手紙
検索結果通りに、文也は押し入れを開け、左奥にあるはずの箱を取り出すために、まずは手前にある大小のダンボールや、紙袋を部屋に出してから桧毬に言った。
「いいか、桧毬。ダンボールは絶対に、開けるなよ」
「大人の階段を上るための……ってやつか?」
「違う!若気の至り品だ」
「子供のクセに若気を使うとはな? ところで、若気の至り品とは正確になんだ?」
「……思い出の品だよ。卒園式とか」
「ああ、あれか。号泣しながら……」
「言うな!って……何で桧毬が知っているんだ?」
「近所の話は、あっという間に広まるものだ。家のじい様とご近所さんの会話は畑、小山の近くで行われるのだ。
文也と修二の話もたまに出てきたぞ、例えば……」
「……。何が望みだ」
桧毬は両手を差し出す。
「桧毬は腹が減っている。書き損じの手紙や、誰かが文字を書いた紙が食べたい」
押し入れの中に、中学時代のノートがあったのを思い出し、桧毬に渡した。
箱探しを再会した文也の後ろから、紙を破る音やそれを食す音が響く。
「中学時代の字も、相変わらず汚いが、良い味だ」
「味があるのか……それはそうと、腹、壊さないのか?」
「今の桧毬にとって、これが主食なのだ。
しかーし、本当のヤギに紙を食べさせてはいけない!
植物が材料だった昔の紙とは違い、現在の紙は体に悪いのだ」
「誰に向かっていっているんだ?」
話ながら進めたので、時間はかかったが、ようやく記憶と同じ『たからばこ』と書かれたダンボールを見つけた。
開けてみると見覚えのある物ない物『こんな所にしまっていたのか』という様々な物がある中、10年前の文也が指示した封筒、らしき物は底にあった。
封筒というより、ノートの紙を破って包んだ、といった方が早いだろう。
包み紙には『ふういん中、ぜったいにあけるな!』と大きな文字で書かれており、相変わらずの汚い字だが、主張を感じる字でもあった。
「ご丁寧に糊付けしてある。桧毬、机の上にハサミがあるからとってくれ」
「ふごわ、わかんが……」
食事を続ける桧毬から、受け取り端を切り落とすとまたノート紙で包んだ物が現れ『この手がみは、たかだふ みなり しか あけてはならない!!』と注意書きが書かれている。
「まさかとは思うけれども、やっぱり、また包み紙だ、今度は『たけだ ふみなり であっても、あけるには かくご がいる』……今度は『じゅんび は いいか?』はいはい、いいですよ」
包み紙を開けると、青いちゃんとした封筒が文也を待っていた。ロケットや月のイラストがある、さっきのと同じ物だ。
「なになに、まずは最初のミッション達成だ、おめでとう、10年後の文也……相変わらず、破りたくなる文だな」
「破るのなら、桧毬が食べてやろう」
「記憶とやらが戻ったらな。
手紙は、全部で、3通あるって、まだ、あるのかよ……
1番目の手紙の最後に次の手紙場所を書いた。10年後の僕でも分かるように簡単な暗号にしてやったから、安心するがよい……
ここからが、重要ポイントだ!
全ての記憶が戻った時、僕は、エギュラメさんに返事の手紙を書く……」
「…………」
翌朝、目を覚ました文也は、起床時間より早い時間を確認してから、ぼんやりと天井を見つめた。
魔王の娘エギュラメを過去の自分が知っていて、その記憶を10年前の自分が封印していた。
「そして俺は、手紙を書かなければならない……」
文也は学習机机に向かい、文也は手紙の続きを書き始めた。
まずは、あなた様に謝らなければなりません。
10年前の自分が手紙により、自分はエギュラメ様、あなた様との記憶がありません。
あなた様とどんな出来事があったのか、まったく覚えていないのです。
10年前の自分が書き残した手紙を探し、記憶を取り戻すまでの間、もうしばらく、あなた様に送るべき『本当の手紙』は、待っていただけると、幸いです。
もし返事の遅滞、この手紙事態が、無礼で怒りを買ってしまったのならば、どんな罰でも受けますので、決して、友人や桧毬に向けないでください。
武田 文也
文房具屋に売っていた白い封筒に入れ封をした。
宛名側に自分の住所、氏名。宛先に『エギュラメ様』と書き終えると桧毬に渡した。
「いいか、絶対に食べるなよ」
と、言い聞かしてから。