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ヒスティマ Ⅳ  作者: 長谷川 レン
第一章 白い髪の少女
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で、走った結果



 森をひたすら走った結果。


「まぁ、諦めてくれリクちゃん。今日は此処で野宿って事で」


 雑賀がボクへと申し訳なさそうに言った。いや、あまり申し訳なさそうでも無い。

 太陽が完全に暮れて夜となってしまって森の中で野宿をする羽目になった。

 だったら森に入る前で野宿をして次の日の早朝にこの森を抜けたかった……。

 そんなボクの想いなど伝わるはずも無く、雑賀と妃鈴、雁也が黙々とテントを組み立てている。


「うぅ……」


 当のボクはキリに張り付いたまま夕食の準備すらできない状況でいた。

 仕方無いのでマナや疲れた体を休めたソウナが夕食の準備をし始めてくれたので助かった。

 この二人ならばまともな料理を作ってくれるだろう。ユウはヤキソバしか作らないし、キリはボクが張りついている。レナは作った事なさそうだろうし、白夜は何を作るかわかった物じゃない。一人暮らしだからそれなりの物は作れるだろうが。そしてアキはヘルの相手をしている。

 雑賀と妃鈴と雁也は先程言った通りテントを組み立てている。寝虚は子供だから論外。と言うかまた寝ている。大きいクマのぬいぐるみの上で。


 だからマナとソウナが作るのは仕方ないとさえいえるのだ。この二人にしか頼めそうな人はいない。おそらくこの二人以外が名乗り出たら怖さを何とか押し殺して真っ先に止めるだろう。


「スウェル鳥の唐揚げと白米と……あと何にしようか~」

「そうね。途中で採ったスール草とか、天ぷらであげるとおいしいのよね? それならどうかしら?」

「いいね~。そうしよ~」


 そんな二人の会話を聞く限り今日はご飯と唐揚げと天ぷらになりそうだ。脂っこい物ばかりだなと思ったが文句は言わなかった。料理の品物は料理人が決めるものなのだ。

 それとは別に、いつスール草なる物を採ったのだろうか。ソウナは狼の上で寝ていた物と思ったのだが。


「な、なぁリク。そろそろ離れないか……?」

「す、すみません……」


 キリがちょっといずらそうにしてボクに話しかけてくる。

 そんなキリにボクは迷惑をかけているなと思い、キリの手からボクの手を放す。

 今いるこの場所はユウが明るい火の玉を出してくれたことで明るくなっている。光が当たらない場所は見えない。そのためにボクは未だに怖いままでいる。

キリから手を離したからと言ってボクはキリの傍から離れなかった。

 木を背にしてキリにひっついたままでいる。


(やべぇ……このままだといろんな意味でキツイ……。早く何とかしねぇと……)


