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ギガンテスのスター  作者: シュウ
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超高校級

高校2年生の、

岩田いたわ 硬太郎こうたろうの名前は全国区ぜんこくくだ。


高校野球の名門校として、

全国にその名も高き、『私立 TPP学園高等学校』に置いて、

1年生よりエースピッチャーを務め、

その、身長2メートル超のガッチリとした

恵まれた体格より繰り出される160キロにも及ぶ剛球は、

日本の西の方で行われる、

高校野球の全国大会に出場した際、

夏・春と続けて準優勝という記録と記憶を、

全国の高校野球ファンに残した。


優勝を逃したものの、

その活躍は見事の一言であり、

チームの敗戦も、彼の責任によるもので無かった事から、

返って準優勝に終わった事が、

彼の事を、人々の記憶に強く印象付ける結果となった。


スポーツ新聞各社は、彼の事を『超高校級』と形容して、

2年生にも関わらず、

1年以上も先の、プロ野球ドラフト会議にて複数の球団から、

1位指名を受けるであろうと記事にされていた。


そして、この夏、

ある理由から、出場があやぶまれた

地元の地区予選大会に無事に出場を果たし、

順調に勝ち上がって、

今日の決勝で勝利を納めれば、

2度目の全国大会の出場が決まるのであった。


「んじゃ、母ちゃん、

行って来るぜ~。」

自宅の、玄関のドアを開けながら、

硬太郎は母親に声を掛けた。


昨日までは、学校の合宿所に泊まり込んでの、

合宿を行っていたTPP学園であったが、

決勝戦を前にして、選手たちをリラックスさせようとこころみた監督が、

自宅への帰宅を許可したのであった。


監督の試みは成功して、

硬太郎は、母親の料理を腹一杯食べて、

自分の部屋で、ゆっくりと休んだ事によって、

最高のコンディションで決勝の試合にのぞめる様だ。


「行ってらっしゃい、硬太郎。

球場には、後でお父さんと向かうからね。」

「お兄ちゃん、頑張ってね~!」

母親と、5つ年下の妹が、

玄関まで、見送りに出て来た。


「うん、分かったよ母ちゃん。

ミウ、全国大会が決まったら、

お前も、一緒に連れてってやるからな。」


「ワ~イ!ワ~イ!」


「じゃあね!」

硬太郎は、2人に言葉を掛けてから、

大きなスポーツバックを背負うと、

体慣らしに軽くジョギングをしながら、

集合場所へと向かった。



「今日は、こっちから行くかな。」

しばらく、集合場所に向かってジョギングをしていた硬太郎だが、

集合時間より、かなり早く着きそうだったので、

時間の調整を兼ねて、少し遠回りとなる、公園の中を通って行く事にした。


「お~、気持ち良いな。」

公園の遊歩道は、両脇に植えられた木々が濃く影を落としていて、

薄っすらと汗を掻いている硬太郎には、心地が良かった。


「うん?」

もう少しで公園の出口に差し掛かるといった辺りで、

硬太郎の目に、

妹のミウと同じ年回りぐらいの少女が、

トイプードルらしき白い小型犬を追いかけて、

公園の出口から、車の通りが多い道路へと、

飛び出しそうになっているのが入って来た。


「危ねぇ!」

硬太郎は、背負っていたバックを放り出すと、

少女の方へと走り出した。


あっと言う間に少女に追いついた硬太郎は、

「俺に任せろ!」と、少女に告げると、

そのまま、少女を追い越して、

小型犬へと向かった。


道路に小型犬が飛び出す寸前、

硬太郎は何とか捕まえて抱え込んだが、

いきおいが殺せずに、

そのまま道路へと転がり出てしまった。


運悪く、大型のトラックが道路を走って来ており、

硬太郎は、全身に強烈な衝撃を受けた。


薄れ行く意識の中で、

硬太郎は、自分の腕の中を見ながらつぶやいた。

「何だ・・・

犬じゃなくて、コンビニ袋じゃん・・・」



あの世と、この世の間に広がる、

狭間はざまの空間と呼ばれる場所に声が響いた。

『お目覚めなさい、ザンネンな人よ。』


硬太郎は、誰かが自分に呼びかけているのを感じた。

(ザンネンな人って、俺の事か?)


