メタモン
「ヤアッ!」
ロックの振るった剣が、
ドシュ!と音を発てて、
オークの首を切り飛ばした。
「よ~し、近接戦闘も大丈夫みたいだな。」
「はい、ジョセフさん。」
ロックは、ジョセフの指示で、
現れた3匹のオークの内、
2匹を魔法で倒して、
1匹との近接戦闘に望んだのだ。
「じゃあ、次はゴブリン2匹と・・・何!?」
「ジョセフさん、どうしたんで・・・うっ!?」
「気付いたか?ロック。」
「はい、何か大きいのが来るみたいですね。」
「気配からすると、単体みたいだが、
一応、そこの木の陰に隠れて様子を見るとしよう。」
「はい。」
ロックとジョセフが、木の陰に隠れて、
気配の主が現われると思われる方向の森を見ていると、
身の丈3メートル以上はあると思われる、
銀色の体を持ったゴリラの様な魔獣が現われた。
「何でヤツが、こんな場所に居るんだ。」
ジョセフが声を殺しながら呟いた。
「ジョセフさん、あの魔獣をご存じなんですか?」
ロックも、同じく声を殺しながら、
ジョセフへ尋ねた。
「あいつが、メタルモンキーだよ。
あいつらはアルビナ王国の山間部に集団で生息しているから、
本来、ザドス王国に1匹で居る筈が無い魔獣なんだ。
何か強力な魔獣にでも追われて、
はぐれメタルモンキーになったのか?」
「あれが・・・」
メタルモンキーと言えば、
ジョセフが所属していた
A級冒険者パーティー『アイアン・エッジ』を、
解散へと追い込んだ魔獣だ。
「あいつには打撃も魔法も効かないから、
とっとと逃げるぞ。」
「分かりました。」
ロックとジョセフが、
気配を殺しながら撤退しようとしたところ、
思わぬハプニングが2人を見舞った。
「「「ギギ~ッ!」」」
2人が撤退しようとした方向から、
3匹のゴブリンが現われたのだ。
「くそっ!こんな時に!」
「ウホッ!ウホッ!」
「ジョセフさん!
メタルモンキーにも気付かれてしまいました!」
鳴き声が聞こえたので、
ロックが、そちらの方を見ると、
メタルモンキーが、こちらの方を見ながら、
ドコドコと胸を叩いてドラミングしていた。
「ゴブリンを倒しながら、逃げるしか無いのか!?」
「ジョセフさん、俺に考えがあるので、
ゴブリンを、お願い出来ますか?」
「大丈夫なのか?ロック。」
「はい、試してみる価値はあると思います。」
「分かった。
ゴブリン共は、俺に任せろ!」
「お願いします!」
ロックは、メタルモンキーに向かって走りながら、
アイテムボックスから岩球を取り出した。
「よ~し、久し振りに、
父さんに禁止されていた全力投球を使うぜ!」
「ウホウホウホ!」
メタルモンキーは、
人間の子供が自分にダメージを与えられる訳が無いので、
余裕を持ってノッシノッシと歩いて来ていた。
大きく振りかぶったロックは、
メタルモンキーに向かって岩球を投擲した。
「行っけ~!」
シュ~ッと音を発しながらロックモンキーへ向かった岩球は、
バカ~ン!と大きな音を発てて、
その頭へと命中した。
「どうだ!?」
ロックの目には、
そのまま、仁王立ちしているメタルモンキーが入って来た。
「くそっ!駄目だったか・・・」
ロックが諦めの声を上げた一瞬の後、
メタルモンキーが白目を剥いてズズ~ン!と、
倒れ込んだ。
「メタルモンキーを気絶させたのか!?
でかしたぞロック、今の内に逃げるぞ!」
ゴブリンを片付けたジョセフが、やって来て告げる。
「ちょっと試してみたいから待ってくれるかな、
『ロッククラッド!』」
ロックが土魔法の呪文を唱えると、
メタルモンキーの頭部が岩で覆われた。
「「・・・・・。」」
ロックとジョセフが様子を見ていると、
メタルモンキーがビクンビクンと痙攣し始めて、
10分程したらピタリと動かなくなった。
「死んだのかな?」
「アイテムボックスに入れてみたらどうだ?」
「そうか!『収納』」
アイテムボックスには、生き物は収納出来ないので、
死んでいるのか判断するのに使えると考えたのだ。
すると、メタルモンキーがシュッ!と消え去った。
「おお!無事に討伐したみたいだな、
まさか、メタルモンキーを酸欠にして倒せるとは、
思いもしなかったな、
お前は、ホントに大したヤツだよ!ロック。」
「メタルモンキーと言えども生き物なんだから、
呼吸は普通にしていると思ったんだ。
尤も、気絶していたから土魔法が使えただけであって、
動いている相手には使えないけどね・・・」
「気絶させたのもロックじゃないか、
俺は、メタルモンキーに攻撃が通ったのを始めて見たぜ。」
「父さんから、
普段は危ないから使わない様にって言われている、
全力投球を使ってやっとだからね、
どんだけ硬い体をしてるんだよホント・・・」
「ロック、メタルモンキーの素材って何なんだ?」
「ああ、そうか、
『解体』っと・・・えっ!?」
「どうしたんだロック?」
「これが出て来たんだ。」
ロックは、アイテムボックスから、
大きな金属のインゴットを取り出すと、
地面にズシン!と置いた。
「これは・・・
もしかしてアダマンタイトか!?」
「うん、アイテムボックスには、
そう表示されていたよ。」
「メタルモンキーの素材がアダマンタイトとはな、
それも、こんなに大きなインゴットなら、
どれだけの値が付くか分からんぞ。」
「じゃあ、僕たち金持ちになったんだね。」
「何を言ってるんだ?
メタルモンキーを倒したのはロックなんだから、
金持ちになるのはロックだけだろ。」
「ジョセフさんが背後を守ってくれていたから、
メタルモンキーに集中出来たんだもん、
2人の戦果で間違い無いでしょ?」
「ハハハ、お前は大したヤツだな、
その年で、もう物の道理ってヤツを理解していやがる、
確かに、一般的な冒険者パーティーなんかじゃ、
戦果は山分けが当たり前なんだが、
今回は、お前が全部取って良いぞ、
こう見えて、俺は元A級冒険者パーティーに居たから、
金には困っていないし、
俺が、メタルモンキーから、どうやって逃げるかを考えていた時に、
お前は、どうやって倒すかを考えていたんだからな。」
「でもそれじゃ・・・」
「じゃあ、こうしよう!
そのアダマンタイトは、
俺が、お前の将来に対しての先行投資をしたんだ、
将来、お前が大物になったら利子を付けて返してくれれば良いのさ。」
「分かりました!
絶対、損はさせませんよ!」
ロックは、ジョセフが自分に全部受け取らせる為に、
こう言っているのは分かっていたが、
敢えて指摘をせずに、受け取っておく事とした。




