冒険者ギルド
目の前には大きな…現代で例えるならば博物館のような建物がそびえ立っている。
上にある看板には剣と盾が描かれていて、いかにも冒険者ギルドっぽさを醸し出している。
(といっても、ゲームの知識だけどね)
「……ねえ、入らないの?」
ギルドの前に突っ立っている俺を訝しげに見つつ楓が言う。
「うるさいな、入るよ」
ーキィィ
(これがギルドかぁ…なんというか…まあ、うん、普通だ)
「おー…これがギルド…思ってたより普通だねー」
中には早朝だから多くの人がいた。
周りの人たちはやはり冒険者だと言うべきか、屈強な男が多い。
中には女の姿もちらほら見えるが、男に比べると数は少ない。
「あーあー…混んでるな…しばらく待つ?」
と、楓に聞いてみる。
「そうだねぇ…待とうかな…」
と楓が答えた。
時間つぶしに軽く話をしていると、
「おいガキ、ここはお前が来るようなところじゃねぇぞ?」
斧を背負った男と剣を腰に差した男の二人組が近づいてくる。
身体つきは燈よりもずっと逞しい。
「俺らはギルドに登録しにきたんだよ。お前らと話しに来たわけじゃない」
「ああ!?調子乗るなよクソガキっ!」
斧を背負った男が胸ぐらを掴み燈を持ち上げる。
「ち、ちょっとちょっとこれってやばいんじゃ…」
楓は慌てているがそんなことは気にしない。
「安心してろよ、問題ないから」
ニッと笑って言う。
「何笑ってんだよおい!!…てめぇ…面貸せよ」
「…悪いんだけど、そんなことをしている暇はないんだよね」
「お前にはなくても俺に…俺らにはあるんだよ!なめられたままでいられるかよ!」
燈を突き飛ばし、殴りかかってくる大男(斧)。
(…ったく…俺が何したっていうんだよ)
俺はその拳をさばいて相手の顔に拳を叩き込む。遅すぎてあくびが出そうだ。
「がはっ!」
「っ!?…んの野郎!!!」
剣を腰に差した男が剣を抜こうとした次の瞬間、
「そこまでだ!!」
力強い声が響く。
(誰だこいつ……ま、いいか。止めてくれたし悪い奴ではないだろう)
「マ、マスター!なんで止めるんですか!!」
「いや、だって最初から見てたし。仕掛けたのお前らだろ?殴り合いなら許容範囲だったんだが…」
(殴り合いはいいのかよ…)
呆れたような目でマスターと呼ばれる男を見る。
「…ま、さすがに剣を抜いちゃあ止めるだろ。死人は出したくないしな。お前らだってこんなつまらないことで怪我とか嫌だろ?ほれ、さっさと散れ」
しっし、と男たちを追い払う。
男たちは苛立った様子を隠そうともしなかったが逆らえないのか大人しくギルドから出て行った。
「さて…悪かったな、坊主と嬢ちゃん。あいつらは別に年中あんな風なわけじゃねぇんだ。今日はたまたま虫の居所が悪かったんだろうよ」
ガハハ、と豪快に笑いながらマスターとやらが言う。
ちなみに楓は先ほどから縮こまって俺の後ろから出てこない。
「虫の居所…ねぇ?…ま、いいさ。こっちは別に怪我をしたわけじゃないしな」
俺は軽く言う。
「悪ぃな。で、お前さんたちギルドに登録するんだろう?俺はマスターのドッケンだ。よろしくな。じゃ、頑張ってくれや」
そう言ってひらひら、と手を振りながら去っていった。
(あいつ…なかなか強そうだったな。見た目もゴツいしやっぱマスターっていうのはそういうもんなのかね)
などと考えていると袖を引っ張られる。
「ん?」
「…早く登録して行こう?」
ギルドに入る前とは明らかにテンションの下がった楓が言う。
まるでリスみたいな彼女に少し愛らしさを感じた。
「へいへい」
軽く返事をしながら受付に向かう。
「すいません」
受付のお姉さん…いや、美人に声をかける。
これはナンパではないとなぜか自分に言い聞かせる。
「はい」
凛とした声が響く。
「ギルドに登録したいんですけど」
