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九話

今回、女性への暴力描写(?)が出てきますので苦手な方はご注意。

(1) 

 イーニド達が見守る中、腰を抜かしているゾーラの元へマドンナは大股でゆっくりと、一歩、また一歩と近づいて行く。

「いやぁ……、気持ち悪いからぁ、来ないでぇぇ……」

 さっきまでの威勢はどこへやら、マドンナが一歩近づくごとに、尻を地面につけたままゾーラも一歩ずつ後ずさりする。

 ベビーピンクのかぼちゃパンツが丸見えになっていることすらも気付いておらず、あられもない姿を視界に入れないよう、マイクロフトは思い切りゾーラから顔を背けた。

「本っ当に失礼なお嬢ちゃんねぇ。貴女如きがアタシに次ぐ強大な魔力の持ち主だなんて……、世も末よ!!今時の魔女達は皆、ある程度の魔力を手にしたらそこで満足、それ以上は高める努力をせずに遊び呆けてばっかりいるんだから……。情けないったらありゃしない!!」


 マドンナは急に立ち止まると、苛立たし気に杖の先でコンコンと地面を叩く。

 その隙にゾーラがもう一歩後ろへ下がろうとした――、が。


「えっ……、か、身体が……」

 まるで背中に見えない壁が築き上げられたように、それ以上後ろへ下がることが出来ない。


「さっき杖で地面を叩いたのは……」

「ご明察!ちなみに、貴女の周囲を囲うよう結界を張ったから逃げ場はないわよ」

 ゾーラは、自分を悠然と見下ろしてくるマドンナを、キッときつく睨み上げる。

 すぐに杖を握る手に力を込め、結界を破壊する為の呪文を頭の中で念じた――、が。

「貴女程度の魔力で、アタシの結界を破ろうなんて千年早いわ」

 涼しい顔付きでゾーラの抵抗をせせら笑うマドンナ。

「さっきも言ったけど、オイタをしでかした子には相応の罰を与えなきゃねぇ……」

 マドンナの形の良い唇が歪み、妖艶で嗜虐的な笑みが顔中に拡がる。

 ゾーラは嫌々をするように、しきりに頭を横に振る。大きな青い瞳一杯に涙が溜まっている。


「ま、待ってください!!」

「おい、イーニド!!」


 ゾーラの身に危険が迫っている――、そう感じたイーニドはマイクロフトの制止を振り切り、マドンナの元へと駆けて行く。

「黒猫ちゃんはお黙りなさぁい。アタシはねぇ、人に甘えてばかりの怠惰な奴には虫唾が走ってしょうがなくなるの」

 駆け寄って来たイーニドに向けたマドンナの低い声は、どこまでも穏やかだが有無を言わせない威圧感が含まれていた。気圧されたイーニドは、その場で動きを止めて立ち尽くす。

 そのイーニドを一瞥すると、マドンナは右手で掴んでいた蝙蝠達を振り落とす。

 地面に落とされた二匹の蝙蝠は、長身の美形吸血鬼に姿を変えるも、気を失ったままピクリとも動かない。


 マドンナは吸血鬼達を掴んでいた方の腕を伸ばし――、そして――


 荷物を抱えるようにして、ゾーラの身体ごと軽々と小脇に抱え――



 杖を、赤色の頭部と黄色の()の、ビニール素材で作られたハンマー、俗に言うピコピコハンマーに変えると、ゾーラの頭を思い切り叩いたのだった。 





(2)

 これには、イーニドもマイクロフトも、叩かれたゾーラですらも、拍子抜けして唖然となった。


 が、間髪入れずにマドンナはピコピコハンマーで、再びゾーラの頭を叩く。


 一見すると大して痛くなさそうに見えるが、約二メートルの長身ソフトマッチョの男、否、オネェ様が、強度も衝撃も弱い素材で作られているとはいえ、渾身の力を込めて叩くのである。痛くない筈などあるものか。

