友人
「修二、ヒマリって言うヤギ、覚えてるか?」
翌朝、文也は隣を歩く同い年で同じ制服を着た友人に尋ねた。
金原修二
桧毬の話にも出てきた。幼稚園からの腐れ縁であった。
「ヤギのヒマリ!懐かしいな、紙を持って、あそこの家に行ったな。
お前、変わった紙を見つけたといって、家から重要な書類を持ってきて、大騒ぎになったよな」
「人の事、言えないだろうが、小1の時、学校から貰ったプリントを全部食べさせて、怒られて、泣きながら家に家出してきただろうが」
「それは忘れて、二度と口にしないって『男の約束』をしただろうが」
「修二が、それを言ったからだ。とにかく、ヒマリの事は覚えているんだな」
「ああ。ヒマリがどうした?」
「そいつが、昨日、人間になって現れた」
「しかも、クラスメイトになってな」
2人は後ろからの声に驚いて振り返った。
「ひ、桧毬」
「おう、おはよう。
それはそうと、お前は修二だな。
修二だ。あの修二か? 修二も大きくなったな。しかも、文也と同じ服を着ている。同じ高校なのか。
修二が、ここの高校に通えるとはなあ。小さい頃は、綺麗なおなごを見ると片っ端から恋をして。失恋ばかりしていた、あのしゅう……」
桧毬の声が、聞き取れなくなったのは修二が手で桧毬の口を塞いだから。
それから物凄い形相で文也を睨んだ。
「文也、お前という奴は、俺に紹介せずに、こんな可愛い子と知り合いになったどころか、俺の涙にして語れない過去を話したな」
どうやら友人は、彼女がただの同級生に見えたようだ。
「まて、誤解だ」
「そうだ誤解だ」
修二の手から離れた桧毬は、腕組みをして誤解を解ける良い方法を思いついた。
「なら、この話をすれば信じてくれるだろう。
修二の片思い歴は、幼稚園の先生に始まり、本屋の店員。はては文也の従姉妹のかおるとかいう……」
またもや桧毬は修二に口を塞がれたが、睨みつける視線は文也からのものだった。
「幼稚園の年長組だった冬休みに遊びにきた時、お前と遊んだよな。まさか、その時、従姉妹の薫ちゃんに手を出したんじゃあ」
「出してない、出してない! ラブレターを書いて渡そうと思っただけだ。次の日、渡そうとしたけれども、帰ってて、思いを伝える事もしてない」
「そのラブレターは、桧毬に食わしてくれたのだ。
キレイなカオルちゃん。こんど、ぼくのいえでせいだいなパーティーをひらきましょう。まっしろなウエディングドレスをきて、ぼくのはなよめになってください……」
修二は、凍りつき、真っ赤になり、それから真っ白になってから、力無く座り込んだ。
彼の様子からして従姉妹に渡すハズだったラブレターは一見一句間違いないようだ。
それから、そこにいる少女は間違いなくヤギのヒマリだったと信じてくれただろう。