだね~
お釣りは5000ギルだね~」
女将のノンレムは、銀貨5枚を返して寄越した。
「はい、確かに、
そう言えば、こちらのお風呂は温泉と伺いましたが、
ホントでしょうか?」
「ホントだね~
宿で使う井戸を掘ろうとしたら、温泉が出たんだね~
でも、お風呂場を作る敷地が無かったから、
地下に作ったんだね~」
「えっ!?
地下に温泉ですか?
火山性のガスとか大丈夫なんですか?」
「お兄さん、若いのに詳しいね~
その辺は、壁や天井に付いてる魔石に、
空気清浄と光の魔法を付与してあるから、
大丈夫だね~」
「へ~、そうなんですか」
「源泉掛け流しで、
一日中いつでも入れるから楽しんでね~
それと、洗い布と、拭き布はいるかね~」
「それは、どういった物なんですか?」
「洗い布は、浄化の魔法が付与されてるから、
お湯を浸けて体を拭くと綺麗になるんだね~
拭き布は、乾燥の魔法が付与されているから、
髪や体を拭くと水分が乾くんだね~」
「へ~、それは便利そうですね、
でも、お高いんでしょ?」
「今なら、セットで3000ギルね~
30分以内にご購入の方に限って、
携帯に便利な、ハンカチサイズの、
洗い布と、拭き布が1枚ずつサービスで付いてくるね~」
「か、買います!」
ロックは、思わず銀貨3枚を出しながら言う
「まいどありだね~」
女将は、ロックに品物にサービス品を付けて、
手渡した。
「部屋に入る前に、旅の汚れを落としたいので、
さっそく、温泉に入っても良いですか?」
「それは構わないね~
でも、荷物は無いのかね~」
「ええ、この街で揃えようと考えていましたので、
荷物はありません」
「それなら良いね~
温泉は、あの階段を下りた先だね~
温泉から上がったら、
声を掛けてくれれば、部屋の鍵を渡すね~」
「分かりました。
それと、これは俺が気になるから、
お聞きしたいだけなんで、
お答えしたくなければ、
答えて頂かなくても構わないのですが、
女将さんて、魔族なんでしょうか?」
ロックは、初めてあった時から、
女将の頭に生えている、鬼の様な角が気になっていた。
「別に良いね~
確かに、私は魔族だね~
昔は敬遠されていたけど、今は普通に暮らして居るね~」
「そうなんですか、
魔族の方と、お会いするのは初めてだったんで、
それは、知らずに失礼しました。
そうすると、女将さんの言葉は特徴的に聞こえますが、
魔族の方言みたいなものでしょうか?」
「そんなもんだね~
ホントは『だっちゃ』とか付けたかったけど、
神の声がダメだって言ったんだね~
服だって、こんな着物じゃなくて、
虎皮のビキ「分かりました!もう、その辺で結構です!」
そうかね~、じゃあ温泉を楽しんでね~」
「はい!失礼します!」
ロックは、そそくさと地下温泉へと下る、
階段へ向かった。
「ふ~、危ないとこだった。
あのキャラには、根強い人気があるから、
ファンを敵に回すと怖いからな」
ロックは、階段を下りながら、
冷や汗を拭っている
「それにしても、長い階段だな、
踊り場で折り返しているけど、
地下5階分ぐらいは、降りてるんじゃないのか?
おっ、やっと入り口が見えて来たぞ」
階段を下まで降りると、
入り口が3つあって、
一番奥に『男湯』
一番手前に『女湯』
そして、中央には『ハーフYOU?』となっている
「・・・・・。」
ロックは、とくに触れずに、
一番奥の『男湯』の扉をガラガラと開けて、
中に入って行った。
「あの禁断の扉だけは、
間違って入る事が無い様に、
十分に注意をしないとイケないな、
さて、いざ地下温泉へ!」
服を脱いだロックは、温泉の入り口の扉を、
ガラガラガラと開けて中へと踏み入れた。
「マジか!?」
そこには、ロックの想像を絶する地下空間が広がっていた。
魔石の、やわらかい明かりに照らしだされた
その空間は、
全体としては、大きな岩を削り抜いた様な構造となって居り、
所々に、天井を支える様に岩の柱が聳え立っている、
岩天井の高さは5メートル程で、
広さは50畳程であろう、
そして、その3分の1が洗い場で、残りが岩風呂になっている、
その中でも一番目を引くのが、
岩壁の高い場所から、岩風呂の中へと注ぎ込んでいる、
温泉の滝だった
豊富な湯量を誇る温泉が、ドォドォと音を発てて、
岩風呂へと流れ落ちる、その姿は、
まさに、壮観の一言であった。
「この風呂だけでも、大当たりだよな、
こりゃ、ワレラ3バカデスさん達にも、
大感謝しなくちゃな」




