表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴートメール  作者: 楠木あいら
背景、幼なじみ様
2/32

桧毬

 武田文也の高校は徒歩で通える。小中学校に距離が長かった分、受験に合格したときは『朝が楽になる』事を心の底から喜んだ。


「あそこの高校は頭かないと入れんって、じい様が言ってたけれども。文也って頭、良かったんだな」


 家から近く、教師もクラスメートも申し分ない良い高校だったが、その良さが揺らいでまうのは、後ろから着いてくるヤギ少女のせいだろう。


「ポストがある角を曲がると豆腐屋があるとじい様が言ってたが、どこにあるんだ?」

「豆腐屋は去年、ラーメン屋になったって……桧毬、ヤギの時、人間の言葉がわかったのか?」

「犬や猫だってわかるのに、ヤギがわからないはすはないだろうが」


 ふん、と鼻を鳴らしたのは、彼女は元ヤギでヤギが一番というプライドなのだろう。


「しかし、人間語はわかるが、言葉を返せないのだ。人間語が使えれば、じい様に『芋蔓がもっと食べたい』と訴えられたのに」


 芋蔓は、どうやらヤギ時代、ヒマリの好物らしい。


「そうかラーメン屋か。豆腐屋の息子だな。『ラーメンばかり食って、店を継いでくれるか心配だ』と、豆腐屋のオヤジが家のじい様に言ってたが、そうか。ラーメン屋とやらになったか。それはそうと、豆腐のオヤジはどうした?」

「知らない」

「まあ、あのオヤジの事だから、隠居生活を楽しむ施設とやらで、元気にやっているだろう」


 彼女の話は、何年も住んでいなければわからない話だった。


「……」


 文也の足が止まった。

 桧毬の足も止まったが、それは目の前に新しに気づいたからである。


「……。ここだな、ここに家があった」

「ああ」


 マンションが建つ前は、昔ながらの大きな家があった。

 それは文也の記憶にも残っている。家もさることながら、広い庭があり、自宅で食べる分にはちょうど良い大きさの畑があり、白ヤギの小屋も畑と垣根の間にあった。いつもニコニコした老人が、紙を手にした子供も見ると『ヒマリに食わしてやれ』と中に入れてくれた。


「そうか、ここが、我が家だったんだな」


 老人の子供が、家を取り壊しマンションを建てると親たちの会話で耳にした。


「どこも後継者の話ばかりだな」


 寂しげに見つめる少女に偽りの表情はなかった。


「君は、本当にヒマリなんだな」

「もちろんだ。今は桧毬だ。エギュラメ様のお蔭でな」

「え、えぎゅらめ、様?」


また、新たなる混乱の言葉が現れた。


「エギュラメ様だよ。文也は覚えていないのか?」


 文也はまたもや脳に『エギュラメ様』という言葉をアクセスしてみたが、脳からの返事はない。


「覚えていない」

「そうか。という事は、エギュラメ様宛に返事の手紙を書いてもらう、桧毬のミッションは長くなりそうだな」

「返事の手紙?」

「長くなるとわかれば、色々と準備をさなければならない。文也、積もる話は今度だ。じゃあな」


 そう言った途端、桧毬は物凄い速度で走り出した。どう全力疾走で追いかけても追いつくわけがないが、文也はあっという間に小さくなってゆく桧毬の背中を見つめ、ホッと息を吐いた。


「……」


 帰宅するために歩き出す文也から、ため息がでた。ヤギ少女こと、桧毬の事を考え始めたからである。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