かえる。
「ふふふ……ふへへへ……うへへへへ……」
金色の髪を撫でる度に、卯咲さんがくすぐったそうに笑う。
世界一周の旅を終えて外に出ると、卯咲さんはもう僕なんて見えてないかのようなあからさまな無視をするので、もうダメかと思いつつ、恐る恐るその髪を撫でてみたら意外とあっさり機嫌をなおしてくれた。
この程度のことでここまで喜んでもらえるとは、愛は魔法だね。
他の二人はというと、再びチュロスを買い与えてやると大人しくしている。
チョロいもんだ。
「ごひゅじんごひゅじん、この筋のところにいっぱい溜まってる白いのが――」
「それはさっきも聞いた。いいから黙って食べなさい」
「さくら、これ長くて硬くてちょー好きれふ」
「そこだけとりあげて褒めるな。チュロスってちゃんと名前で言いなさい」
「ちゅろしゅ、しゅきれふ」
くそっ、チュロスって名前を付けた奴は天才だな!
一方、とっくに食べ終えた小毬は口の周りを陽の光でテラテラ光らせている。
いや、それは別にいいじゃないか。
もしかして、僕の脳の方がおかしいのか?
「小毬、おいしかったか?」
「うまいのなんの」
「そっか。次はもっと楽しいやつ乗ろうな。どんなのがいい?」
「かえる」
「え、いや……」
一瞬、卯咲さんの頭を撫でる手が止まりかけた。
「こま――」
「かえる」
「でも――」
「かえる」
攻めてくるね小毬ちゃん。
「かえる」
「ケロケロー」
「…………」
別に。
今ので小毬が笑うとは思ってなかったけど。
「かえる」
もうこの言葉しか喋るつもりがないようだ。
どうやら、さっきの世界一周が心底怖かったらしい。
だからといって、まだ昼前のこのタイミングで帰れるはずもない。
僕は構わないが、せっかく回復した卯咲さんのご機嫌を再び底辺まで落とすような発言は避けたい。
そうなると取れる手段はもう決まっている。
「よし、ご飯食べに行こう!」
「…………」
小毬は僕の目をまっすぐ見つめたまま黙りこむ。
……さすがにあからさま過ぎたか?
そう考えたところで、遅れてのレスポンスがあった。
「かんどうした」
彼女なりに打ち震えていたらしい。