楓の思い
今回は楓視点を意識してみました。
「まずは旅の目的地から話すことにしようかな。この旅の目的地はパーム領…ここからまだ三週間以上は歩かなくちゃいけない距離にある場所だ」
焚き火に火をくべ、地図を広げながら燈くんは言う。
「なんでそんな遠いところに行くの?」
「夏山は気絶してたから聞いてなかっただろうけど、俺は王子のルーノってやつと…そうだな、友達になったんだ。初めは、あいつを脅してさっさとこの世界を旅しようと思ったんだ。適当なところで気絶したお前を預けて、一人で行こうとしてたんだ。でも、あいつと話してたらさ…考えちゃったんだ」
少し苦しそうに燈くんは言う。
自分ではそう思っていないだろうけど私の目にはすごく苦しんでいるように見える。
「あいつは他人のために生きてたんだ。自分の国の人たちのことをまるで子供のように話してたんだ。あいつに子供はまだいないけどな」
そういって笑う燈くん。
その顔からは焚き火に照らされているせいか暗い感情は読み取れなかった。
「そんな他人のために頑張ろうとするあいつを見てたらさ、思ったんだ。ああ、俺もこいつみたいになりたいなって。誰かに必要とされて、誰かのために何かをしたいって。今までの俺は何というか…自分のために必死だったんだ。でもさ、せっかく地球じゃない…頑張れば評価されるような世界に来て、力までもらったんだ。やっぱ男だったらさ、思っちゃうじゃん?強くなりたいってさ」
「ねぇ、燈くん」
私は燈くんに声をかける。
「ん?」
「燈くんに何があったのかはわからないけど…燈くんはいつだって私のヒーローなんだよ。今だってそう。私には何をすればいいかなんて全然わからない。でもね、燈くんについていけばなんとなく…信じられないかもしれないけどなんとかなるって思うんだ」
そう言って私は笑う。
燈くんの顔が少し赤くなる。
もしかしたら、焚き火に照らされているせいなのかもしれないけど。
「あー…なんかこういうのってやっぱ恥ずかしいんだよな…」
そう言って頬を掻く燈くん。
そんな風な彼を見ると私は彼のことが…好きなんだと改めて思う。
ずっと前からの思いだ。忘れられなんかしない。
「ねえ、燈くん。私は君の行くところならどこだってついていくよ。どんな危ないところだって。だからさ、もっと私を見て。私はもう弱くない。地球にいたあの頃とは違うんだよ」
燈くんは何を言っているのかわからないとといった風にきょとんとしている。
そんな彼に思わず頬が緩んでしまう。
◇◆◇◆
燈くんが助けてくれたあの日。
中学生だった私は塾の帰り道に襲われて、自分で言うのもなんだけど可愛い私は犯されそうになったんだ。
気づいたらなんかよくわからない工場にいて、すごく怖かった。
暗くて、何が何だかわからなくて、でも、よくわからない男が近づいてくるだけのは見えてた。
もうダメだって、服に手をかけられた時は諦めた。
でも、そんな時に君が来てくれたんだ。
「…おい、そこのクソブタ。ここは俺の場所だ。失せろ家畜が!!」
そう言った燈くんは今にも私の服を破こうとした人を吹き飛ばした。足が上がってたから多分蹴ったんだと思う。
「…お前は?」
その時の燈くんはすごく怒ってて怖かった。
私は襲われた恐怖もあって声が出なかった。
「ちっ…ったく、なんでこう今日は厄日なんだよ…」
燈くんはポケットからスマホを取り出してどこかに連絡をした。
「ああ、俺だ。今すぐ来い、んで、この女をさっさと家に返せ」
そんな風なことを言っていた気がする。
あの時のことはは混乱してたからなのかあんまりよく覚えていない。
でも、次の燈くんの言葉だけは覚えてる。
窓から入った月明かりに照らされながら、先ほどの怒りが嘘だったかのような笑顔で、
「もう大丈夫だから。安心しなよ」
と言った。
その言葉がストンと胸に落ちて、私は理解した。
ああ、もう大丈夫なんだ。
そして…この人が好きだ。
おかしいかもしれないけど、そう思ったんだ。
高校に入って燈くんを見た時は運命だと思った。
でも、燈くんは私のことを覚えてはいなかった。それはとても悲しかったけど再開した喜びの方が大きかった。
彼が他の人のことが気になってるってわかった時は悲しかった。
隠しているようだったけどなんとなくわかった。
それからこっちの世界に来て…今はこんなに近くに燈くんがいる。
◇◆◇◆
私は目を閉じて、心を落ち着かせる。
そして、彼が私に言ってくれたあの言葉を言う。
「大丈夫だよ。安心して」
うまく笑えた自身はなかったけれど、私の心の全てを彼に伝えるつもりで言った。
そしたら、彼は少し驚いた顔で、
「…そうだな。気張りすぎてたのかもな…そんなんじゃこの先やってられないよな」
と笑った。
「…なあ『楓』」
「…うん」
彼が私の名前を呼ぶ。
「俺のため…それと、俺の友達のために力を貸してくれ。俺にはお前が必要だ」
彼が真剣な顔で私を見つめる。
私は名前を呼んでくれた喜びと、彼を思う気持ちでいっぱいいっぱいだった。
「…はい!」
私は彼にどこまでもついていくことを決めたんだ。
そして、話に夢中になってしまったせいでお肉が少し焦げてしまい二人で笑いながらそれを食べた。