残酷な仕事と物を買うためのお金
とりあえずボクは目を逸らしたユウを後で問い詰めるとして、雁也に質問した。
「ヘレスティア? それってどんな国なんですか?」
「いや。実はあまり知らないのですよ。最近できた国でも無いのですが……」
特に目立つような国ではないようだった。
すると、妃鈴が荷物から書類のような物を取りだして読み上げた。
「調べた物を資料にまとめてみました。ヘレスティアは民主政ですが絶対王権が効く国だと聞きます。王は比較的穏和な性格であり、世界崩壊を目論むような人では無いと思われます」
「さすが妃鈴。仕事が早いな」
「あと、海に隣接していますので海水浴が楽しめる国だそうです」
『海水浴!?』「つまり水着か!!」
一斉にみんなの表情が明るくなる。あと、雑賀は女性陣に無言で袋叩きにされた。
海水浴でなんで水着と出てくるのだろう。確かに着る物としては合ってはいるが普通海水浴と言ったら泳ぐ事ではないだろうか。もしくは海岸沿いで遊ぶ事など。
一番初めに水着が思い浮かぶのはどうかと思う。
「えぇ。カナさんが言うには雁也さんが潜入して情報を仕入れている間、私達はビーチで遊んでこいらしいです」
「でも~。ウチたち誰も水着持ってきてないよ~?」
「待ってください。私だけ仕事で他の人は遊ぶのですか!?」
マナが当然の事を。雁也が驚きつつ妃鈴へとそれぞれ返すと、「問題ありません」とマナにとっては嬉しい言葉を。雁也にとっては残酷な言葉を返した。
雁也の周りにず~んと言う空気が流れ始めた。心なしか、歩く速度も遅くなったような気がする。いや、きっと気のせいでは無いだろう。
「ヘレスティアで水着が買えるそうなのでそちらで皆様の新しい水着を買うつもりですよ。もちろん、お金は天童さん持ちです」
「え!? マジで!?」
どうやら雑賀は知らなかったらしい。
「はい。カナさんがそのようにと」
そして母さんのもくろみだったらしい。
「カナちゃぁん!? ち、ちょっと待てよ、そんな手持ち俺持って――」
「天童さんの全財産を私が持ってきておりますので心配には及びません」
雑賀が探すようにポケットに入っている財布を取り出して確認していると、妃鈴がカバンの中からカードのような物を取り出していた。
あれが雑賀の全財産。
「なんで持ってんの!?」
「カナさんが渡してくれました。ちなみに使う紙幣は同じですので問題ありません」
主犯である我が家の厄介物は今頃楽しんでいるころだろう。雑賀が落ち込んでしまった。溜めたお金がボク達の水着を買うために全て使いこまれてしまうのだから仕方が無い。
「ま、いいか。そのかわり! リクちゃんには可愛い女性用水着を着せるからな!!」
「はい!? ボクは男ですよ!? もちろん男物に決まってるじゃないですか!!」
「それは俺が許さない!!」「……私も許さない」
「なんで雑賀さんの許可が欲しいんですか!? って言うか何気に白夜さんも入ってこないでくださいよ!!」
「俺のお金だからだ!!」「……不憫な雑賀のために」
「そんなこと言って、絶対にボクの水着姿を見たいだけですよね!? 絶対!」
「「あたりまえだ」」
「嘘でもそんなこと無いって言って欲しかったですよ!!」
目から涙が出てきそうだ。いや、もう流れているかもしれない。
とにかく、水着を買う時に何とか男物の物を変えれば……。
それにしても……先程から隣に歩いてついてきているクマのぬいぐるみがとっても気になる。しかもそのクマのぬいぐるみの上で寝虚が安らかの呼吸をしながら寝ているのだ。
彼女の魔法らしいのだが、さっぱりわからない。竜田と戦っている時に幻想の使い手だと言っていた。
魔力の質からもロスト使いだと言う事がわかる。
幻想の使い手と言われてもさっぱりなのだが。
「……遠い。……ヘレスティアまで後何日歩けばいい?」
白夜がボクが一番気になっていた事を聞いてくれたのでボクも雑賀の言葉に耳を傾ける。と言うか、海水浴と知ってか先程までダウンしていたソウナも復活して耳を立てていた。あいかわらず疲れていて、狼に乗ったままだが。
「そうだな……。あの遠くに見える森を抜ければヘレスティアはもう見えると思うんだが……」
「森を抜けるのには一日で大丈夫そうですよ」
妃鈴が一日で大丈夫と言うが、その森に付くまでがまだまだ遠い……。
だが、そろそろその国に着けると言う事を教えてもらって少し安心していた。
いつまでも見えてこないので、不安だったからだ。終わりが見えれば少しはやる気も出てくると言ったところだ。
……帰りの事を考えるとやる気がそがれるが。
「そういえば、ヒスティマって何か危ない生物とかっていないんですか? この前の魔法生物みたいな……」
今日まで歩いて来ていたが、あまり襲ってくるような動物は居なかった。
一度、クマに遭遇したが雁也が仕留めて夕飯の焼き肉のメニューにしてしまった。ボクは料理していないが、雁也がアクをだし、程良く電流を流し、クマの肉を軟らかくしていた。クマの肉はそのまま焼くととても堅く、食べられた物ではないからだ。
「もちろん居るに決まっているだろう? 俺は飛龍種だけには会いたくないな……」
やはり、ファンタジー特有の龍と言う動物(?)は居るらしい。
「飛龍種は極めて攻撃的で、よく奥地に住んでいますからね。あまり合う事もありません。それゆえ、ある人はもうドラゴンは生きてすらいないと言うのです。私はどこかでまだ生きているような気がしますが……」
妃鈴が雑賀の言葉に付け加えて龍の事に付いて教えてくれた。ボクは地球で生まれ育ったので、一度は会ってみたいななんて思うのだが、ヒスティマではそれは無しだと考える。それもそうか。自分から死にに行くような物なのだろう。
「……でも、そんな龍と共存していた人間が遥か昔に居た」
白夜が口を挟む。そういえば、白夜に見せてもらった古書に確かに書いてあったような気がする。もう一度読ませてもらえないだろうか。あの時は時間も時間だったから飛ばして読んでいたからだ。
ボクの考えを察してか、白夜が「……また読む?」と言ってくれたので、礼を言って頷いた。
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