「はい、それではこの用紙に名前、種族、使用武器などを書いてください。別に偽名でも構いませんし、書きたくないところは書かなくても構いません」
「わかりました」
説明を受けて用紙を受け取る。
(…日本語だな)
用紙を見て驚いたのは全て日本語で書かれているところだ。
漢字は使われてはいないがひらがなとカタカナが使われている。
(えーっと…まあ、名前はアカリ…っと。種族は当然人間…武器は…まあ、剣でいいだろ)
「夏山はどうだ?」
無言で紙を書いていた楓に声をかける。
「はい」
どうやらちょうど書き終わったらしく紙を渡してくる。
(名前はカエデ…人間…武器は槍か…まあ、見ればわかるけどな)
楓の背には槍があるので見れば使う武器はわかるので問題はない。
「これでいいですか?」
受付の美人に紙を渡す。
「…アカリさんとカエデさん…ですね。はい、大丈夫です。それでは次に、カードを作成致しますのであちらの部屋で魔力の有無などを判定してもらいます。もちろん、魔力などはなくても問題ありません」
「わかりました」
美人さんの指示に従って部屋に入る。
「それでは、こちらの水晶に手をかざしてください」
部屋には水晶が置かれており、他には特に何もなかった。
「なあ夏山」
「なに?」
「どっちからいく?」
「公平にジャンケンしよう!」
すっかり調子を取り戻したのか元気にジャンケンをする。
結果は…
「はい、じゃあ私からね!」
俺の負けだ。
(ジャンケンは戦いじゃないからなぁ…やっぱ負けるか)
加護で強くなるのは戦いであり、こういう遊びでは効果は発揮されないらしい。
そうこう考えているうちに楓が水晶に手をかざす。
すると、水晶が強く光った。
「眩しっ!!!」
思わず叫んでしまった。
「これは…」
美人さんが声を漏らす。
「えっとー…どうなんですかね?」
えへへ、と笑いながら楓が聞く。
「後ほどカードを渡しますので説明はその際にいたします……では、次はアカリさん。お願いします」
「は、はい」
美人に名前を呼ばれて少し緊張してしまったが、それを顔に出さないように水晶に手をかざす。
すると…水晶が緑色に近く染まった後に白くなり、最後には真っ黒になった。
「…これは…どうなんですかね?」
「…後ほど説明…させてください」
戸惑った様子の美人さんはやっぱり美人だった。
◇◆◇◆
「アカリさん、カエデさん。これがカードです。紛失した場合、再発行にはお金がかかりますのでお気をつけください」
「「わかりました」」
「それでは、カードの説明ですが…まず、これは冒険者であるという証明になります。加えて、個人の証明証でもあります。この先他国へと渡る際にはこれを提示していただければ、犯罪などに手を染めていない場合は問題なく門を通過できるでしょう。カードにはランク、受けた依頼なども書かれているのでそれも見ておいてください。もちろんお二人は一番下のGランクからのスタートとなります。ランクはGからSまであり、Sランクの状態で国などに貢献するようなことをしますと、SSランクとなることがあります。そのうえ、ギルドに危険視、もしくは貢献されているとSSSランクとなります。現在、SSSランカーは4人いますので、できれば会わないほうがよろしかと思います」
(危険視されてんのにSSSでいいのかよ)
「なぜですか?」
疑問に思ったので聞く。
「頭のおかしい人が多いからです」
「……」
なぜだかすごく納得することができた。
「ほかに質問はございますか?」
「えっと、水晶のことは…」
楓がずっと気になっていたのかうずうずしながら聞いている。
「失礼致しました。あの水晶は魔力の有無と属性、それと加護の有無を調べるものです。
加護持ちの人たちは強い人が多い傾向にあり、寿命も加護無しの人よりは長いとされています」
「それで私たちは?私たちはどうなんですか??」