「痛い痛い、痛いぃぃーー!!やめてやめてぇぇーー!!!!」

 やはりゾーラは必要以上に大きな声を出し、大袈裟なまでに泣き叫ぶ。

 構わずマドンナは、容赦なくバシンバシンと小気味良い音を立ててゾーラを叩き続ける。叩く度に、ハンマーからはピコンピコンと大層間抜けな音が聞こえてくる。

 その光景を、イーニドはオロオロと狼狽えた様子で、マイクロフトはざまぁみろと言いたげに、薄っすらと半笑いを浮かべて見守っている。

 やがて、ぎゃあぎゃあと喚き散らしていたゾーラが痛みで気を失ったのを見計らうと、マドンナはピコピコハンマーを元の杖の形に戻す。

 そして、ゾーラを小脇に抱えたまま、森の外へと一歩踏み出そうとした。


「マドンナ様!ゾーラ様を一体何処へ……」

 イーニドは慌てふためいて、再びマドンナに駆け寄った。

「この娘はしばらくアタシが預かっておくわ。今夜のサバトで、見せしめとして拷問を受けてもらうから」

「……そ、そんな……」


 確かにゾーラは傍若無人の我が儘スイーツで、イーニドやこの森のゴースト達を散々困らせてきた。

 だからと言って、拷問を受けるのは少々、否、かなり行き過ぎた罰ではないだろうか。

 イーニドの非難混じりの視線を受け、マドンナは苦笑してみせる。


「あぁ、ちょっと言い方が不味かったわね。拷問と言っても、彼女が死んだり傷つくようなことじゃないわ。ただ……」

「ただ……、……何でしょうか??」

 イーニドは金色の猫目を不安そうに光らせて、マドンナの言葉の続きを待ち構える。

「肉体的には左程ダメージは受けないだろうけど、精神的にはかなりクるかもね。だって……」


 マドンナはわざと一呼吸置いてから、更にこう続けた。


「サバトに集まった魔女達が見ている中で、ハリセンでお尻を百回ぶっ叩くだけだから」

「えぇっ?!?!」


 予想していたものとは大分斜め上行くマドンナの答えに、イーニドは素っ頓狂な声で叫ぶ。背後の茂みからは、マイクロフトのぶはっ!!と噴き出す声が聞こえてくる。

「でも、プライドの高い魔女にとっては充分な恥辱と成り得るし、遊び呆けるのも程々にしよう、と、これを機に他の魔女達も気を引き締める筈よ。あと、この小娘は問題児とくるから、しばらくの間、アタシの元でビシバシ教育し直すつもり」

「えぇっ!?百叩きの刑だけじゃなく……、これからはオカマと四六時中一緒に過ごさなきゃいけないなんてぇぇ……、いやぁぁぁぁ……!!ねーぇ、イーニドォ……、ゾーラが悪かったからぁ……、これからは我が儘言わないようにするからぁ……。ゾーラを助けてぇぇ!!」

 タイミング良く目を覚ましたゾーラが悲壮な声でイーニドに訴え掛けるが、イーニドは口許を引き攣らせた微妙な笑みを浮かべるのみで、黙りこくっている。

「うるっさいわねぇ……。ちょっとの間お眠り!!」

 マドンナが忙しなく動くゾーラの口元に掌を宛がうと、ゾーラの頭がガクリと落ちて静かになる。

「心配しないで、催眠の魔法を掛けただけよ」

 可哀想だと思う反面、これを機に、マドンナにどつかれ……、もとい、躾直された方が自分やマイクロフトを含めたこの森のゴースト達の為、引いてはゾーラ自身の為だと思ったからだ。

「そういう訳で、黒猫ちゃんとワンコくん。ゾーラがいない間の森を頼むわね。あぁ、と言っても、アタシが新しく結界を張り直すから、特に心配ないとは思うけど」

 マドンナはイーニドの肩をポンと軽く叩き、艶然と微笑みかける。

 しかし、イーニドは釈然としないと言った体で俯いたままだ。

「あら、そんなにアタシのやり方に不満でもある訳??」

「い、いえ、違うんです!!そのことではなく……」


 イーニドは、もごもごと口籠っていたが、「あ、あの、マドンナ様……。あ、あたしも……、あそこで倒れている吸血鬼のお兄さん達同様……、……禁忌を犯しました……」と、人間に正体晒してはお菓子を貰っていたことを告白したのだった。

 話が進むにつれ、マドンナの美しい顔が見る見る内に険しくなっていく。


「そう……。いくら愚かな主の為とはいえ、禁忌を犯したとあっては見過ごせないわねぇ……」

 エメラルドグリーンの瞳を冷たく光らせ、マドンナは自分より四十センチは背丈の低いイーニドを見下ろした。

「……待てよ!!そいつは止むに止まれずに、仕方なく禁忌を犯しちまったんだ!!俺に免じて許してやってくれ!!」

 イーニドを守る為、マドンナに赦しを請う為に、マイクロフトは慌てて茂みから飛び出し、イーニドとマドンナの間にその身を滑り込ませてきた。

「いいの、マイク。悪いことをしたのは本当なんだから。あたしも相応の罰を受けなきゃ」

「イーニド……」

 イーニドは、さりげなくマイクロフトを横へ押しのける。

「主と違って潔いのね。じゃあ……、覚悟しなさい!!」


 ぎゅっと目を瞑り、胸の前で両手を握りしめ、身構えるイーニドの頭上に、マドンナが杖を振り下ろした――




「……へっ??……」



 怖々と顔を上げたイーニドは、隣で呆気に取られるマイクロフトとまたもや顔を見合わせる。




「黒猫ちゃんへの罰はこれで終わりよ」


 そう言うと、マドンナはくるりと身体の向きを変え、ゾーラとピコピコハンマーを手にしたまま、森から去って行ったのだった。

マドンナのゾーラへの暴行(?)はネタとして書いてますが、良い子は決して真似しないでください。

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