 キリが動けないままでそんなことを考えているとはつゆ知らず、ボクは膝を抱えて目を瞑る。少しでも周りの風景を見ていたくない為である。

 ただ、そんなことをしたおかげで――パキッ。


「ひっ」


 木が踏み砕かれて音がした。心臓がバクンッと鳴ってキリにしがみつく。


「!? ど、どうした!?」


 キリが顔を真っ赤にしながらボクに問いただしてきた。


「い、今……なんか音が……」

「音?」


 ボクが正直に言うと、キリがボクの体をひきはがして手を掴み、それから立ち上がって音がした方を睨むようにして見渡した。

 ボクは怖いから握っているキリの手を力強くして目を瞑って震えていると、何も居なかったのか、キリはボクへと顔を向き直した。


「大丈夫だ。別に何も居ねぇよ」

「ほ……ほんとう……?」


 キリのその言葉にボクは目を開け、声を震わせながら見上げていた。


「!?」


 するとキリが即座に顔を逸らした。


「……本当……ですか?」


 少し疑問になって、ジト目になりながらキリに訊いた。ちなみにちょっと恐怖が薄れた。


「そこは大丈夫だ。心配するな……」


 自信満々に言ってくれるので一応安心する。

 先程の音は空耳で、キリの反応は気のせいだと納得する。少し幽霊を怖がり過ぎて幻聴でも聞こえたのだろう。


「ご飯出来たよ~」


 語尾を伸ばしながら落ち着く声で呼ぶマナの元へとキリと一緒に行くと、食器を並べていたソウナに「ありがとうございます」と言って先程いた木の所まで戻る。

 全員がそれぞれ好きな場所についてご飯を食べ始めた。


 柔らかいご飯や、外がパリッとしていて中がしっとりとしている天ぷら、スウェル鳥の唐揚げの歯応えがしっかりとしていておいしかった。

 スール草の天ぷらと言っていたが、そのままでも十分味がついていて、ちょっと塩っぽくてご飯にとても合うのだ。スウェル鳥も、本当に食べられるのかと思っていたが、まさかいつも食べているような唐揚げよりもおいしいと感じた。これはいいかもしれない。


「これ……家でもちょっと工夫して作ってみたいですね……」


 ボクの呟きにキリが反応して話しかけてくる。


「ん? こんな真夏に天ぷらするのか?」

「え? キリさんはやらないのですか?」


 夏に天ぷらはいいと思うのだが……。とは言っても母が母なので真夏に鍋をやったりする事がある。冬に冷やし中華とか。

 母は気分でご飯を作るのだ。最近ではダーク○ターのようにボクがヒスティマを知ったので現地の食材をたくさん出す事があるが。


「俺は天ぷらなんてやらねぇな……後片付けがめんどいしな」

「後片付けの問題なんですね……」


 まずはおいしく食べるかどうかの話では無いのだろうか。初めはあんまり天ぷらが好きではないのかと思ったが、今の言葉を聞く限り普通っぽい。


「第一、一人分の食事作るのに天ぷらなんてやらねぇだろ」


 一人分と言われて少し疑問に残る。

 キリの親はどこかへ旅に出ているのだろうか。日が出ている時に言っていた、親に連れられて外に出た事があると言っていたのだし。


「キリさんのお父さんやお母さんはどこかに出かけているんですか?」


 ボクはその疑問をぶつけてみると、キリは「あぁ」と呟いてから空に浮かぶ月を仰いだ。

 何かマズイ事を聞いただろうか。そう思ったボクの考えを無視してか、キリは呟いたようにして話してくれた。


「オヤジもお袋もとっくの昔に殺された」

「え!? あの……す、すみません……」


 聞いてはいけなかった事だと反省し、ボクはすぐさま謝る。

 するとキリは片手でひらひらと左右に振る。


「別に気にしてねぇよ。もう昔の事だしな。割り切ったんだよ。なんせ五年以上は経ってるからなぁ」


 五年以上。それってまだ小学生の頃の話ではないか。そんな時期に両親が殺されるなんて……当時はとても耐えれた物では無いのではないだろう。

 小学生はまだ親に道を教えてもらっている頃だ。自分で道を進めるようになるのは早くても中学生くらいからではないだろうか。


「それに……オヤジとお袋を殺した男も俺よりも年下っぽい女に殺されたからな」

「こ、殺されたって……」


 キリの両親を殺した男を、当時のキリよりも小さい女の子が殺した。殺した男が弱かったのか、女の子がかなり強かったのか……。

 ボクは体の成長を拒んでいるような人。と言うか母を知っているのできっと男よりも強かった女の人がやったのだろうと考える。それも、殺し慣れている人……。

 小さい子が殺し慣れているとは思えないからだ。


「俺が女に頼んだんだけどな。あんまし気分良くなかったな」


 良くないのは当たり前だろう。どうして殺しなど任せたのだろうか。

 そんなボクの思惑を悟ってか。キリが空に向けていた目をボクへと目を向けてくる。


「幼少の頃の過ちって奴だ。それに、誰だって愛する親が殺された光景と殺した奴が居たら誰だって殺意が湧くもんだ」


 その瞳はどこか儚げで、ボクを見ているようで当時の事を目に浮かばせているのかもしれなかった。


誤字、脱字、修正点があれば指摘を。

感想や質問も待ってます。

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