心
湖に着いて野営の準備をしたところで燈くんは疲れてしまったのか、近くの木に背を預けて寝てしまった。
その寝顔は街で見た時よりずっと穏やかだった。
多分気づかないうちに疲れとかが溜まってしまっていたんだと思う。
彼は他人に対しては臆病で、ずっと気を張っているから。
私は寝ている燈くんの隣に座って空を見上げる。
いい天気だ。
難しいことは彼が自分でなんとかするしかない。
私はただ彼を支えて、見守る。
彼が正しいのなら肯定し、間違っているのなら正す。
そうやって一緒に歩んでいけたらいいな、と思いながら目を閉じると、急速に意識が遠のいていった。
◇◆◇◆
俺は夢を見ていた。
いや、夢というには実態がありすぎる。
だが、夢なのだ。
「なんでこんなところにいるんだ?」
ただ真っ暗な部屋に一人で座っている俺。
周りを見渡してもただひたすら黒い。
しばらくすると白いドアが現れた。
黒い空間に白いドア。
なんとなく開けなければならないような気がして、手を伸ばす。
ドアノブに手をかけて回す。
ドアを開け、中に入ると、そこは白い空間だった。
そこには一つのテーブルと、三脚の椅子、そしてその一つに黒い人が座っていた。
「やあ、こんにちは」
黒い人が話しかけてくる。
「お前は…?」
「僕かい?僕は君さ。君が君であるように、僕は僕さ。本当は『彼』もいるんだけど…どうやらまだ眠っているようだね」
「何を言ってるんだ?」
黒い人物がなにを言っているのかが理解できない。
「わからないかな?ま、そのうちわかるよ。ここは、君の精神世界とでも言うべきところかな」
「俺の?」
「そう。普通はここには来れないようにしているんだけど…今回はちょっと、ね」
「……」
俺は黙って下を向く。
「どうやらわかってるようだね。いいかい、君が君であるように、僕は僕、そして『彼』は『彼』なんだ。僕には力はないけれど、『彼』と君には力がある。気をつけなければいけないよ?君が気づかなければ、君はまた失うことになるかもしれない」
「…どういうことだ?」
俺の頭には何もない。
「…僕からは何も言えない。けれど、覚えておいて欲しい。君は強いけれど無敵じゃないし、最強なわけでもない。君は認めなければいけないんだよ」
「なにを…?」
「ああ、もう時間みたいだ。できればもうここには来ない方がいいよ」
意識が遠のいていきそうになるのを堪えながら黒い人へと詰め寄る。
「どういうことなんだ!説明…し、ろ…」
遠のいていく意識の中で、黒い人が浮かべていた人の良さそうな笑みが俺の頭に強く残った。
◆◇◆◇
目を覚ますと陽が沈みかかっていた。
隣に座っている楓を起こさないように立ち上がって顔を洗うために湖に近づく。
(ひどい顔だな…)
湖の水にうつっている自分の顔を見て苦笑する。
夢の内容はなぜか曖昧であまり覚えていないがいい内容ではなかったのだろう、ひどく疲れている顔をしている。
(心配させちまったのかな…)
顔を洗って木に寄りかかって寝ている楓を見る。
気合いを入れるために頬を叩いて立ち上がり、枯れ木を集めて火をつける。
パチパチ、と火花が散る様子を地面に座って見ながら特に何があるわけでもなく上を見上げる。
もう陽が沈み、空が暗くなり始めていた。
すると、腹が鳴る。
「あー…飯、か」
アイテムボックスから適当に材料を取り出しスープを作ってパンを取り出す。
そこまでしたところで木に寄りかかって寝ている楓を起こす。
「起きろ、起きろよ」
「ん…燈くん…?」
目を覚ます楓。
「ああ、そうだ。ご飯だぞ」
「うん…」
その夜は始めて会話もなく、ただ食べ物を腹に入れるような味気のない食事で、そして楓が心配そうな目で俺を見ているのがひどく印象に残った。
少なくてすいません…
次は頑張ります