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ゴートメール  作者: 楠木あいら
ところで『伝説』というのは
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謝罪


  音梨静佳(おとなし しずか)という者は、大人しい無口な女の子だった記憶がある。無口、イコール口が堅い、秘密にしてくれるという考えだろう。

 彼女は違う高校に通っていた。夏休み以降、がらりと変わってしまったようだが。




 彼女から『それ』を手渡された文也は、真っ直ぐ修二の家に向かった。

 渡された鍵を置いて土下座するために。


「記憶がなかったとはいえ、謝罪します。ごめんなさい、修二様」

「……」


 小さな鍵は仁王立ちする修二の物であった。

 幼少の修二が大切な物をしまっていた宝箱を開けるにはなくてはならない物であった。


「文也、お前言ったよな。鍵は知らないって」

「はい。その通りです」

「もし嘘をついたら、針千本飲むって」

「誓いました」

「飲んでもらおうか」

「……」

「……まあ、本当に飲んだら大変なことになるからな。

 それと同等な事をしてもらおうか」

「…………はい」


「それで、どうなったのだ?」


 帰宅した文也は隣にいる桧毬を手招きして部屋に向かい入れ、今までの出来事を話した。


「修二は、デートをする相手を見つけてこいと、無理難題を押しつけてきた」

「デートとは修二らしいな。とはいえ、デートというものは好いた者どうしでなければデートとは言わんぞよ」

「修二は惚れやすいから、ぶっちゃけ誰でも大丈夫だ。問題は修二とデートしてくれる子だよ」

「おなごか」

「でなければ、修二は鍵を開けて手紙を渡してくれない」

「ふうむ、ならば桧毬が一肌脱いでやろう」



「それで桧毬というわけか」


 再び修二の部屋。


「桧毬は元ヤギだが、ちゃんとした人間の容姿をしている」

「桧毬はおなごだ」

「正確な年はわからないが、俺らが子供時代からいた。幼なじみになる、と思う」

「ほう」

「修二、幼なじみとデートなんて、すごい事じゃないか。

 それでも不満ならば、未来の予行練習として」

「……まあ、いいだろう」



 修二の宝箱というのは、金のマークか銀のマークを5枚集めないと手に入らない『伝説の缶詰め』の箱で、子供はともかく大人でもレアな箱であり、だからこそ、鍵をなくした時は大騒動になった。

 中身は缶詰めに入っていたおもちゃや当時の修二が大切にしていた物がある中、見覚えのある青い封筒とその封筒にセロハンテープで離れないように止めた白い四つ折りの紙があった。。

 修二は開き、書いてある文字を口にした。


「謝罪文。

 お詫びとしてお年玉で手に入れた一万円を、今の俺から貰ってくれ」



 謝罪の手紙に文也は10年前の自分に怒りを覚えたが、残念ながら自分であり、怒るに怒れないが、納得できない状態のまま、部屋に戻ってきた。

 謝罪の手紙に従わなければならないので、郵便通帳に幾ら残っているのか確かめるためである。


「これまた面白そうな紙束だな」

「うわっ、桧毬」


 驚いて落としてしまった通帳を拾い引き出しにしまってから、桧毬に苦情を囗にした。


「部屋に入る時はノックしてから」

「よく言うよ。ヒマリの小屋には、ノックしてこなかったクセに」

「ヤギと人のマナーは違うんだ」

「そうか。それよりも文也、服を貸してくれ」

「服って……もしかしてデートで着ていく服の事か?」

「そうだ。修二が言ったのだ、デートなんだから、制服はやめてくれって」


 そう言えば、文也も制服以外の桧毬を見たことがない。隣に帰宅しても、そのままの格好なのだろう。24時間365日毛が生え替わる事はあっても、自分の意志で外見を変える考えはヤギ娘には難しいのかもしれない。


「服といっても、オレは一人っ子で男物しかない」

「それでも構わないのだ」

「それは止めておけ。修二があまりにも可哀想すぎる」


 考えてみれば、友人の初デートにもなる。

 不安になった文也は、念のため聞いてみた。

「桧毬、デートって何をするか知っているのか?」

「桧毬だってデートぐらい、知っておる。じい様がばあ様との初デート話をヒマリに良く話してくれたのだ」


 大丈夫なようだ。


「なら、わかるだろう、桧毬よ。じいさんは、ばあさんの服装に惚れ直したとか言ってなかったか?」

「おお。そういえば言ってた。じい様、顔を赤らめて嬉しそうな顔をしていた」

「そういう事だ。デートに着る服は修二が喜んでくれる可愛い服装にしてくれ」

「可愛い服装もなにも桧毬は持っていないのだ」

「……そうだったな」


 文也はスマホを取りだした。


「初デートに着ていく服で検索」


 困った時のネット頼りである。


「露出を控えた白やピンク色の可愛らしい服が良いようだ」

「白。やはり白だな、桧毬は白い服が着たいのだ」


 ヤギ時代、桧毬の体毛は白一色だった。


「ほら、画像ページに切り替えたから、そこから考えれば良いんじゃないか?」


 文也はスマホを桧毬に渡す。


「後は、その服装を探して買えばいいだろう。ネットショッピングなら、エギュラメ様の力で色々な事がチャラになるだろうし」

「なるほど、文也は賢いな」

「どうも」

「そんな文也に、大事な事を忘れていた」


 桧毬は制服のポケットから光沢のある黒い封筒を取り出した。


「エギュラメ様から手紙を預かってきたのだ」

「それを早く言え!」



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