チワワの幻覚が見える。
なぜだかわからないがチワワの幻覚が俺には見えている。
「まず、カエデさんですが…魔力はとても強く、大きいです。属性は、雷、光、治癒…それと聖属性が使えると思われます。加護に関してですが……オーディンの加護を得ています」
少し顔色悪く美人さんが説明する。
「オーディン??」
「はい。槍と雷の魔法に関して絶大なアドバンテージがあります。正直、街一つ落とすのに1日もあれば十分なくらいのレベルです」
「ええ!?やばい……それってあれじゃん!ラ○ュタの雷とかできるじゃん!!」
「するなバカ!!」
アホなことを言い出した楓の頭をはたく。
「いった!!ちょっと、痛いじゃん!」
「よく考えろよ。そんなことをしたら国から危険だって思われて暗殺やらなんやらされるに決まってるだろうが」
暗殺というところらへんから楓の顔色が悪くなる。
こいつは気を失ってたから知らないけど、実際にはもう襲われてるんだけどな。
「私、絶対そんなことしない」
冷や汗を流しながら楓は言うのだった。
そんな姿に苦笑しつつ、
「それで、俺の方はどうなってるんですか?」
と美人さんに聞く。
すると美人さんはさっきよりも顔色を悪くして、
「アカリさんですが…魔力に関してはあります。絶大、膨大などという言葉では正直表せません。水晶では測りきれなかったのでカエデさんのようには光らなかったのでしょう。
属性ですが…火、風、治癒、闇…それと虚無です」
虚無、という言葉を発した瞬間に今まで騒いでいたギルドが静まった。
(え、なにこれまずいの?)
「えっと…それってまずいんですか?」
美人さんは少し震えながら、
「…1日もあればこの国をおそらく文字通り消すことができるでしょう」
「…燈くん、私よりも危険人物じゃない」
「…ごもっともです。それで、加護の方は…」
「えっと…パンドラとあと…???です」
「???ってなんですか?」
「水晶でも把握しきれていない神…ということでしょう。パンドラの加護はなんといいますか…危機察知能力が上昇する傾向にあります」
「…それだけですか?」
「あとは、運が変動したりですとか…あまりわかっていないことが多いです。というかあなた加護なんて必要ないでしょうなんでこんなに異常なんですか!!
(逆ギレ⁉︎ いや、何ギレ⁉︎)
「……失礼しました。それではこちらがカードになります。」
「あ、あの」
楓が美人さんに聞く。
「なんでしょう」
「依頼のランクって私たちのランクに関係ないんですか?」
「討伐に関してはそうなります。ですが、護衛や採集といった依頼では基本的にはランクを守っていただきます」
「それじゃあ、めっちゃ高いランクの依頼を受けて高ランカーになるのもありってことですか?」
「…ええと…まあ、はい。そうなります」
少し言葉を濁しつつ美人さんが言う。
「そっか、じゃあ依頼を選んだら来ます!」
楓は元気に言う。
美人さんは冷や汗ものだ。
化け物級二人…多分目の前にドラゴンが二体いるようなものなのだから。
「燈くん!この依頼がいいな!!」
そう言って楓が持ってきて美人さんに渡したのは…
「ド、ドラゴン…ですか…」
(ていうか持ってくるの早いなおい)
心の中でツッコミをしながら考える。
ドラゴンがいるというハジャ山はパーム領に行く途中にあるらしい。
「あの、依頼の達成報告ってどこのギルドでもできるんですか?」
俺は聞いてみた。
「はい、討伐に関してはどこのギルドでも問題はありません」
「燈くん!ドラゴン狩りに行こう!!」
(さっきは男たちに絡まれて怖がってたのに…人間はダメっぽいなぁ…)
「ま、いいか。じゃあ、ドラゴン狩りに行くんで依頼の方お願いします」
「やった!」
「は、はい。わかりました…」
ひょんな事から、異世界二日目にしてドラゴン狩りに行くことになってしまいました。