新しい街
しばらく歩き森を出ると街が見えてくる。
「やっとか…なんだか疲れたな」
燈が呟く。
その呟きを耳にしたクリスは苦笑した。
「そりゃあ…虫が出るたびにあんなにパニックになってたら疲れもしますよ」
「仕方ないじゃん!だいたいなんであんなに出てくるのよ…思う出しただけでもう…」
両手で身体を抱いて少し震える楓。
「私も虫は平気だと思ってたんだけどねぇ…流石にあれはダメだったよ」
サーシャも思い出したくないと言う様子だ。
「でも結局お前ら戦ってなかったろ。ほぼ毎回戦ってた俺の身にもなれってんだよ」
「いいじゃん燈くん虫平気だし、そんな疲れてないし」
「そうだけど…ま、素材集めにもなったからいいか…」
「あはは…僕もびっくりしたよ。あの森はいつもはあんなんじゃないんだけど…」
森にいた時、まるで燈が虫寄せのハチミツのような存在だったとでもいうのか、信じられないくらい虫が寄ってきた。
そのたびに女性陣は顔を引きつらせ男性陣は周囲の警戒をして…その繰り返しだった。
「しっかし、いくらになんのかねぇ…まあ足しになればなんでもいいや」
と話していると街の門に到着する。
「身分証を提示してくれ」
二人いる門番のうちの一人が言う。
「はい」
まずククリとサーシャがカードを見せる。
「お前らは働き者だよなぁ…ったく詰所にいる後輩にも見習ってほしいぜ…ああ、通っていいぞ」
「あはは…じゃ、頑張ってくださいね」
「まあ、気楽にやるさ。…っとお前たちは初めてだな。身分証の提示を頼む」
「ああ」
「はい、どうぞ」
燈と楓もカードを見せる。
「うん、特に問題ないみたいだな。お前らも通っていいぞ」
「サンキュー」
手をひらひらと振って門番と別れる。
街を見渡すとなかなかの賑わいだった。
まだ昼間だからなのか色々な声が飛び交っている。
「じゃあまずはギルドに案内しますね」
「ああ、頼むわ」
クリスの後ろを付いて歩きながら周りを適当に見る。
「わあ〜、見て見て燈くん!きれいだなぁ…」
たまたま開いていた露店で売っているペンダントを見て目を輝かせる楓。
「お、お嬢ちゃんいい目してるね!このペンダントには魔法が込められてるんだ。ちょっと高いけどその分性能は保証するよ!」
露店商のおっちゃんが生きのいい声で楓を呼び止めペンダントの説明をする。
「きれいだなぁ…どう、燈くん…似合うかな?」
ペンダントを首に当ててはにかむ楓。
(…っ!…その顔は反則だろう…)
動揺を顔に出さないようにしながら
「うん、似合ってるんじゃないか?」
少しそっけない様子で言う。
「そっかそっか…えへへ…あ、ごめんね。早くギルドに行こっか?」
少し残念そうにしながらも楓はペンダントを返して俺の手を引いて行く。
俺はそんな楓を見て、その後に露店商のおっちゃんにアイコンタクトでまた来ると伝えた。
きちんと伝わったかはわからないがおっちゃんは笑顔で頷いていた。
◇◆◇◆
「ここがこの街のギルドです」
案内された建物は意外と大きく、頑丈そうだった。
「今は昼間だからみんな出払っていないでしょうけど、案外気の良い人が多いんですよ」
ククリは少し自慢げに話しながらギルドのドアを開けて中へと入っていく。
「それじゃあ、僕たちは依頼の報告をしてきますね」
そう言ってクリスとサーシャは受け付けへ行った。
「私たちはどうしようか?
「うーん…素材の買い取りでもしてもらおうかな。行くか」
俺たちは買い取りカウンターへと向かう。
「すいません、素材の買い取りをお願いしたいんですけど」
「はい、どういったものでしょうか」
「…虫、ですかね」
「…承りました」
少し嫌そうな顔で受け付けの女の子が言う。
年は俺たちと同じかそれより下だろう。
「じゃ、頼みます」
そういって素材(虫)をアイテムボックスから次々と出していく。
女の子は最初は澄まし顔をして流していたのだが、量が多くなるにつれて顔が青くなっていく。
「こんなもんかな」
「は、はい。少々お待ちください」
ちなみに楓は虫はもう見たくないという様子で明後日の方向を向いて黙っている。
「それでは、銀貨五枚になります」
「はいよ、ありがとさん」
受け取る時に手が少し震えていたので、少し申し訳ない気がしたけど、仕方ない、これが仕事なんだよお嬢さん。
金を受け取って、懐に入れると見せかけてアイテムボックスに入れる。
(まあまあの金額か…あれで銀貨五枚ってなると…まあ、普通に生きていく分は余裕で稼げるな)
ちなみにランクは依頼でしか上がらないので高ランクモンスターを討伐して素材を売っても意味はない。
「アカリさん!」
「ククリか。もう終わったのか?」
「はい」
「そうか。じゃあ…そうだな、いい宿はないか?」
「宿…ですか?」
「ああ、宿に泊まって少しこの街を観光でもしようかと思って」
「それはいいんですけど…この時期にそんな宿に空きがあるかどうか…」
「時期?」
「はい、一週間ほど後に祭りがあるんです。なかなか大きい祭りで他の街からも人が来るんですよ」
「そうか…なあ、楓。少しこの街でのんびりするか?」
「私は燈くんの好きにしていいけど…少し興味はある、かな?」
「そっか。クリス、宿を紹介してくれ。しばらくこの街にいることにする」
「そうですか!それは良かった!こんなくらいじゃ恩返しになるかはわかりませんが、精一杯頑張りますね!」
「頼む」
急がなくてはいけないが『飛翔』もあるので
少しくらいなら問題ないだろう。
そんなことを考えながら、クリスの後を付いて行った。