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第3章

ズザザザザザザザッ―――

四人の喧嘩、もといバトルを開始する掛け声とともに、それぞれの手から銀色で光沢のはっきりした円盤のような物体が発射された。フリスビーの感覚で投げられたそれらは、バスケットボールを上から押しつぶしたような形をしており、件のベルトと同質の素材で作られたもので、これもまた異能の力を行使するのに必要な物だった。

ガキンッ! 四つの円盤は地を這うように進むと、勢い良く互いにぶつかった。その瞬間、和馬は大声で呼びかける。

「そこの生徒、危ないから離れろ!」

 不良三人にいじめられていた先の気弱そうな少年に向けてだ。少年はかなり驚いた様子である。おそらく異能バトルを見るのがはじめてなのだろう。しりもちをついたまま、わなわなした風ながら、その場からなんとか体を遠ざけることができたのを見て、和馬はひとまず安心する。

 ゴオオオオオオオオオッ! 少年に対して、それ以上の気を回す余裕はないようだ。ベイゴマの対戦のようにぶつかり合う四つの円盤から突如轟音が発生、かと思うとそこを中心に暴風が吹き荒れはじめた。それはまさにハリケーンや竜巻と形容するにふさわしく、一気にその規模を拡大させ、不良三人と和馬を飲み込んだ。これこそが異能の力を制御できる特殊なフィールドである。暴風の中という結界で、異能の行使者である四人はまるで台風の目の中にいるかのような静けさに包まれていた。暴風という壁が、異能バトルによる他所への被害を抑える役割をするということだ。

「さて、そろそろだな。」

「・・・・・・・・・・。」

 不良その一がにやりと笑みを浮かべる。そうしているうちにも異能バトルシステムは着々と準備を進めていく。まずは、四人の当事者たちの体が、金粉によって輝き始める。それほどはっきりときらきら輝いているわけではないが、何か不思議なオーラを身に纏うような容貌を見せる。それこそまさしく、異能バトルにおいて一番重要といっても良いものかもしれない。それは、纏う者たちを外部からの刺激から守る役割、いわば緩衝材の役割をこなすものであった。普段では経験しないような大きな刺激が発生する、異能バトルフィールド内ならではのシステムだ。次に、対峙する和馬と不良たちの間に、突如幾枚もの巨大なカードがどこからともなく出現した。人間の半分くらいの大きさはあるかもしれない。その数、数え上げること計五十二枚。そして、いずれのカードにも両面に魔方陣のような模様が記されている。普通の人ならこのカードの示す意味が分からないかもしれないが、異能力者にとってはこのカードこそが実際の攻撃媒体となるので、分からないわけがない。要は、トランプのことである。両面が魔方陣模様でプリントされてしまっているので、なんの数字がそれぞれにあるのか分からない神経衰弱みたいな形でバトルフィールドは完成した。

「まずは、一枚目ーー!」

 不良その一が最も自分に近い場所にあるトランプカードに触れた。すると、先まで巨大だったそのカードは、いきなり微小な光を発したかと思うと、一気にその大きさを小さくした。もはやそれはすでに普通のトランプカードと同じくらいの大きさで、不良の手におさまっっていた。そうして、彼はそのカードを、腰に装着したベルトのポケットにセットする。五つのポケットのうち一つが信号機のように点滅、そしてカードの中身が明かされる。ハートの2。そして、それは異能を発現させるトリガーとしての役割を担い、果たして力が放たれた。

 シュコンッ! 

「!?」

 なんともまぬけな音を発して現れたのはホースだった。どこの蛇口から引いてきているのかは不明だったが、そのホースの先からぽたぽた水が垂れている。

「なっなんじゃこりゃーー!?」

 異能の力で実際にホースを出現させた不良その一、当の本人が悲痛の叫びをあげた。こんな大そうなシステムを使ってまで行使した異能力の果てが、小学校のトイレ掃除で使うような、なんとも言いがたい微妙な物体であるのだからそうなるのもまあ仕方のないことだ。とはいえ、これは異能バトル内では当然の帰結ともいえる。異能バトルにおいての異能の力の発現は、基本的にベルトにセットしたカードによる。つまり、セットされたカードの種類によって発現する異能は変化し、カードの数字が大きければ大きいほど優秀な力が発現されるのである。となれば、不良その一にセットされたカードはハートの2。これはかなり、弱いカードである。それ相応の異能の力として、ホースが出現するのは決して不思議なことではなかった。

