芝生の上の少女
ボク達は何も無い街道を歩いて行く。ふと、道からかなりそれている芝生の上に気持ちよさそうに寝ている白髪の少女を見つけた。
寝虚同様、気持ちよさそうだ。天気もいいし、つい寝てしまったんだろう。
近くに誰も居ない所を見ると一人みたいだが……。どう考えても親が居ないと不安で仕方なさそうな年齢の少女だ。外見だけで言えばルナやシラなどと年齢が同じではないだろうか。もっと言えば、寝虚と年齢がきっと同じだろう。
「あんなところで寝て……。ちょっと、起こして行こうか」
「はい。皆様もそれで良いですよね?」
妃鈴が雑賀の提案にのると、ボク達に訊いてきた。
あそこで寝ていて、風邪をひかれても困るし、ボクもその提案に乗った。
そして、その少女を前にすると、ボク以外の全員が一歩後ろへと下がった。
「いや、何故ですか」
「だって、俺が起こしたりするのは、なぁ」
「そうですね。こんな小さな女の子が知らない男性に、特に天童さんに起こされるのは怖がられると思われます」
「なんで!?」
「あの。ボクも男性なんですけど……」
「指輪をしていますので問題ありません」
「無視すんなよ!?」
率直にそう言われ、ボクは肩を落とす。ちなみに雑賀は、間に立った雁也に「まぁまぁ」と言われていさなまれている。
このまま誰もやらなそうで、時間だけが掛かる。仕方ないのでボクは白髪の少女の肩をゆすり声をかける。
「こんな所で寝ていると風邪をひきますよ?」
「……ん……?」
一回揺すって声をかけただけでゆっくりと目を開けてくれた。
その瞳は灰色で、虚ろな目をこちらに向けてくる。ボクはその瞳に驚いた。寂しそうに見えたのだ。その瞳は。
「……聖地?」
「え?」
ポロっと漏らした様なその言葉にボクはつい聞き返してしまった。
だがその言葉が聞こえてきたのはボクだけだったようだ。他の人は特に反応していないようだった。どうやらボクの聞き間違いだろうか。
白髪少女は何も言わずに、上半身を起こしてこちらを見渡した。
「何の、用?」
白髪少女の話し方は独特で、言葉を切りながら話していた。
「君がこんな所で寝ているから起こしてあげようと思ったんだよ」
「……余計な、お世話」
雑賀が言うと、白髪の少女はぷぃっとそっぽを向いた。
どうやら起こしてほしくなかったらしい。
「でも、こんな所で寝ていたら動物に襲われるかもしれないだろ?」
「襲われ、無い。人を、襲うような、動物は。ここから、半径一キロ以内には、いないから」
何やら自信満々に言う白髪の少女。半径一キロと言うと、目視出来ない範囲だと思われるのだが、此処の平原はそれだけの広さがあると言うことだろう。実際、ボク達はその平原を何日もかけて歩いているのだから。
「でも、何も野生動物は地上にいるモノだけじゃないだろう? 地中だって、空にだっているんだ」
そう雑賀が言うと、白髪少女は空を見て、それから地面を見た。まるで何かを探すようなその仕草にボク等一同はハテナを浮かばせる。
すると、地面を見ていた白髪少女はふと顔をあげて雑賀の目を真っ直ぐ見詰めた。
「じゃあ、連れてって」
『は?』
白髪少女が足を地面につけて立ち上がる。
すると未だに状況が理解できていないボク達の合間を通り抜けて行ってなぜか一番後ろの方に居たアキの手を握って前を見た。
「え?」
「昨日の、夜ぶり。あの時、貴女の、名前。教えて、貰って、無い」
白髪少女がしゃがませたアキの耳元で囁く。アキが「昨日の夜……」と呟いてしばらくすると口を開いて声をあげた。
「う、嘘ぉ!? あの時の子が……ヘルちゃんが貴女なの!?」
「あまり、大声、出さないで。うる、さい」
どうやら二人は知り合いらしい。だから白髪少女ことヘルも安心して連れて行ってと言ったのだろうか。
それにしては、どこにも共通点がありそうもない二人。いつあったのかも不明だ。
でも、信用に足る人物だと言うことだろう。
「そういえば言って無かったね。私はアキ。武藤アキって言うの!」
どうやらお互い名前を知らない間柄だったらしい。信用に……足るのだろうか。
「アキ……。わか、った。聖地、は?」
「「「!?」」」
やはり先程の言葉は聞き間違いではなかった。
ボク以外の人も少し警戒心を出している。
「安心、して。別に、取って、食べよう、とする、わけじゃ、ない」
ボクはその子をジッと見る。滲みでる魔力の色は明るいか暗いかと言われると暗い方だろう。ドス黒い悪魔のような魔力を持っているわけではないようだ。
魔力の色は元が何色かわからないほど色あせていて何色かわからないのだ。こんな事、今まで無かったのに……。
「ボクは、赤砂リクって言います」
ボクがそう言うと、ヘルはコクリと頷いた。その他の人の名前に興味は無いのか、特に聞いては来なかった。
「なんか、不思議な子……。喋り方にちょっと疑問が残るけど」
「これ、は。昔、からこう、だから。気に、しないで」
「りょうかい♪ まぁユウは元々気にしないたちだから大丈夫だよ♪」
だったらなぜ疑問が残るとか言ったのかと言う話だ。
「にしても、連れてくったって……。しょうがない。雁也さん、俺ひとっ走りして――」
「これ、から。ヘレスティア、に向かう、でしょ? ヘルも、ついてく」
「なんで知って――ッ!?」
そうだ。たった一度もそんなことは言っていないはずだ。なのに、この少女はそれを当たり前のように言いのけた。一体なぜそんな事がわかったのか。
ただ、今まで気がつかなかったのだが、その少女の灰色の瞳に何か文字のような物が連なっていた。あまりにも小さいうえにジッと見つめるのもどうかと思うのでなんて書いてあるかなんてわからないが。
「えっと! ヘルちゃんはね! ちょこぉっと物知りなの! だからあんまり怪しまなくていいよ!」
アキが何とかフォローをすると、少し顎に手を当てて考える雑賀。
それよりも、指揮を雑賀がしているような気がするが、一番強いと思われる雁也が指揮をするべきじゃないのだろうか。
彼は英名で、国の最高戦力の一人なのだ。……とは言う物の、彼の性格からしてあまりリーダーになりそうもない。
「仕方ないな……。そのかわりアキ。君がしっかり面倒を見るんだぞ?」
「了解であります隊長殿!」
ちょっとふざけて言うアキに雑賀は苦笑する。
それからボク達は仲間が一人増えて、またヘレスティアへと向かい始めた。
とりあえず、今の目的は遥か彼方に見えるあの森に入る事だった……。
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