お約束
今日も今日とて、
ロックは一人で狩りに出ていた。
最近のロックは、豆粒ほどの大きさの鉄で出来た球を投げて、
ホロホロ鳥や、マッドボアを一発で仕留める事に凝っていた。
内容的には、態と自分の気配を察知させて、
魔獣が逃走に移ったのを見計らってから、
ピンポイントで急所を狙う訓練を積んで居たのであった。
ビシッ!頭を打ち抜かれたホロホロ鳥が、
草原にドサッと横たわった。
「ふ~、結構、的確に狙える様になったな。」
ロックは、ホロホロ鳥の死体に近づくと、
アイテムボックスに収納して、素材に解体した。
今日の戦果としては、
午後3時頃にして、ホロホロ鳥5羽と、マッドボア3匹、
そして、偶々(たまたま)現れたゴブリン3匹と、
オーク5匹だった。
「ちょっと早いけど、そろそろ村に帰ろうかな・・・ん?」
ロックの尋常じゃない超視力によって、
草原の遥か先にある田舎道に、
盗賊らしき者らに追われる馬車が見えた。
「おおっ!盗賊に追われる豪華な造りの馬車といえば、
貴族様にコネが出来るという、
異世界では定番のシュチュエーションではないか!」
ロックは、将来、冒険者に成れなかった場合を想定して、
他の職に就くのに、何らかの足しになるのではと考えて、
助けに向かう事とした。
毎朝のランニングによって鍛え上げられた健脚は、
全速力で走る馬車と、それを追い駆ける馬に跨った盗賊たちに、
みるみる追い着いて行く、
馬車の周りに、明らかに盗賊たちが乗っている馬とは違う、
豪華な造りの鞍を付けた空馬が走っている事から、
護衛の者たちは何らかの攻撃を加えられて落馬した様だ。
「うおぉぉぉぉぉ・・・ハッ!」
盗賊より先に馬車へ追い付いたロックは、
腕力を使って、馬車の屋根の上に飛び上がった。
「「キャ~!」」
「盗賊が、馬車に取り付いた様です!」
馬車の中から、少女らが上げたらしき悲鳴と、
御者に告げる女性の声が聞こえた。
「驚かせて済みません!
僕は、近くのホワタ村に住んで居る、
冒険者の卵でロックという者です!
今から、盗賊たちを倒すので、
このまま、馬車を走らせていて下さい!」
ロックは、馬車の中の人たちと、
御者に向かって大声で告げた。
「盗賊とはいえ、なるべく生け捕りにした方が良いよな、
もしかしたら懸賞金とか付いてるかも知れないしね。」
ロックは、アイテムボックスから泥団子を何個か取り出した。
これは、ジョセフから、
おとなしい魔獣を、愛玩用に生け捕りにするクエストがあると聞き、
魔獣を気絶させる為に作った物だ。
「はっ!はっ!はっ!ほい!」
「うがっ!」
「うおっ!」
「がっ!」
「うわ~!」
ロックが、泥団子をスナップスローでヒョイヒョイと放ると、
盗賊たちの頭にパカン!パカン!と当たって、
次々に落馬して行った。
「これで、最後だ!」
「ひょえ~!」
ロックが最後の泥団子を放ると、
馬車を追い駆けていた盗賊が居なくなった。
「御者さん、
盗賊は、もう居なくなったから、
馬車の速度を落としても良いですよ!」
「えっ!?ホントに?」
ロックの声を聞いて、
馬車の窓から女性が顔を出して、後方を確認した。
「どうやら本当みたいね、
ルシウスさん、馬車を停めてくれるかしら。」
御者はルシウスという名の様だ。
「畏まりました。」
女性の指示に従って、
馬車は徐々(じょじょ)に速度を落としてから停車した。
ガチャッ!と、馬車の扉が開くと、
中から、白い騎士らしい服を着込んだ女性が下りて来て、
馬車の周囲を警戒した。
周囲に危険が無いと判断したのか、
女性は、馬車の屋根に立つロックへと目を向けて来た。
「ご助力感謝する、
私はザドス王国で騎士を務めるジャンヌと申す者だ。」
ロックは、馬車の屋根からトン!と地面に降り立つと、
改めて自己紹介をした。
「先程も申しましたが、
近くのホワタ村で、冒険者に成る為の訓練を積んでいる、
ロックと申します。」
「ロック殿か、
冒険者に成る為の訓練と申したが、
ロック殿は、失礼だが何歳なのだ?」
13歳にして170を超える身長と、
立派な体格を持ったロックが、
成人に見えたらしいジャンヌが質問して来た。
「今年、13歳になりました。」
「なんと!まだ13歳なのか!?」
「はい、こんなデカい図体をして居りますが、
正真正銘の13歳です。」
「いやいや、これは失礼した。
今から、その体格ならば、ロック君は将来有望だな。」
13歳と聞いて、ロックの呼び方が、
殿から君へと変わった様だ。
「ありがとう御座います。」
「「「「お~い!」」」」
その時、後方から、
こちらへと声を掛けて来る者たちが現われたので、
ロックは警戒の視線を送ったのだが、
「ああ、ロック君、
彼らは仲間だから大丈夫だ。」との、
ジャンヌの言葉を聞いて、
その警戒を緩めた。
近付いて来る男たちを改めて見ると、
確かに、色違いだが、ジャンヌの服に似た服を、
皆、着込んでいた。
「道端に転がっていた盗賊たちを、
縛りながら来たんで時間が掛かってしまったが、
姫様たちは、ご無事か?」
「ああ、お二人とも、ご無事だ。」
「それにしても、
この馬車馬なら十分に逃げ切れると踏んでいたんだが、
盗賊どもを倒したのは、彼か?」
男は、ジャンヌの傍らに立つロックを見て、
そう判断した様だ。
「ええ、このロック君が、
皆、倒したのよ、
驚くなかれ、彼まだ13歳なんだって。」
「「「「13歳!?」」」」
「やっぱり、みんな驚くわよね、
並みの新人騎士より、立派な体格しているものね。」
「ああ、まったくだ。」
「それどころか、相当の使い手と見たぞ。」
「うちに欲しい逸材だな。」
「団長に進言して、
騎士団にスカウトした方が良いんじゃないか。」
「ありがたい、お話ですが、
僕は騎士団に入る事が出来ないんですよ。」