「全く何やってんすか、運無さすぎですよ、兄貴。」

 そう言って不良その二が動いた。ささっと、不良その一と同じように手近なカードに触れる。ただ、違ったのは彼の場合、触れたのは一枚のカードではなかったということ。一気に五枚のカードを連続でタッチしていった。

「ばか、おめえ。1フェイズにつきカードは五枚しかセットできねんだぞ。」

「大丈夫ですってー。」

 不良その一の警告を軽く無視するその二。彼らの意味するところは簡単だ。実は、異能の発現においてその力の優秀さを規定するのは、セットされたカードの数だけではない。1フェイズにつき最大五枚までカードをセットすることができ、そのカードの組み合わせで、より優秀な力を発揮することが可能なのである。つまりはポーカーの要領である。ほどなくして、不良その二にセットされた五枚のカードの中身が明かされた。クローバーの3、ハートの1、ハートの3、スペードのジャック、ダイヤの7。

「きたぜきたぜ、ワンペア!!!」

 不良その二が嬉しがるのも当然である。基本的にカードの組み合わせによる異能の発現のほうがカード単体の力より強い。そのため、今回の場合数字的にはジャックが一番強いので、普通ならジャックによる異能が発現するのだが、組み合わせは単体カードに優先してその力を発現する。つまり、ワンペアという組み合わせによる異能の力を行使できるというわけだ。

 ゴゴゴゴゴッ! 地鳴りのような音とともに、不良その二の立つ両サイドの地面から二つの直方体の大きな岩石が出現した。それは、現れるや否や地面から浮遊し、不良その二のコントロール下に置かれた様子となる。浮遊した岩石は、不良その二の手の動きに連動するように動いている。なるほど、岩石を念力のような力で自由に動かせる力を発現させたというわけだ。あの岩石を思い切りぶつけられれば、いくら金粉のシールドが緩衝材になってくれるとはいえ、かなりのダメージを負いそうだ。さすがは組み合わせ能力、といったところか。

 最後に不良その三、丸々太った豚のような男がカードに触れ、異能の力を行使した。出現したのはいかにも凶悪そうで獰猛な猪だった。彼のセットしたカードがクローバーの1であったので、予想外に優秀そうな異能が発現したと思われた。しかし、そう感じられたのも一瞬。その猪は出現するや否や、その主人たる、不良その三めがけて突進し始めた。やはり、カードと力の関係は絶対的であるようだ。自分に襲い掛かってくる獣、コントロールの効かない獣を召喚する異能、確かに1という最も弱いカードにふさわしい力である。

 さて、不良たち全員の異能が発現し、実際のバトルが遂にはじまった。とはいえ、一人はすでに猪からぎゃーぎゃー喚きながら逃げ回っているだけなので、実質三人のバトルになった。緊迫したフィールド内で豚みたいな奴が獰猛な猪に追いかけられる様は、なんともシュールである。案外、逃げ回っていられているので、体型に似合わずそれなりに足は速いのかもしれない。いや、確か猪は基本的に人間よりも足が遅いとかいう話をどっかで聞いたことがあるぞ、と和馬が遠い日の記憶をなんとなしに思い出していたのだが・・・・・。そんな悠長なことは言っていられない。ちょっと変な雰囲気だが、これは大真面目な異能力のぶつけ合いなのだ。

「おおおおおおーー!」

不良その一が異能で発現させたホース片手に和馬に一気に詰め寄った。そして、ホースの先をつまみ、水を浴びせかけようとする。これはこれでなにかおかしい。先ほどは三人によるバトルと考えたが、こいつも排除してよいかもしれない。和馬は若干あきれつつも、濡れるのは嫌だったので、鋭く向かってくる水かけ攻撃をさっと簡単にかわしてみせた。ただ、和馬がそのさなか考えていたことは水をかわすこと、それ以外にもう一つあった。それは、異能力バトルについて多少なりとも知識のある人からすれば信じがたい、何か圧倒的な余裕を持ち合わせた驚くべきことだった。

(さて、今回はどの“組み合わせ”でいこうかな。)

 この余裕は通常の異能力者では当然発揮できないものである。なぜなら和馬の意味するそれは、まるで自分の好きなカードの組み合わせを自由に選べる、そんな風に捉えることのできるものであったからだ!



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