スーパーヤギ女子高生
「桧毬、どう思う?」
隣にいる本人に聞いてみたが、あいにく食事中で書き損じの半紙を幸せそうにほおばっていた。
「聞く必要もないんだけどもな」
文也はため息をついた。どう考えても、取り壊した以上、手紙は廃棄処分されていると考えた方がいいだろう。
「一番目は諦めて、二番目を探すにも、ヒントは一枚目に書かれているからなあ。ノーヒントで探すとしたら、いつ見つかるのか検討もつかない」
再びため息を吐いた文也の隣にいる桧毬は満足の息を吐き出した。
「文也のはスパイスが効いたジャンクフードなら、老夫婦の書き損じは、品のある料亭のようだ」
「悪かったな、汚い字で」
「気にするな。桧毬の好みは文也の方だから、喜ぶがよい」
「……」
答える気になれない文也は足を止めた。
何かヒントのかけらぐらいはないか、と思ってヒマリが住んでいた家、マンションに向かった。
「来たものの。どうしようもないな。
ヒマリの飼い主さん、住んでないかな。もし、万が一、解体途中に気づいて保管してくれていた……なんてないか。第一、飼い主さんがいるかどうかも、わからない」
跡地に建てられたマンションはファミリー向けで、文也がベランダを数えてみると5部屋ある8階建ての中小規模レベルのものだった。
とはいえ、自動扉にオートロックのキーが、見知らぬ者を拒んでいる。
「オートロックになっているからなあ。新聞受けにかかれている名前をチェックすることもできないか。まあ、防犯上、名前を載せていないだろうし……」
「オートロックって何だ?」
「ほら、自動ドアの横に数字が書かれた押しボタンとか色々あるだろう。部屋にいる住人に頼んで開けてもらわないと、ドアは開かない仕組みになっているんだ」
「……。誰かに開けてもらわないとならないのか。わかった」
そう言うと桧毬はスクールバックを開けて、大量に入っている食料,(半紙)をかき分けて真っ白なスマホを取り出した。
「大量の半紙にも驚いたが、桧毬がスマホを持っているとはな……」
「ふふん。桧毬はもうただのヤギではない。スーパーヤギ女子高生なのだ」
そして元ヤギとは思えない指さばきでメールに文字をうちこんでいく。
「エギュラメ様、マンションの鍵を開けてください、で送信」
「……もしかして、住んでいるのか、ここに……」
「エギュラメ様は魔界におられるんだから、住んでいるわけがないだろうが。情報操作はメールだけではないのだ」
胸を張って、主の力を自慢するヒマリのスマホに短い電子音がした。
「オッケードアは開いているのだ」
「どうやったんだ……って桧毬、おい」
桧毬は自動ドアへ近づくとガラスの扉はヤギ娘を招き入れ、仕方なく文也も後に続く。