ウッカリ屋にて・・・
「おっ、ここかな、
『鍛冶師ウッカリーのウッカリ屋』
どうやら、間違いは無さそうだな」
ロックは、3バカと別れた後、
ウッカリーの店の場所を、
街の住民に、何度か尋ねながら、
やっと到着する事が出来た。
それというのも、ウッカリーの店は、
表通りから、何本も入った裏手にあり、
地元の住人でなければ、
通り過ぎてしまいそうな、
路地の奥に、店を構えていたからである。
「あの3バカ、
よく、こんな目立たない場所にある店を知ってたな」
ロックが見た所では、
店は年季が入っていて古ぼけているものの、
掃除の手は行き届いている様子で、
店の表には、チリ一つ落ちていなかった。
「確かに、地味な表構えだけど、
清潔感があって、良い雰囲気の店だな」
ロックが、店のドアを開けて、
中へ入って見ると、
ドアにぶら下げられたカウベルが、
カランカランと軽やかに音を発てた。
「いらっしゃい」
その音を聞き付けたのか、
店の奥から、背が低くガッチリとした体型の男が出て来る。
(おお!初ドワーフだ!)
「こんにちは、
武器と防具を見せて頂けますか」
「おう、うちは武器と防具の店じゃからな、
遠慮しないで、ジックリと見てって良いぞい、
にいちゃんは、見た所、ルーキーの様じゃが、
よく、ワシの店の場所が分かったのう」
「はい、本日、
ホワタ村から、この街に来て、
冒険者登録をしましたロックと申します。
こちらの、お店の事は、
同じ村のジョセフさんに、お聞きして居りましたので、
街の方達に、お尋ねしながら参りました。」
「何、ジョセフのヤツから聞いたじゃと?
あやつが、うちの店を紹介するぐらいなら、
ロックと言ったか?
お前は、中々に将来が有望な様じゃな、
ジョセフのヤツは、元気でやってるのかの?」
「はい、ジョセフさんは近隣で一番の猟師であり、
俺の狩りの師匠です。」
「そうか、あやつに仕込まれたなら、
ロックは、狩りの腕前もカナリの物じゃな、
それで、今日はどんな品物が欲しいんじゃ?」
「俺の戦闘スタイルは、
基本的に遠距離攻撃なんですが、
敵に接近された際には、近接戦闘も熟すので、
動き易い革鎧と、
ショートソードが欲しいんです。」
「ほう、若いヤツらは、
あれこれと目移りするのが普通なんじゃが、
ロックは、自分の戦闘スタイルを、
ちゃんと、イメージ出来ているんじゃな」
「ええ、ジョセフさんからは、
魔獣などと戦う時には、
どう動けば、自分が戦い易いかイメージしながら、
戦えと言われてましたので、
自然と、自分の向き不向きが分かる様になりました。」
「ほう、ジョセフのヤツめ、
ちゃんと、師匠をして居る様じゃな」
「ええ、沢山の事を教えて頂きました。」
「予算は、どのくらいなんじゃ?」
「500万ギルまでなら出せます。」
「随分と気前が良いんじゃな、
普通は、ルーキーの装備なら100万ギルも出せば、
十分に、上等な物が揃えられるぞい」
「ええ、子供の頃から、
今日という日に備えて、
狩った獲物の代金などを溜めていましたので、
まだまだルーキーですが、
最初だからこそ、装備にはシッカリした物をと思いまして」
「フォフォフォ、ジョセフは、
良い弟子を持った様じゃな、
その、初期装備に対しての発想は、
先輩冒険者から諭されて、初めて気が付くもんなのじゃがな」
「いえ、俺なんて、
まだまだ、これからなんで、
ウッカリーさんも、
俺の事で、何かお気付きになった点が御座いましたら、
ご指導ご鞭撻の程、宜しくお願いします。」
「ロックは、まだ若いのに、
話し方が硬いのう、
まるで、騎士の連中と話して居る様じゃわい」
「すいません、
職人の方と言うと、
どうしても、気難しい方が多いイメージですので、
俺も緊張してしまいました。」
「まあ、自分の仕事に誇りを持って居る者は、
そういうヤツも多い様じゃな、
しかし、所詮は一級品と言えども道具は道具じゃ、
使われてこそ、その真価を発揮出来るのだからな、
お客様商売という事を忘れては、
いつまでも、良い物を作り続ける事など出来まいてのう」
「はあ・・・そうですね、
確かに、ウッカリーさんが仰る通りだと思います。」
「フォフォフォ、ついつい語ってしまった様じゃな、
それで、ロックが欲しいのは、
革鎧とショートソードじゃったな、
革鎧は、一先ず置いておいて、
ショートソードは、これで、どうじゃ?」
ウッカリーは、棚に置いてあった
一振りの剣を手に取ると、
ロックへと、差し出した。
「抜いて見ても良いですか?」
ロックは、剣を受け取ってから、
ウッカリーに尋ねた。
「勿論、構わんぞい、
抜いて振って見るが良いぞい」
「では、失礼して」
ロックは、剣を鞘から抜くと、
まずは刃の部分を眺めて見た。
(これは、とても切れ味が良さそうだな、
それに、この美しい刃の造り方は、
もしかして・・・)
「ウッカリーさん、この剣の刃って、
中央の部分と、その両側の部分で、
別の金属が使われているんですか?」
「ほう、良く気が付いたのう、
確かに、その刃は、
中央の部分が『黒魔鋼』で、
それを、挟む様な形で、
普通の『魔鋼』を使こうて居るわい」




