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世界探求者はわりとチート!?  作者: 和
第一章 カーラント王国編
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王子との対談



暗くてどこにいるのかわからないような浮遊感の後、だんだんと白い光が近づいてくる。

近づいて近づいて…


「いってぇ!!!」


ゴン、と鈍い音を立てて頭を大理石のような床にぶつける。


「くっそ…なんだこの……?」


周りを見ると人、人、人。

それも同じ高校の制服を着ている。


が、さっきまでの昭和な雰囲気はどこにも残されてはいなかった。


「(ここが異世界とやらか…)」


注意深く観察していると…あまり見たくない顔が視界に映った。

告白して振られた相手だ。

忘れようがない。



「最低だなこれは…」


と呟くと、


「何が最低なの?」


と近くにいた女が話しかけてくる。


「おおっ!?いや、別になんでもないけど…」


「ふぅーん…ねえ、君、遠野燈君でしょ?

私のこと覚えてないの?」


「え?えーっと…」


自慢じゃないが女…それも目の前にいる美少女と言って差し支えない知り合いなんて出てこない。


「そっか…覚えてないかー…ま、それはおいおい思い出させればいいか…。私は夏山楓。

よろしくね!」


(夏なのか秋なのかわからない名前だな…)



「あ、ああ…まあ、よろしく」



と、自己紹介をしていると


「みなさん!私はあなた方を呼び出したこの国の王子、ルーノ・ディ・カーラントです!!どうか、私の話を聞いてください!」


(なんかお馴染みの金髪イケメンきた…)


テンプレとも言える金髪、加えてイケメン

なんか神聖な場所っぽいここにいるってことはそれなりに重要な立場なんだろう、と推測していた燈。

普段だったら慌ててそれどころではない…つまり、周りと同じようなのだが今はその変化に気づいていない。



「みなさんをこれから謁見の間に案内致しますので、どうか恐れず私について来てください」


(怪しいけど…まあ、今は従うしかないな)



みんなが素直についていく中、燈は警戒していた。


そんな燈に楓はついていくのだった。



◇◆◇◆



「余がカーラント王国第32代国王、ノーマン・ディ・カーラントである」


謁見の間に着き、玉座に座った男が言う。

周りには大臣らしき人が並び立っており、端々に騎士のような者も見える。


(なんというか…まあ、これもテンプレか)


男はいかにも美味しいものを食べて育ったような体型をしていた。


「お前たちには魔王を倒してもらう」


口を開いたと思ったらわけのわからないことを言い始めたよこの王様(デブ)


「そ、そんなこといきなり言われてできるわけないだろ!?」


誰だかわからない男子生徒(メガネ着用)。


「余に逆らうのか?…おい」


「はっ!!」


王が控えている騎士を呼ぶ。


「あの者の首をはねよ」


「は……?」


さすがの騎士も耳を疑ったのか、呆然と立ち尽くす。


「余に同じことを二度言わせるつもりか?」


「…し、承知いたしました」


やや青ざめたような顔の騎士が先ほど口答えをした生徒に歩み寄る。


「な、なんだよ…く、来るなよ!!」


王様の命令が聞こえていただろう男子生徒は近づいてくる騎士に後ずさる。


「…すまない」


「な、なんだよそれは!!…や、やめ…っ…」


一瞬だった。

生徒の首が、飛んだ。


「……え?」

「う、嘘だろ…」

「きゃあああああぁああぁあ!!!」


生徒の死体はまだ生にしがみつくように痙攣をしている。

周りの他の生徒たちは、現代の日本では絶対に見ることのない光景にパニックに陥っている。

その中で燈は、

(これはこの国をそうそうに見限ったほうが良さそうな感じだな…)

ただ1人今後の身の振り方を考えていた。



「ちっ…この様子では話もまともにできんな。おい、この異世界人たちに部屋を用意しろ!!食事もだ!明日、また話をすることにする」


王がそう言ったのでパニックに陥っている生徒たちは次々と気絶させられて運ばれていった。




◆◇◆◇



用意された部屋のベッドの端に腰を下ろして、俺は特に何の緊張もなく状況を確認していた。


(さて、時間がない…動くとしたら今夜しかないな…しかし、なんだ?前の俺だったら怯えてたはずなのにそれがない…これが加護ってやつの効果か?)


