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ゴートメール  作者: 楠木あいら
もっと近づきたいと思うのは愚かでしょうか?
19/32

ショート

「……どういう事だよ……」

「エギュラメ様は、我々、ヤギや人間と違うのだ」

「桧毬……」


 桧毬はいつの間にか隣のベランダから跳んできていた。三番目の手紙を読んだ文也が混乱するのを予測したかのように。


「エギュラメ様は世界の始まりと共に生まれ、世界が終わるか、光の存在に倒されない限り、エギュラメ様は、存在する御方。

 闇の王、魔王のお力にのみ、闇の一族は増え、我々のような繁殖というものもない。

 愛というもの自体、我々とあの方とは考え方が違うのだ」

「……」


 三番目の手紙で混乱する中で、桧毬の解説は聞こえいるが、頭には入ってこなかった。

 呆然とする文也に、対し桧毬は真っ直ぐ文也を見つめる。


「三番目の手紙は読んだのなら。返事を書くのだ」

「返事って」


 文也は桧毬の表情に違和感を感じた。三番目の手紙で頭が混乱しているが、そのせいではない気がした。

 彼女の中で押し殺していた物が、姿を見せた気がした。


「さあ、エギュラメ様に宛てる返事を書くのだ」

「……」


 さらに文也は、桧毬の半目がギョロリと別の意志を持って動いたのを感じ取った。

 それと同時に触れてしまった黒い封筒。

 2つの波動が体に入り込んだ時、文也の頭と心がショートし、彼は言葉にならない声を発していた。


「文也?」

「ぁ……あ、来るな、来るなっ」


 両手で頭を抱えようとしたが、近づいてくる桧毬、というより、彼女の半目から魔王の娘が近づいてくることに、恐怖を感じた。


「あ……」


 視界に入ったベランダに続く窓を開け放ち、文也は柵を越えて桧毬のように跳んだ。

 ヤギと違い人間の体は、短い飛距離のあと落下した。運動能力の高くない体は地面に叩きつけられる前に、カーポート(一軒家によくある自家用車を雨から守る屋根)にぶつかり大きな音を立てた。


「文也!」


 桧毬がベランダから身を乗り出した時、文也の体は、そこから地面に落ちるところだった。


 文也は、体、足がものすごく痛くなっているのを何となく感じとっていた。

 それよりも、彼を包み込む闇がそれ以上に恐怖で、辺りは夜の闇であることに、更なる混乱を与えた。


 闇は、魔王の娘そのもので、彼女が闇の中から手を伸ばし、捕らわれるのではないかと、文也は怯えた。


 離れた所から声がした。桧毬か、家族か、近所の住民か、聞き分ける余裕などなく、今の文也にとって、彼女から逃れるため、闇から逃れるため、走り出す事しかできなかった。



 運動に馴れていない人間が走りつづける時間は限られている。頭はまだ、闇に逃れようと闇の中を走り続けたいが、体は悲鳴をあげていた。

 歩くことしかできなくなった時、闇から腕が伸びた。

 文也は声にならない音を僅かに漏らし、腕を振り払おうと、残っている力でありったけ振り払った。


「落ち着け、文也、俺だ」


 その声が修二だと気づくまで彼は暴れるように、体や腕を振り回し、それから、電池が切れたロボットのように、全ての動きを止め、重力に従い、倒れるようにしゃがみ込んだ。


 

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