旅立ち
「それじゃあ、行って来ます。」
「ああロック、
お前は、戦闘向けのスキルや魔法が無い分、
最初は苦労するかも知れないが、
実力は一流冒険者と成れるものがあるんだから、
周囲の連中が、お前の実力に気付くまでの間は、
じっと辛抱するんだぞ」
「ロック、病気一つした事が無いアナタの事だから、
心配は要らないと思うのだけれど、
怪我などに気を付けて頑張るのよ」
「ああ、分かったよ、
父さん、母さん」
ロックも、漸く15歳となり、
いよいよホワタ村を出て、
冒険者にとって、始まりの街と呼ばれる、
『ヒデブの街』へと向かう日が訪れた。
取り敢えずは、
ヒデブの街にいる4男レックの元へと行って、
街での生活の仕方などを学ぶ予定である、
ちなみに他の兄弟達は、
長男ラックと、次男リックは冒険者として王都で活躍して居り、
3男ルックは冒険者パーティーの仲間と共に、
隣国のコウガ王国の冒険者ギルドにて、
クエストを熟す日々を過ごしているのであった。
「ああ、そうそう、
お弁当を作って置いたから、
持って行きなさい」
「ありがとう母さん」
ロックは、弁当を受け取るとアイテムボックスへと収納した。
その光景を見ていた
父マックが、思い出した様にロックに言う。
「しかし、お前のアイテムボックスはホント規格外だなぁ、
いくらでも品物を収納出来るし、
魔獣や獲物を解体する機能まで付いているんだからな、
それだけでも、冒険者として成功を約束された様なもんだぞ」
「うん、今日も手ぶらで旅立てるしね」
通常、村を出て生活するからには、
必要最低限な物だけに絞り込んでも、
そこそこ大きな荷物となるので、
馬車をチャーターする必要があるのだが、
ロックは手ぶらなので、
ヒデブの街には、徒歩で向かう事としていた。
「それから、本当に当座の生活費はいらないのか?」
「うん、行商の小父さんに買って貰った
魔獣の素材や肉の売り上げが、大分残っているし、
アイテムボックスの中には、
魔獣の素材や肉の他に、
金属のインゴットが大量に入っているからね」
行商で扱える品物の量など限られているので、
買い取って貰えなかった
魔獣の素材や肉は膨大な量が在庫となっていたし、
土魔法で、地中から抽出して錬成した
金・銀・鉄・銅・錫・鉛などのインゴット各種と、
メタルモンキーの素材であるアダマンタイトのインゴットが、
アイテムボックス内に収められていた。
そして、ロックは、
底なしの収納力や、自動解体機能の他にも、
自分のアイテムボックスに、
異常な性能がある事に最近気付いていた。
それは、旅立ちを前に、
ヒデブの街に行ったら、売って装備を整える為の、
在庫整理をしている最中に判明したのだが、
かなり前に収納した
傷物の毛皮が、高品質の毛皮に、
低品質の鉄インゴットが、高品質へと変化していたのだ
つまり、ロックのアイテムボックスに長い事入れて置くと、
品質が向上する様なのだ、
父に相談してみたところ、そんな能力は聞いた事が無いが、
絶対に他言しない様にと忠告された。
もし、その能力が貴族などにバレたら、
一生、牢獄などに幽閉されて、
品質向上マシーンとして働かされる危険があるからだ。
「じゃあ、今度こそホントに行って来ます。」
「おお、頑張れよ!」
「気を付けてね」
こうして、ロックは生まれ育ったホワタ村を後にした。
テクテクと街道を歩いていると、
近くの森の方から、知り合いが歩いて来るのに気が付いた。
「よう、ロック、
そう言えば、今日出るんだったな」
「ええ、ジョセフさんには大変お世話になりました。」
ロックの、狩りの師匠であるジョセフであった。
「な~に、大した事なんて教えてねえぞ、
狩りの腕前も、アッと言う間に追い越されたしな」
「いえ、ジョセフさんに、
狩りの基本を教えて頂いたからこそですよ、
あれが無かったら、今日の俺は居ませんでした。」
「お前は、昔っから謙虚だな、
ホワタ村では、それは美点だったんだが、
ヒデブの街に行って冒険者になったら、
もう少し偉そうな態度を取った方が良いぞ、
そうしなきゃ嘗められるからな」
「はい、気を付けます。」
「そうだ!
ロックは、ヒデブの街へ行ったら装備を整えるんだよな?」
「ええ、その積りです。」
「それなら、俺の知り合いのドワーフが、
ヒデブの街で店を出してるから行ってみろよ、
本来なら、始まりの街ヒデブの新人冒険者が使う様な、
安っぽい装備を作る腕前じゃねぇんだが、
新人こそ良い装備を使うべきなんだって言って、
あの街に住み続けているんだよ」
「それは、信頼出来そうな人ですね」
「ああ、商売人には向いていねぇがな」
「それで、何ていう名前の店なんですか?」
「ああ、『鍛冶師ウッカリーのウッカリ屋』だ。」
「そ、それは個性的な名前の店ですね、
ウッカリーっていうのは、その方の名前なんですか?」
「ああ、何か知らんが、
俺が知ってるドワーフ共は、
みんな、そんな名前をしているぜ」
「そうなんですか、
ドワーフ的には、『有り』の名前なんですかね?」
「そうなんだろうな」




