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ニ ノ イ チ  作者: タカノケイ
六月十七日(水)
25/36

橋本奈々

「おはよう、あかりん! で、他に何かわかった?」


 あかりが教室の席に着くなり、奈々が駆け寄ってきた。


「……昨日メールでも言ったでしょ? これ以上は危険だから」


 あかりはきっぱりと言う。協力してくれるのは有り難いが、巻き込まれる条件がわからないから、と昨晩メールで言ったばかりだった。奈々は納得いかない、というように口を曲げる。結衣のような正統派美少女ではないが、少しつりあがった大きな目と、鼻筋が通った華やかな顔立ちなので、怒った顔は少し怖い。


「だから、そんなの上等だって言ってんじゃん!」


 だん! と奈々はあかりの机を叩き、何事か、という視線が二人に集まった。


「しょうがないな」


 あかりは肩を竦める。看護師が襲われた件についてはニュースにもなっている。恐らくもう知っているだろうしあかりも詳しく話したくない。夢の話を少しだけなら、とあかりは昨日の夢の話を聞かせた。ただ、ニノイチが小倉二葉であることは伏せた。


「よっしゃ」


 話を聞き終わると、奈々は携帯を取り出した。


「どこにかけるの?」


 質問するあかりを片手を上げて制して、奈々は携帯を耳に当てる。


「あ、もしもし。あたし、東成高校二年一組の橋本奈々といいます。はい。はい。そうです。白骨事件の。はい」


 あかりが見つめていると「担当を呼ぶんだって」と奈々は小声で言った。どうやら警察に電話をかけているらしい。


「あ、はい。こんにちわ。はい。あの夢の話なんですけど、何か役に立つかと思って。学校の東にお寺がありますよね? そうそうそれ、満泉寺です。そこの本堂の下を、お化けが指差すのを見たんです。実は鈴子さんが以前に、学校の花壇をお化けが指差すって言ってて……。なんだか怖くなって。はい、そうなんです。……はい。はい、お願いします」


 奈々は携帯を切って、あかりを見てにやっと笑う。


「一応、調べてくれるって。ま、使えないかもだけど」


 あかりは手を伸ばして、憎まれ口を利く奈々の頭を撫でた。


「ちょ、何?」

「ぬしはほんに賢い御子じゃのう、良い御子じゃ、良い御子じゃ」

「は? なにそれ、ばかにしてんの?」


 奈々は言葉とは裏腹に、満更でもない笑顔を浮かべた。その時、目の前の扉ががらりと開いて奥村が入ってきた。あかりの机の前に立っていた奈々と危うくぶつかりそうになる。


「橋本さん、五分前着席ですよ」

「へーい」


 おどけた調子で言いながら席に戻る奈々に、教室からくすくすと笑い声があがった。奥村はいつも通りに出席を取り始める。佐々木の話を聞いてから、あかりは奥村を警戒していた。だが、明るい光の中で優しげに生徒の名を呼んでいく奥村を見たら、鈴子にあんなことをするなんてありえないような気がした。

 一時間目は数学で、奥村はそのまま教室に残り授業が始まった。いつも通りの教室、いつも通りの授業。鈴子はあんなに非日常の中に居るのに、とあかりは居た堪れない思いに沈んだ。

 

――結衣はどこにいるんだろう。こんな時側にいてくれたら、どんなにか心強いのに。結衣の生存を、心のどこかではもう諦めているのかもしれない。でも、それを認めるわけにはいかない。そうだ、あたし一人でも、絶対に結衣を見つける。絶対に……


 あかりは物思いに沈んでいき、奥村が問題を読み上げる声が遠くになっていった。


「橋本さん、それはどう見ても図形じゃないですね?」


 奥村の声に白昼夢から引き戻され、あかりはぼんやり振り返った。奈々がしまった、という顔でにやにやしていた。


「地図ですか? 成績がいいからと油断してはダメですよ」

「ごめーん」


 奈々は屈託なく謝る。奥村は奈々の落書きを不問にするようだった。教室には「また奈々か」というような笑い声が漏れて、奥村も苦笑する。授業が終わり、奈々があかりの机にやってきた。


「見っかっちゃった」


 ペロッと舌を出して、奈々はあかりの前に手書きの地図を広げる。学校を中心に、南側に神社、東側に満泉寺を書き、西に用水路、北にハテナマークが書いてある。

 学校には「胴×2」「風香」「すず」、南の神社には「足×2」「あかり」、西の用水路には「左腕?」「かのん」と記されている。東の寺には「右腕?」「夢」、北のハテナマークの隣に「頭?」と書き込まれていた。


「これ……」

「美少女名探偵、奈々様の推理。どう?」

 

 奈々が驚くほど、事件について調べていたことを知る。確かに学校を中心に、同じような距離をあけて東西南北で事件が起こっている。だが、これを奥村に見られたのはマズイ、とあかりは思った。教室という日常に気が抜けて、奈々を巻き込みすぎた。


「奈々、これ以上はもう本当にいい」

「何言ってんの? あたしたちともだ」

「本当にいいから!!」


 思わず強くなったあかりの声に、奈々の顔がどんどん歪んでいく。


「じゃあ、勝手にしたらいいんじゃない」


 そう吐き捨ててそのまま席に戻り、次の休み時間も、その次の休み時間も奈々はあかりの元へは来なかった。

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