『そうです、岩田 硬太郎さん、

私が、話し掛けているのは、あなたですよ。』


(あれ?俺って今、しゃべったっけ?)


『神である私にとって、

言葉は、さほど重要ではありません、

あなたが頭の中で考えれば、私へと伝わるのです。』


(おお~!さすが神様、

やっぱすげぇな~、

神様に会ってるって事は、俺は、やっぱり死んだのか。)


『はい、あなたはトラックにねられて亡くなりました。』


(ところで神様、

何で、俺がザンネンなんだ?)


『あなたは、特別な意識していなかったでしょうが、

この地球に置いて、

あなたは、かなりザンネンな星の下に生まれ付いて居りました。』


(そうか?俺的には結構恵まれていたって思うがな・・・)


『あなたは、物心付いた頃から野球に打ち込んで来ましたが、

所属したチームが優勝した事がありましたか?』


(そう言えば、小学生の時も、中学生の時も、

全国大会決勝までは行けるけど、いつも準優勝だったな・・・)


『高校に入ってからは、どうでしたか?』


(去年の夏の全国決勝は、

1点勝っていたのに、最終回に味方のエラーが6個続いての、

逆転負けだったな・・・)


『次の春は如何いかがでしょうか?』


(決勝戦の前日に、OBが差し入れてくれたタコヤキに皆があたって、

医者の反対を押し切って、無理やり出場したは良いけど、

試合中に、上から下から噴射ふんしゃ大惨事だいさんじが起こって、

史上初しじょうはつの、中継中に延々と『しばらくお待ち下さい。』が流れるはめになった。)


しばらくの間、ゲーピーピー学園と呼ばれてましたね。』


(でも、今回の地区予選だって、

地元の新聞には『あんな事件を起こして、いけシャーシャーと出場するTPP学園を、

あなたは理解できるか?』とか書かれていたけど、

無事に出場を果たして、ここまで勝ち上がれていたじゃん。)


『この場合は、返って勝ち上がる方がザンネンと言えます。

全国大会に出たら、何て言われるか分かったものでは、

ありませんからね。』


(でも、結局は、こうして事故で死んじゃったんだから、

全国大会には出られなかったじゃん。)


『それは、ザンネンな人を救い出す神である私『ザンネンしん』が、

あなたを救い出す為に、コンビニ袋を小型犬に見せたからですわ。』


(はい?)


『私が、あなたを死へと導いたのです。』


(ふざけんな!このヤロー!

俺を、今すぐ元に戻しやがれってんだ!)


『ザンネン神である私に、過分な期待をして頂いても困ります。

人を生き返らせる程の力があれば、

あなたを、殺す事無く救えていますからね。』


(何を、他人事みたいに言ってんだ!)


『あんまり、そうカッカカッカとしますと、

血圧が上がりますよ。』


(俺、もう死んでるだろ!)


『そこで、お詫びと言っては何ですが、

あなたに一つご提案があります。』


(何だ?)


『このまま地球で、あなたが生まれ変わったとしても、

ザンネンの宿命は断ち切れません、

そこで、ご提案なのですが、

地球では無い、別の世界に生まれてみませんか?』


(そうすれば、運命が変わるのか?)


『はい、別の世界へと渡る際に、

運命はリセットされますので、変わりますね。』


(そうか・・・

残った家族の事とか心配だけど、

また俺で生き返れないって言うなら、

地球に生まれても仕方が無いもんな・・・

分かったよ、違う世界に生まれ変わるよ。)


『毎度あり~!』


(ちょっと待て、毎度ありって何だ?)


『あっ、しまっ・・・

そ、そう、今のはただの言葉のアヤですよ。』


(お前、今、『しまった』って言いかけただろ。)


『い、いえ、言ってませんよ、

あなたの聞き違いでは、ないんですか?

別に、あなたの死と、異世界送りのノルマには、

何の関係も無いと、ここに宣言いたしましょう。』


(異世界送りのノルマ?)


『あっ、そ、それでは、

早速さっそく、あなたを異世界シエラザードへと送る事としましょう。

次の人生はつつがなく送れる事をお祈り致します。

さ~よ~う~な~ら~!』


(おっ、おい!ちょっと待て!

ザンネン神!おい!コラッ!)

狭間の空間にあった硬太郎の意識は、

ス~ッと消え去って行った。

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