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ゴートメール  作者: 楠木あいら
背景、幼なじみ様
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背景、幼なじみ様

 武田文也(たけだふみなり)は、放課後の教室をそっと観察した。

 当番だった掃除を終えたものの、面倒くさいゴミ処理をジャンケンで負けてしまった。たどり着いた教室に空っぽになったゴミ箱を置けば、帰るだけなのだが……教室にいる女子生徒がいるから入れないでいた。


「…………」


 女子が1人いるだけなら、何の問題もない。しかし、彼女が立っているのは、真ん中にある、文也の席である。

  カバンが置いてあるから間違えようもない。


 背を向けているので何をしているかわからないが、行動は2択ある。

 嫌がらせが、それとも、告白的なものなのか……

 前者なら即駆け込んで怒るべきだが、後者なら……


「……」


 文也は混乱した。

 もし後者ならば、生まれて初めての、告白! 彼女ができるかもしれないのだ。


「……」


 とはいえ、初めての告白。どう対応すれば良いのか?

 生まれて、17年、告白なんてされた事のない文也にとって何をしゃべり、どう行動すればよいのか分かるはずもない。


『こんな事になるなら、普段からイメージトレーニングすれば良かった……』と、どうしようもない後悔する文也であった。


「む……」


 教室にいる未来の彼女……かもそれない子から聞こえた声により文也は、我に返った。

 それから、カシャ、グシャという音がした。


「ふむ、汚い字ながら、なかなかスパイスが効いている」

「汚い字で悪かったな」


 女子生徒の声に、文也はムッとして思わず声を出してしまった。

  そして見てしまったのだ。紙を口にくわえている姿を。

 50歩譲って、ラブレターを口にくわえているなら、まだ良い。しかし整った唇に挟まれているのは、ルーズリーフ、しかも授業中に文也が書き留めた学びの書なのだ。


「…………」


 予想もしなかった光景に手にしていたゴミ箱を落としてしまったのは、仕方がないだろう。


「えと……」


 気まづい空気に、文也はとりあえず倒したゴミ箱を手にした。

  それからゴミ箱を数メートル先にある所定位置に置いて、口にしている紙がなければ、まとも、いや、かなり可愛い女子を見つめる。

 どうみても口にしている紙をモシャモシャと食べている。

 ヤギ女……


「えと、お腹、壊すよ」


 ゴミ箱を置いて、おそるおそるヤギ女に近づいた。もちろん、カバンを取り教室を逃げ出すために。



「おー、文也ではないか。しばらく見ないうちに、大きくなったな」


 ヤギ女から出てきた言葉は、予想をはるかに越えて、いや、この状況で何を言われても予想できないが……文也をフリーズさせた。それからヤギ女は、親戚のおばちゃんがするように、足先から頭まで眺め嬉しそうに笑う。


「うん、背も伸びた。前は視界の下でチョロチョロしてたのに」


 活発そうな顔のパーツはどれも整い、均等に配置されている。

 ツインテールのサラサラした黒髪に白色の髪飾り……に見えたが、よく観察してみるとそれは5センチほどの白く細長い物体、角だった。


『こいつ、本当にヤギ女だ』


 更なる混乱に陥った文也の脳は、彼に最優先の指示出した。今は、この場を立ち去らなければ間違いなく、何かとてつもない事件に巻き込まれると頭が警告していた。


「じゃあ、俺は帰るから」


 ルーズリーフもカバンも諦めて、文也はとにかくこの場を一秒でも早く立ち去る事にした。


「そうだな、話は帰ってからにしよう」


 文也は完全にフリーズした。混乱の素は、家まで着いて行くと宣言したのだから。


「あー、文也。私の事を忘れているな」

「俺の記憶にヤギ女はいない」

「それがいるのだ。ほら、幼稚園の頃を思い出してみ」

「幼稚園?」

「よく修二と2人で遊びに来てくれたではないか。家からチラシや手紙を持ってきて」

「遊びにきた? 紙を持って?」


 文也はヤギ女の言葉を、脳にアクセスする。幼少の自分と友人が紙束を持っている映像を出した。その映像の端っこに白い物体があった。


「ヤギのヒマリ? 近所にいた……いや、まて、ヤギのヒマリは完全なヤギそのものだ」

「おう、思い出したか文也。桧毬は嬉しいぞよ」


 同じ学校の制服を着たヤギ少女は、嬉しさのあまり文也に抱きついた。


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