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ゴートメール  作者: 楠木あいら
ところで『伝説』というのは
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疑問

 二番目の手紙


 エギュラメさんは、また、あらわれてくれた。

『このまえは、せわ に なったな』と いってくれた。

 エギュラメさんは、このまえとは、くらべものにならないほど、すごい力をかんじた。目に見えないけど、やっぱり、スゴイ人なんだな、と おもった。

 エギュラメさんは『おまえには、ほうび を やろう。なんでもよい、ねがい を いうがよい』と、いった。

 ぼくは、エギュラメさんと、また あいたい、と おもった。スゴくて、ステキな人だから。

 だから『じゃあ、ぼくと文つう して下さい』といった。

 エギュラメさんは、びっくりしたけれどもオーケーしてくれた。


 それからぼくは、エギュラメさん と 手がみのやりとりをした。


 ぼくは、がっこう であったこととか、いろいろかいた。

 エギュラメさんからも、へんじはとどいた。

 うれしかった。ぼくは、あの人と『つながり』をもてた。もっと、エギュラメさんにちかづけたらなぁと、おもった。



 さて、10年ご の ふみなり。まずは、みっしょんをコンクリートしたこと を ほめよう。


「コンプリートだろ」


 思わず過去の自分に突っ込んでしまう文也であった。


『こんかい の ヒントは、われながら 大さく だったと おもう。なかなか、なぞが とけなくて 大へんだっただろう。ほめてつかわす』


「…………」


 少し大人になった文也は、こらえて読み進めた。


『三ばんめ の 手がみは、かんたん に してやった、よろこべ。

 おとなし しずか というやつに あるもの を あずけた。それを 手にすれば、三ばんめ の 手がみ は 手に入ったも どうぜんだ』




 文也はペンを取り、報告の手紙を書き始める。


『今日は、10年前の自分が書いた二番目の手紙をようやく、手にいれました。

 子供の考えた、いい加減するヒントに悪戦苦闘しました。

 二番目の手紙は、あなた様と文通していた事が書かれていました。今、こうしてあなた様に手紙を書いているのは、記憶になくても、やはり同じ事をしてしまうんでしょうね。

 三番目に書いた手紙は、簡単に見つかると、書いてあったので、あなた様に書く本当の手紙も早く書けそうです。

 ご多忙だと聞きました。お体に気をつけてください』



「体調を崩すという事はないかな?」


 文也は視線を感じた。食事中に愛犬が向けるものと同じものを。


「桧毬、魔王の娘さんというのは、体調不良とかありえるのか?」


 いつのまにかベランダに通じる窓が開きっぱなしになっていて、書き損じ紙はないかと桧毬が立っていた。

 文也は手紙を机の引き出しにしまってから、聞いた。


「エギュラメ様は無敵なのだ」


「……わかったよ」


 きらきら、目を輝かせる桧毬に文也は、引き出しを開け書き損じとなった便せんを渡した。


「考えてみれば、桧毬にご褒美はくれないのか?ほら、一番目の手紙は桧毬が乗り込まなければ、手に入らなかったのだ」


 腰に手を当て仁王立ちする桧毬に対し、文也はルーズリーフに大きく『ありがとう』と書いて四つ折りにして桧毬に手渡した。


「もっと心のこもった感謝が欲しいのだ」

「食べてから言うなよ。まったく……」


 何かに気づいた文也は桧毬に視線を向ける。

 文也は漆黒の目に吸い寄せられていた。

 桧毬が教えたわけでもなく、魔界から声が響いたわけでもないのに、文也は彼女の視線を感じたのだ。


「……」


 桧毬の顔にある漆黒色の目以外、文也の目と脳にも変わりはないのに、その目に見られていると、皮膚も神経や内蔵まで見つめられ、吸い寄せられていく感覚を覚えた。

 文也はイスから立ち上がった。近づき、手を伸ばしたら、触れられるのではないかという気がして、行動しようと足に力を入れる。


「はい、残念なのだ」

「うわっ、桧毬」


 間近にいる桧毬だけの存在に気づいた文也は、慌てて後方に跳んだ。


「桧毬に手紙を書いてくれたら、エギュラメ様にお願いしてやっても良いぞよ」

「展望台にある望遠鏡みたいだな」


 文也はイスに座る。


「エギュラメ様にお会いしたければ、早いとこ返事を書くことだ」

「え、エギュラメ様に会えるのか?」

「それは、文也の返事次第だろう」

「……」


 桧毬を退室させ、エギュラメ様への手紙を書き直した文也はベッドに寝転がった。

 改めてさっきの視線を思い出した。

 見られている事への心地よさ。

そして視線の気配がしなくなってからの切なさ。


「修二の事、笑っていられなくなったな」




「どうして、俺は記憶を消さなければのらなかったんだろう」


 騒動から落ち着いてきた文也は、その疑問が気になった。


「まさか、大人の関係?」


 一気に血の巡りが活性化した文也は慌てて辺りを見回し、神出鬼没のヤギ娘はいないか確認した。


「……だったら良いんだけれども」


 寝返りをうつ。


「怒らせてしまうような事をしたとか……」


 再び寝返りをうった。


「怒っていたのなら、あんな目を向けてくれないだろう。第一、10年も返事を延期する事の方が怒りの対象になる」


 

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