ーーコンコン

扉がノックされる。


燈は咄嗟に戦闘態勢に入る。

ここでなにかされては逃げられるものも逃げられなくなるからだ。


「誰だ?」


「あ、あの…お食事をお持ち致しました。」


「…悪いが、俺は食欲がないから遠慮させてくれ」


思い切り嘘だったが、食事に毒がある可能性は否定できないために燈は嘘をついた。


「そ、そうですか…それでは…また明日の朝にやってまいりますので…なにかあったらお呼びつけください」


「ああ」


(よし、まあ当分はこれでいいだろう…。考えろ…時間がない。どうやって出るか、まずは武器だな。素手じゃあやっぱり物足りないし。そうだな、とりあえず狙うのは…あの王子だ。あいつは謁見の間で王族の中で一人苦々しい顔をしていた。そうとなったら行動、だな)


なんだかんだ考えているうちに深夜になったので燈は計画を実行に移す。

計画と呼べるほど大袈裟なものではないのだが。


と、ドアノブに手を掛けようとした瞬間


ーーコンコンコン


「燈くん、起きてる?私、楓だけど」


(どうする…ここで寝ている振りをするのは簡単だが時間が惜しい…仕方ないか)


ガチャ…

「燈くん!よかった、実は食事に毒が入ってたらしくってみんなが…」


と、そこまで言った瞬間に燈が当て身で楓を気絶させる。


(やはり毒が入っていたか…こいつは…まあ、毒にかかってない時点で頭は悪くないだろうし連れて行くか…証拠を残すのもなんだしな)


もともと燈は当て身はできたがやはり高校生のお遊びレベルだったのだが加護のおかげで達人レベルまで戦闘能力が引き上げられていた。


「それじゃあ、いく…かっ⁉︎」


呟いて楓を持ち上げようとした瞬間、殺気を感じて楓を引きずりながらも背後に飛ぶ。


カッ!!

短剣が床に刺さる音が部屋に響き、全身真っ黒の人物が現れる。


「…外したか」


ギロリと目だけがこちらを向く。

声からして男だろうか。

刺さった短剣はそのままに、懐から新たな短剣を取り出し構える。


「…食事を食べたやつはそのまま放置。食べなかった勘のいいやつは暗殺ってか?なかなか下衆だな」


俺の言葉には何の反応も示さず、間合いをジリジリと詰めてくる男。


「…ふっ!」


一瞬で俺の前に来たかと思うと、短剣を振りかぶる。


ドスッ!!

枕に石を投げつけたようなくぐもった鈍い音とともに、ぴちゃんと液体が流れ落ちる音が深夜の部屋に響く。


「…悪いな」


そう呟く燈の手には短剣が握られていて、刃は深々と男の胸に突き刺さっていた。


「な、どこに…そ、んなものを…」


驚きに満ちた顔をする男とは対照に燈の顔には何も浮かんではいなかった。


「お前が自分で俺にくれたんだろ」


男はわけがわからないといった顔のまま、息絶えた。


「あんな取ってくださいって言ってるように短剣を俺に差し出してるから…」


燈の目には男がまるでスローモーションで動いているように見えていた。

やったことは単純。

手から短剣を取って、刺す。それだけだ。


「…早く行くか」


気絶している楓を背負い、夜の城へと歩き出した。


◆◇◆◇



(おいおい…なんだここの警備は…)


夜の見回りと言うものはほとんど存在せず、すぐに王子の部屋へと行くことができたのだった。


なぜすぐに着くことができたのかは燈の勘によるものが大きいのだが。


ーーーコンコン

とりあえずノックをする燈。


「誰だ?」


「はっ、殿下に少々お伝えしたいことが…」


燈は兵士の真似をした。


「…ああ、入れ」


ガチャリ…

ドアが開いた瞬間。


ーーーヒュンッ!!!


