驚きばかりで非常識
遅れてすいません…
年末年始は忙しかったんです。
これからまた更新していこうと思いますのでどうかお付き合いしてくださると嬉しいです。
街に近づいていくにつれ、燈の非常識な視力が門のところで見張りをしている兵士を捉えた。
(あー…このまま街に入ってバレるとなんか捕まりそうだなぁ。…あそこの森にでも降りるか)
街から少し離れた森に着地する。
「ちょっと失敗だったかな…歩きにくい」
森は自然が豊かなのか、草が伸び放題で歩きにくかった。
「…虫とか出たら魔法連発するからね」
燈をジト目で見ながら少し低い声で楓が言う。
「…自然破壊は良くないと思うぞ」
と、適当に返して街の方へと歩き出そうとしたところで
「きゃあああああああ!!」
女の叫び声が聞こえた。
「びっ…くりしたー…!」
いきなり叫ぶから身体がビクッてなっただろまったく。
「どうするの燈くん?助けに行くの?」
楓は何の反応もすることなく聞いてくる。
本心では森から早く出たいと思っているはずなのに助けに行くか聞いてくるのはお節介だからかな。
「ああ、聞こえなかったら放っておいたけど…聞こえちまったんだから仕方ない」
そう言って二人で声のした方へ走り出す。
◆◇◆◇
「くそっ、なんでこんなところに!」
少年は腰を抜かして動けなくなっている少女を庇いながら巨大なカマキリと戦っていた。
キリキリキリ、と不快な音を立てながらカマキリは彼らにゆっくりと近づいていく。
普通の状態ならばカマキリを牽制しながら逃げることくらいは可能な実力は彼らにあるのだが、依頼が終わり疲労した状態の彼らにとってそれは厳しく、加えて少女の方は今は戦力外と言えるので現状を維持するのが精一杯…いや、段々とカマキリが優勢になってきている。
「こんなところで終わるわけにはっ…!」
少年がそう言うも何かが変わるわけでもなく、カマキリの無慈悲な斬撃が少年を狩ろうとしたその瞬間。
キュイィィイイィイ!!
閃光が走った。
◇◆◇◆
燈と楓の二人が悲鳴の発生元と言える場所へ着いたとき、少年と少女の二人が巨大なカマキリと戦っていた。
いや、戦っていたというよりは必死で足掻いていたと言う方が正しいか。
隣にいた楓の顔が真っ青になっていくのをみた俺は嫌な予感がしたので楓の口を手で塞いだ。
「お前まで悲鳴をあげてどうする」
潤んだ瞳で俺を見つめてくる楓。
首を横に振って無理だという合図を送ってくる。
「はぁ…我慢してくれ。俺があいつを倒すから俺の合図に合わせて目眩ましを頼む、いいか?」
泣きそうな顔で頷いたので手を離す。
めっちゃ可愛いんだけど今はそんなことを気にしている場合ではないのを思い出して気を引き締める。
「よし。じゃあ頼むな。三…二……一…今っ!」
そう言ってカマキリの元へと飛び出す。
それに合わせて閃光が走る。
今にも少年をその鋭い鎌で細切れにしようとしていたカマキリは一瞬怯んだ。
燈がその隙を見逃すわけがなく、剣を抜いてすぐさま首と鎌を斬り飛ばす。
ズン、と五メートル近いその巨体が地面に倒れこむ。
脚はまだピクピクと痙攣していたが。
それを見た後で、少年に笑いかけて声をかける。
「悪いな、邪魔したか?」
「い、いや…助かったよ。礼を言う」
少年はひどく驚いた様子で言った。
無理もない、周りが光ったと思ったら次の瞬間には襲ってきていたカマキリが倒れているのだから。
「そっちの女の子も、大丈夫だったか?」
「え、ええ…ありがとう」
こちらも少年と同様に驚いていた。
もう死ぬんだと諦めかけていた状態だったので尚更だろう。
「おーい楓!もういいんじゃないか?」
「…それ、早くどっかやって!」
カマキリを指差して楓が怒鳴る。
俺は笑ってアイテムボックスにカマキリをしまう。
「ア、アイテムボックス…!?」
少年が震える声で呟いた。
「ん、なんだ?めずらしいのか?」
燈は特に何を気にするでもなく尋ねる。
「珍しいなんてもんじゃない!そんなものはダンジョンにあるアーティファクト…それも古代のものだ。この世界には持っている人は両手で数えられるほどしかいないはずだよ」
予想外の事実に今度は燈が驚く。
(これってそんな珍しいもんだったんだなぁ…まあ、容量は無限とも言えるし言われればそうか)
なんとなく納得したところで、楓が燈の元にやってくるが、その顔には少しの不安が読み取れる。
「街に行かないの?」
顔だけでなく声まで気持ちを表しているようだった。
「ん、ああそうだった。なあ、お前らもし街まで行くんだったら一緒に行かないか?」
燈は二人に聞く。
「そうだね…もし良ければこちらからお願いしたいくらいだ。僕の名前はククリ。冒険者で、ランクはDだ。こっちの女の子はサーシャ。僕と同じDランクでパーティを組んでる」
「サーシャよ。それにしても…二人ともそんな軽装でよく旅してるわね…」
訝しげな目でサーシャが二人を見る。
「ま、気にするな。俺はアカリ。こっちは相方のカエデだ。よろしくな」
「カエデです」
それぞれが握手をして、自己紹介を終える。
「おし、じゃあ出発だな」
燈が言い歩き出そうとしたところで、
「いたっ!」
サーシャが座り込む。
「どこが痛むんだい!?」
焦った様子でククリがサーシャに聞く。
「あ、足が…」
そう言うサーシャの足を見ると腫れ上がって痛々しいことになっている。
おそらく挫いたか…捻挫だろう。
「これじゃあ歩けないわね…」
「ちょっと触ってもいいか?」
「え、ええ…」
許可を取ってサーシャの足に触れる燈。
「これくらいだったら余裕だな、楓いけるか?」
「うん、大丈夫」
そういって楓は屈んでサーシャの足に手をかざす。
すると、楓の手から柔らかな光が出てサーシャの足を覆っていった。
「これは…治癒魔法!?」
ククリが驚く。
もうこいつは驚いてばかりだと燈は笑う。
「うん、こんなところかな…どう、痛くない?」
腫れが引いたところで楓が聞く。
立ち上がって踏み込んだり跳ねたりした後、サーシャは笑顔になる。
「うん!痛くないわ!凄いわね…治癒魔法を使えるだけでも珍しいのにこれほどの使い手は見たことがないわ」
「そうかな…」
照れた様子の楓。
「おし、じゃあ気を取り直して…行くか」
燈と楓、それにククリとサーシャの一行は街へと歩き出したのだった。