肉の欠けた動く……
「ほぅほぅ。【一匹狼】ってもしかしてそこから来たの?」
それを探求心の高いアキが隣へと座ってキリに聞き始めた。どうやらキリの話を聞いていたらしい。
「はぁ? どこからだよ」
「だからぁ。自分はもう一人だーみたいな」
「別に。二つ名は勝手に付けられただけだ。それにレナも居たしな。二つ名は関係ねぇよ」
確かに。キリが好んで人から嫌われるような事をする人じゃない事をボクは理解しているつもりだ。
自分から【一匹狼】なんて付けないだろう。
もし嫌われるような人だったらレナが一緒に居なかっただろうし。
「リク君。食べ終わったら食器を頂戴。レナさんに頼んで一緒に洗ってもらうから」
「あ。ありがとうございますソウナさん。じゃあ、お願いします」
会話している内に全てを食べ終えてしまっていたボクはソウナへと食器を返す。どうやらキリはとっくに食器を渡していたらしい。いつのまに……。
「ま、あんまり暗い話を聞くつもりは無いけどねぇ。話したくないなら。それよりリクちゃん! リクちゃんは子供のころ何か無かったの?」
「お前、初めからそっちが目当てだったんじゃねぇか?」
キリに呆れられつつもアキがボクへと顔を近づけてくるのでボクは戸惑いつつ後ろへと身を引いた。
その目は期待に満ちた目なので何か言わないかぎりこの状況が打破されないだろう。とは言っても子供のころに何かあったと言われると、毎日のようにありましたとしか言いようがなかった。今はそれなりに落ち着いた方だろう。
……たぶん。そう思いたい……。
「ええっと……母さんが思いついたことは必ず実行するような人ですから……ボク達を巻き込んで」
「へぇ。例えばどんな事? 海だとか、山だとか?」
「大体そんな感じです」
それが例え平日でもそうなのでボクもユウも困っていた。
いや、ユウは案外楽しんでいたのかもしれない。性格が母さんに似ているし。
「でもでもお兄ちゃん! 一番記憶に残ってるのって雪山なんじゃないの?」
ユウが近づいてきてそう言うと、アキが「雪山?」とハテナを浮かべて首を傾げていた。
「そういえばリクちゃんが前に例えで言ったのが雪山だったな。確か……私服で雪山に放り出されたとか……」
「どんだけだよ……カナはよ……」
確かに雑賀にもそんな話をしたような気がする。
「そんなこともあったね~。あれはたしか小学校の頃だからウチも巻き添えを……。寒かったね~……かなり」
マナが全ての片付けを終えたのか、こちらに向かってきていた。
そう。母さんはボクやユウだけでなく、この雪山にはマナと真一まで巻き添えにして放り出したのだ。
経緯としては、朝、母さんが「寒いから雪山に行ってスキーでもしたいわね♪」とか言って状況の呑込みについていけて無かったボクの袖を掴むと、ユウと一緒に外に出された。
そしてマナの家と真一の家に言って親に何も言わずに連れ出されると、赤砂学園に来てヘリに乗せられた。もうこの状況で諦めたボクは再度驚きに包まれた。
――雪山についた途端スカイダイビングをさせられたのだ。
背中にいつの間にかパラシュートが付けられていたので良かったが。いや、良くない。とても言い表せない寒さだった。私服だったから。
だけど、そんなことよりもその雪山が一番記憶に残っている理由は、大吹雪が吹く中、爆発音のような音がしたのだ。泊まったホテルの中がとても騒がしかった。雪崩が起きるのではないかと。
ボクやマナ、真一もその心配をしていた。なぜならその時母さんと一緒に居たのだが、もう一人いたはずのユウがどこにも見当たらなかったのだ。
午前中に突如として消えたユウをボクと母さん。マナと真一で二手に分かれて探して、一応見つけてお昼ご飯を食べたのだが、大吹雪になって爆発音のような音がしたかと思うと、またユウが忽然と消えていたのだ。
「確かに雪山が一番記憶に残ってますけど……それはユウが二回も失踪したからだよね? ユウ何してたの?」
「え? あ、あはははは~」
絶対に何かやっていたと思うのだが頑なにこの事は教えてくれない。
本当に何をやっていたのだろう。
そういえば、奇跡的に雪崩は起きなかったが死者が出たという話を聞いた。よく会うルーガが教えてくれたのでこれは事実だろう。
「ふむふむ。マナちゃんも雪山に行ってたのかぁ。私は雪山なんか行った事ないからいつか行ってみたいね!」
その事をボクの母には言わない方がいいだろう。私服で連れて行かれる。
あ、でも今は魔法が使えるから寒くないのかな? それより、ボクはシラが居るから寒さには大丈夫なんだった。
「これは面白そうな情報かもっ。あ~でも別に新聞に載せるほどではないかなぁ」
ならば訊かないでほしい。
「でも個人的に面白いから秋新聞に載せよ!」
結局載せるのですか。
心でつっこみつつも声に出しては言わなかった。
「……何かいる」
白夜が突然呟く。夜目が効くために、見張りをしていた白夜と雁也が警戒している。
「人ですの?」
「違いますね。あれは……狼……と言いたいところですが」
雁也が手に持つ弓の弦を引っ張る。
ボクも注意をそちらに向けて目を細める。
「暗いわね。ユウちゃん。もうちょっと明かりをつけれない?」
「わかったよ♪ 〈灯火〉!」
ソウナに言われてユウが魔法を発動。
すると、雁也が警戒していた物の正体が――。
「なな、なんですかあれ!?」
――所々に肉が無くて骨が丸見えになっている狼のような動物(?)だった。
「ゾンビウルフってところか。おもしれぇ。我が名はキリ――」
魔力を解放し、その四肢に雷を纏わせるキリ。他の人もそれぞれ自分の魔力を解放して武器を持つ。
「ルナ……」
『うむ』
ボクも自分の中に居る神の断片を呼び出し、その手に刀を握る。とは言う物の……。
『リク? 手が震えておるぞ?』
「だだ……だってぇ……」
目の前に居る狼。どう考えてもホラーとかサスペンスドラマとかに出てきそうで……。
そう考えただけで手が震えてルナを振るえない。
すると、ボクの着ている服の裾を引っ張ってくる感触がする。
ビクッと肩を揺らしながらゆっくりと視線を向けると、そこに白髪の少女であるヘルが文字が浮かんでいる瞳を向けていた。ボクはヘルだった事に安堵していると、ヘルが口を開いた。
「大、丈夫。あれ、魔法、で、召喚、された、狼」
「え?」
魔法で召喚された?
