ベスボル賛歌(さんか)
「ほらロック、ベスボルの競技場が見えて来たわよ」
ミリボルタ姫が馬車の窓から前方を指差しながら、そう告げる、
ビシバーシ侯爵の城へと転移魔導具で移動した一行は、
侯爵所有の馬車を借り受けてベスボル競技場へと向かっていた。
馬車にはミリボルタ姫の他、ジャンヌ副団長とロック、ウィルが同乗して居り、
第六騎士団員のトマソンとガルベス、
そして、侯爵配下の兵士4名は馬に乗って馬車の周囲を固めての移動となっている。
「へ~、あれがベスボルの競技場ですか、
あちらこちらに見事な石細工が施されて居て立派な建物ですね、
建物の造りを見て周るだけでも楽しめそうです。」
(野球場と言うよりは、ローマのコロシアムといった感じなんだな・・・)
「総石造りの建物に状態保存の魔法が掛けてあるみたいっすね」
「ええ、世界的に人気が高いベスボルの競技場には、
他の国からも沢山の、お客様がお見えになるから、
各国とも、その造りには技術の粋を凝らしているのよ」
「なる程、ある程度の見栄えは必要って訳ですね、
あの、壁に書かれている競技場の名前らしいのですけど、
ザドスの後に書かれているのは何とお読みするんですか?」
「ベスボルの元になる競技を伝えた勇者に因んで漢字で書かれてるみたいっすね」
「ああ、あれだったら『ザドス・棲多慈亜無』って読むのよ」
「暴走族かよ!」
「夜露死苦っす!」
「えっ?ボ、ボウソウ・・・何?」
「い、いえ、失礼しました。
大した事では御座いませんので、お聞き流し下さいませ。」
「挫例醐堵っす。」
「あらそうなの・・・まあ良いわ、
そろそろ、競技場の入り口に着くから降りる準備をした方が良いわよ」
「はい、分かりました。」
「了解っす!」
程無く、一行が乗った馬車は競技場の敷地の入り口に合った門を潜って、
競技場の入り口前で停車した。
「副団長、周囲の状況は大丈夫です。」
「こちらもオッケーです。」
「入り口付近も問題無し!」
「階段及び通路もクリアです!」
馬を降りて周囲の安全を確認していたトマソンらが馬車の中へと声を掛けると、
副団長のジャンヌが、まず馬車の扉を開けて降りて来た。
「うむ、皆ご苦労である、
ロック、ウィル、姫様より先に降りて両脇を固めてくれるか?」
「分かりました。」
「了解っす!」
続いてロックとウィルが降りてきて、馬車の降り口の両脇へと陣取った。
「うむ、では姫様お手をどうぞ」
ロックらの配置を確認したジャンヌが馬車の中へと声を掛けてから、
ミリボルタ姫へと手を差し伸べると、
「ええ、ありがとうジャンヌ」と返事を返したミリボルタ姫が、
その手を取って馬車から降りて来た。
「それでは、行きましょうか。」
「「「「「はい!姫様。」」」」」
一行は、ミリボルタ姫の周囲を固める様にして競技場へと移動を始める。
「うん?あれは何だろう?」
「あら、どうかしたの?ロック」
「ええ姫様、入り口の横に石碑の様な物が置いてあるんで、
何かなぁ・・・と思いまして」
「ああ、あれだったら『ベスボル賛歌』の石碑よ」
「『ベスボル賛歌』ですか?」
「ベスボルを讃えた歌っすね」
「ええ、ベスボルの黎明期に、
その振興に尽力を尽くされた方々が作詞・作曲を手掛けられていて、
毎試合7回の攻撃が終わった後に皆で歌うのよ」
「なる程、メジャーリーグの『私を野球に連れてって』みたいなもんか、
どれどれ、どんな内容の歌なんだろう・・・?」
ロックは、競技場の入り口が近付いて来たので、
その石碑へと目を凝らした。
『
ベスボル賛歌 作詞ミスター・アオヒゲ
作曲フラミンゴ・ワン
今日も飛ぶ飛ぶ~♪ (何が?)
俺にヤジが飛ぶ~♪ (ヤジか~い!)
俺はベスボル~プレイヤ~♪
命を懸けて戦うぞ~♪ (ホント?)
ホントに懸けるワケが無い~♪ (違うんか~い!)
あ~あ~ベスボル~プレイヤ~♪
今日の勝利を君に捧げよう~♪ (タダだしね~)
※カッコ内、合いの手。
』
「何じゃコリャ!?」
「ユニークな歌っすね」