「危ねえな…怪我したらどうすんだよ」


俺が、ではなく背負っている楓が、である。


「なっ!?」


ナイフが燈の前髪を数本飛ばす。


王子は避けられたことに驚いて動けないようだった。


「まあとりあえず落ち着けって、俺は少し…か、どうかはお前次第だが…話をしにきただけだ」


「…なんの話だ」


王子は警戒しながら言う。



「この国がどうなっているか、と俺は…いや、俺とこいつはここを出て行くっていう話だな」


「………」


王子は黙ったままこちらを見る。


「悪いが俺はこの国を信用なんてできないんでな。だからここを出て自由に生きさせてもらう」


「…そうか…」


王子はホッと息を吐き言う。


「話をする前に名前を聞かせてもらってもいいだろうか?」


「俺は遠野燈…いや、アカリでいい。こいつはカエデ…だな」


「では、アカリ…と呼ばせてもらおう。アカリの考えている通り、この国は危うい。王である父は狂ったように魔王を倒そうとしている。今は父だけだがそのうち周りの貴族からもそういう輩が出てくるかもしれん。が、本来魔王は倒すべきものではないのだ…」


「どういうことだ?」


「魔王とはただ、魔族の王というだけであり我々人間の国の王というものと変わらない。戦争が終結したのは何百年も前のことだが…なぜだかわからないがここ最近、国内外で紛争、戦争、差別が起き…激化していっている」


「…続けてくれ」


「…激化した理由は魔王のせいだと何故だか父は思い込み、君たち異世界人を召喚したのだ。異世界人は我々たちとは違い能力が高い者が多いからだろう」


「なるほどな…で、ルーノ…だっけか?お前はどうしたいんだ?」


「私はできることならば父を止めたい。民のために行動できずになにが貴族…なにが王族だろうか!…だが、私にはまだ力がない。権力も何もかもが父には敵わない。だが、私は必ずこの国を変えてみせる」


「へぇ…」


俺は内心驚いていた。

この国の王がクズだってことはわかっていたことだが、息子はこんなにも正義を貫こうとしていることに、だ。


「じゃあ、俺はお前に手を貸すよ。自慢じゃないけど、俺強いらしいからさ」


「いや、それはわかるが…いいのか?」


「ああ、俺とお前はもう友達だ。少なくとも俺は友達を見捨てるような真似はしねぇよ」


「友達…か。ありがとうアカリ」


「で、これからどうしようと思ってるんだ?



先ほどとは違う質問。

どうしたいか、ではなくこれからどうするか、という具体的な質問。


「この国の国境近くにパームという領地がある。そこを治めるパーム伯爵は昔王城に勤める優秀な人物だったのだが父に反発したというだけで…」


「飛ばされたのか」


「まあ、そういうことだ。アカリ、君にはパーム伯爵とコンタクトを取ってもらいたい。彼はかなり頭の切れる男だ。味方に引き入れることができたのならかなり心強いだろう。」


「わかったよ。で、報酬は?」


「そうだな…これだけのことをしてもらうというのだから…宝物庫からなにか武器を持っていくといい。前払いだが…その分君は働いてくれるだろう?」


悪戯っ子のような笑みを浮かべてルーノが言う。


「…はぁ…ま、いいか。武器は必要だしな。あ、こいつの分も持っていくけどいいか?」


「…まあ、仕方ないな。投資のようなものとでも思っておこう」


ルーノは少し難しい顔をして言った。



「サンキュー、じゃ、いただいていくわ」


「アカリ、向こうに着いたらこの手紙をパーム伯爵に渡してくれ」


王家の印とでもいうのだろうか、貴重だと思われる手紙を渡してくる。


「へいへい」


俺はそれを受け取って懐に入れる振りをしてアイテムボックスに入れた。


「それではアカリ、頼んだ」


「任せろよ、この国を俺が…いや、俺らが変えてやろうぜ」



そういって拳を合わせた。



…のだが、


「ごめん、ルーノ。宝物庫ってどこ?」


「…この部屋に隠し通路があるからそこから行け」


最後はかっこよくは決まらないらしい。




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