朝の しりとり
「おはよう、文也。桧毬ちゃんは?」
「エギュラメ様の所だろう。それはそうと修二、しりとりしないか」
いつもの登校時刻、いつもと変わらない合流場所に現れた修二は、聞き慣れなくなった単語を耳にした。
「……この年になって、しりとり?」
「2番目に書かれていたヒントなんだ『修二としりとりして5番目から10番目あたりに出てきた言葉が次のヒントだって」
「……曖昧すぎないか、それ。ヒントになってない」
「仕方ないだろう、小学一年生で考えられるレベルなんて、そんなものだろ。一番目の手紙だってヒマリの小屋近くに埋めてたんだから」
文也は改めて一番目の手紙を思い出した。『ヒマリに聞け』と意味深なヒントと思えたが、どう考えても本当に聞くように書いてあるとしか考えられなかった。
考えてみれば小学一年生の前は幼稚園児で、現実というものが曖昧な年。おとぎ話が本当の話だと信じて疑うこともないのだ。
おとぎ話のように、ヤギに話しかければ、ヤギが人間語をしゃべらなくても、小屋を角で指してくれると信じた幼少の文也の純粋化考えは、桧毬の暴走と、親切な息子さんの協力が運良く動いてくれたおかげで入手することができた。
「しりとりか、そういえば、よくやっていたな」
文也がため息をつく横で修二は思い出し笑みを向けた。
長い小学校までの距離、路上に落ちているゴミをボール代わりに蹴ったり投げたりするか、流行りの曲を何度も歌い続けるかしなければ、登下校は退屈すぎしまう。
2人にとって『しりとり』は水たまりに飛び込む次に、雨の定番だった。
「高い確率で文也から始めたよな。ゲームの技とか
キャラクターとか。というわけで、文也から」
「俺から? え、エギュラメさ、ま」
「いきなり凄いところから来たな」
「いいだろう。ほら、次」
「ま、ママさんバレー」
「……。次は人妻か?」
「思いついただけだ」
「れ、レバニラ炒め」
「おっさんか」
「昨日、晩ご飯に出たんだ」
「め、眼鏡」
「ね、猫」
「こ、こだわりのめんちかつ」
「……。追加」
「唐揚げ」
「げ、ゲスト」
「トンカツ……」
「バイトから離れたらどうだ。涙目で遠くを見ないでくれ」
スーパーの惣菜コーナーでバイトしていた修二は、まだ失恋から完全に立ち直れていないようだ。
しりとりがひとまず、終了したので、文也は集計することにした。
「……眼鏡で、猫。この場合、猫、こだわりのメンチカツ、追加、唐揚げ、ゲスト、トンカツになるな」
「まさか、今のを全部ヒントなんて言うんじゃないだろうな」
「まさか、ただ一回やったたけで、ヒントにはしないよ。第一、小学生と高校生じゃ思いつく単語が違いすぎる」
「そうだな。しりとりは、頭の中に保存された言葉から出てくるんだから、ヒント探しのしりとりをするならば、小1の考え方にしないと」
「小学一年の時って何をやっていたんだっけ?」
それから2人は、小学一年生に戻ったつもりでしりとりをしたものの、ヒントではないかという単語はでてこなかった。
昼休みの食事終了後も挑戦したものの、小学生とは思えない単語の続出で、強制終了した。
文也はため息と、今の言葉を出した。
「……小1といっても、何月くらいかわかれば、もっと範囲が狭まるんだが……文也、何月頃に書いたか覚えていないよな」
「その先にある記憶を知るためのヒントなんだから、知ってたら本末転倒というやつだ」
「5番目から10番目ぐらい……必ず、定番で出てくる言葉じゃないかな……そうでないと、困る」
「そうなんだよな……」
残り少なくなった昼休み時刻を確認しながら、文也はため息をついた。
「だいたい、しりとりが長く続いたりすると、同じパターンになってたりしたよな。小さい文也も、そこを狙っているかもな」
「十年前を思い出しながら、言葉をメモするのが良いではないか。メモなら桧毬が持っているぞよ」
どこから話を聞いていたのか、いつの間にかツインテールのヤギ娘は、にんまりと笑って立っていた。