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ヒスティマ Ⅳ  作者: 長谷川 レン
第一章 白い髪の少女
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出そうな森



 しばらく森を進んでいると、どこからか奇妙な鳥の鳴き声が聞こえたり、何やら背後から見られているような視線を感じたりする。

 しかも、木々が太陽の光をかなり遮っているのでかなり暗い。太陽は夕日に近づいていて、このままだとなんだか幽霊が出てきそうで……。

 つまり、少なからず怖いと感じてしまう。なぜなら薄暗いのだ。この森は。道行く木々の中にはヤナギもあった。あの葉の部分が垂れていて、その下に幽霊がよくいるという話で……。

 想像するだけで足がすくみそうだ。


 真一の件でソウナには知られてはいるが、幽霊が大の苦手であるボクは一人で歩いている事が出来ず、自然と近くに居たキリの腕にしがみついた。

 もちろん、ボクが幽霊を大の苦手としている事をキリは知らないので驚いていた。そういえば、ツキと契約する前もこんな感じだったような気がする。


「お、おいリク? お前、どうした?」

「し、しばらく、このままじゃダメですか……?」


 キリを見上げると、「お、おぅ……」と歯切れ悪く答えた。何とか了承を得たのでボクはキリにひっついたまま森の中を進む。夜じゃなくて本当に良かったと思う。こんな所、夜なんか歩けない。

 すると、何を思ったのかソウナが狼に近づくように言って、ボクの隣にやって来て――。


「そういえばリク君。先程から肩に手が――」

「ぴゃぁっ!!!!」


 変な声を出してキリに思いっきり抱きつく形になってしまった。


「ンなっ!?」


 体を押し付けられるようにされたキリが驚きつつも何とかボクの体を支える。ボクはそんなキリのお腹に顔をうずめる。肩もかなり震えている。


「あら。思った以上に面白い反応ね」

「ちょ、おぃ。り、リク?」

『…………え?』


 当事者三人とユウ以外のだいたい全員がボクの反応を見てか口をポカーンと開けて足を止めている。

 ユウはボクが幽霊が苦手な事を知っているからだ。


「リク君。冗談よ。何も居ないわ」

「ほ、ほんとうですか……?」


 涙目になって埋めているキリのお腹から顔を覗かせるようにしてソウナを見る。


「リクお姉ちゃん可愛いぃ」


 いつの間にか寝虚が起きていて、大きなクマのぬいぐるみの上から見ていた。

可愛くなど無いしお姉ちゃんでも無いと答えたいが、今のボクには本当に幽霊が居ないと言う事に安堵して言葉が出ない。


「良くわからないがグッジョぶぅ!?」


 それでも雑賀には氷を作り出して顔面に飛ばしていた。


「……あいかわらずな扱い。……どんまい、雑賀」


 白夜がなぜかグットを右手で作りながら雑賀を見ていた。そして雑賀も同じくグットを示していた。良くわからない。


「リクちゃん。幽霊とかダメなの?」

「うぅ……。はい……」


 アキが質問してくるのでボクは素直に答えた。声はかなり小さかったが。

 アキはボクが答えるといつの間にか手に持っているメモ帳に何やら書きこんでいた。おそらくボクが幽霊が苦手な事を書いているのだろう。

 アキに話したのはやはり間違いだったかと思うが、この状況で嘘をついても意味が無い事を知っているのでどの道メモ帳に書かれていただろう。

 幽霊がダメな男ではいけないと思い何とか頑張ってみるもやっぱり駄目で、遊園地などのお化け屋敷などはトラウマものだ。母やユウが面白がって連れて行くのでなおさらだ。


「えっと、どうしてダメなんですの? 悪魔とかは大丈夫ではありませんの」

「だって……」


 悪魔は倒せる。だけど幽霊は倒せない。そして、幽霊の怖いと言うイメージが離れない。悪魔はまず存在自体を信じていなかったからあんまり怖いというイメージが無いのだ。

 だがそんなことは言えず、言葉を詰まらせる。


「お兄ちゃんは遊園地のお化け屋敷も入れないんだよぉ♪ あんなのどこが怖いんだろうね♪ ただの作り物なのに♪」


 作り物は別として、お化け屋敷はお化け屋敷で脅かせようとするので余計に怖いのだ。脅かせようとしなければお化け屋敷の意味が無いのだが。


「……赤砂学園でツキと契約する前も震えてたのは幽霊に対してと言う事?」


 あの時はホントに暗くて怖かった。そして学校だったと言うのも、ものすごく怖かった。

 夜の学校だ。怖い物が苦手な人は絶対に夜の学校なんかに入りたくはないだろう。ボクのこの気持ちが理解できるはずだ。

 理解できない人は怖い物が苦手では無い人だろう。だったらゾンビに襲われるような夢でも見るといい。ボクは絶対に失神するだろうけど。

 ……ヒスティマってゾンビみたいな魔法生物を呼び出す事が出来るのだろうか。いや、無いと言って欲しい。絶対に無いと言って欲しい。

 そんな相手と絶対に戦えない。むしろボクは一目散に逃げるだろう。それか腰が抜けて立てない状況だ。


「リクちゃんが怖がってるし、今日中にこの森を抜けるか。走るぞ」


 雑賀は、この森の調査は後から来る調査隊に任せる事にしたようだ。ボクとしてはかなりありがたい。

 雑賀が走り始めると、その後ろを妃鈴が。次にユウで、そこからボク達学生が。最後に雁也が走っておってくる。

 その間もボクはキリの左手を掴んで走った。腕を絡ませていては走れないのでせめて手をつないで貰っているのだ。


(あぁもう! だから心臓止まれっての! いや、止まったらマジィけど……。とりあえずなんだよこのドキドキはよぉ! ……つか手ぇかなり柔らか……ってちがう!)


 キリがあいかわらず心の中で葛藤しながらボクに顔を見せないように走っている。顔が赤いからである。

 その様子にボクは気がつかずに必死にキリの手にすがりつくようにして走っている。


「…………なんでいつもあいつばかり……確か名前はキリだよね……」


 ユウがキリに対して物凄い形相で見て……いや、睨んでいる。


「…………私が隣に居れば良かったかしら……」


 ソウナが羨ましそうにキリの手を見ている。


「ん~。写真とっとこ。ヘルちゃん、ちょっと手を離してもいいかな?」

「わか、った」


 アキがヘルの手を一度放し、首からかけているカメラでボク、では無くキリを撮っている。


「こう言うキリを見てると勝てそうって思うんだけどな~」


 マナがちょっと強気になってキリの様子を見ながらそう呟く。


「お兄ちゃん熱いのぉ? 顔がま――」

「うるせぇ! ほっとけ!!」


 寝虚だけがキリの目の前に回り込んで――正確にはクマのぬいぐるみが回り込んだ――顔の様子を見ながら喋るが、キリに一喝されて何も言わなくなった。

 これだけ周りがざわついたのだが、キリにすがりついて走っているために、なんにも気がつかずにただひたすら走り続けていた。

 早く森を抜けたいと思いながら。

誤字、脱字、修正点があれば指摘を。

感想や質問も待ってます。

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