ボクはヘルにそう言われると、目を細めてよくよくその狼を見てみた。
すると、その狼と、その後ろや隣から魔力供給線が見えた。……後ろや隣から?
「みなさん気をつけてください! そこに居る狼の後ろや隣にも居ます!!」
『!?』
ボクが叫ぶと同時に、狼たちが襲ってきた。
光に照らされても見えない狼が複数。かなり厄介だ。
ボクは魔力供給線を見失わないようにしながら迫りくる見えない狼に対応する。魔力供給線を斬ると、魔法陣が出て来てその場に居たらしい狼が強制送還されていく。
本当に魔法で呼び出された狼だ。ヘルが言った言葉は真実にでもなるのか。それとも元からこれらをすべて知っていたのだろうか。
いつの間にかボクの左手を握っていたヘルはアキの隣へと戻って手をつないでいる。巧みに避けているように見えるが、あれはヘルがうまい具合にアキを誘導していると思われる。
「こっ、ち」
「よっと」
ヘルがアキの腕を掴んで誘導したり、言葉で誘導してるからわかるのだ。
「邪魔だ!」
「……消えて」
「透明でも関係ないもんね♪」
「数が多いな」
「私が防ぎます」
「魔力さえ感じれれば」
透明でも関係なく攻撃するキリ、白夜、ユウ、雑賀、妃鈴、雁也。さすがロピアルズメンバーと思うのはあるが、キリと白夜はどうしてわかるのだろうかと思う。
野生の勘だとキリに言われると信じてしまう自分が居る。白夜は逆に分からないのと訊かれてしまいそうだ。
すると、いつの間にか寝ていた寝虚が起きた。
「何してるのぉ?」
「透明な狼が襲ってきてるんです!」
不思議そうな顔をして訊いてくるのでボクはすぐにそう返すと、「そっかぁ」とか言いつつ寝虚が魔法を放った。
「え?」
寝虚が魔法を放ったと同時に、透明だった狼達に色がついて透明じゃ無くなる。まさか透明にする魔法を解いたのだろうか。
それからは襲ってくる狼を対処するだけだったので比較的余裕に退治する事が出来た。
最後の一匹を斬り伏せると、魔法陣が出て来て強制送還されていった。
「ふぅ……」
『お疲れ様じゃリク』
「どういたしまして……所でシラとツキは?」
『寝ておる』
シラは暑さからやられているから仕方ないとして、自分勝手なツキに「はぁ」とため息を漏らす。
それにしても、とボクはヘルを見る。
「ヘルちゃんありがとね!」
「どう、いたし、まして」
ヘル。外見からは小学生にしか見えないのに召喚された狼である事。透明な狼を見えているようにアキを誘導した事。ボクの視線に気づいたのか、ヘルがこちらを見てくる。先程まで瞳に浮かんでいた文字のような物が消えている。
初めて合った時から浮かんでいた文字が消えている所を見ると、あれは自分の意志で消せるような魔法なのか。それとも……彼女は雁也と同じ魔眼使いなのか。
とにかく、彼女は普通では無い事をボクは決定づける。決定づけたのだが……。
『ぬ?』
ルナが声を漏らしたと同時に、握っていた刀が光になり、人型となる。ルナが自分の意志で人型となったのだ。
「どうしたの? ルナ」
ボクが不思議に思う矢先にルナはそのまま足を進めた。そして、ヘルの目の前で止まって……。
「そなた、ヘルではないか?」
…………ん?
「ひさし、ぶり。記憶、喪失、の割には、ヘルを、知ってる事に、驚き」
「記憶喪失じゃが、そなたほどやんちゃな神を忘れるほどでは無いぞ?」
思考が停止する。
真実を知っていたアキ以外の全員がその場で固まった。
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