Intermission 行橋雁也
一応題名は行橋雁也ですが、この名前は偽名です。ヒスティマⅠで説明した通り、偽名です(・・*
そして雁也視点になります(^^*
「では、まずは潜入するために器を作りましょうか」
私は今現在。城の内部へとすでに侵入していた。
城のどこもが兵士が見張っていたが、窓まではさすがに見守るはずもなく、一つ、開いていた窓に侵入。そこで休んでいた兵士を一撃で気絶させて、今に至るのだ。
気絶は、魔法による矢で心臓の部分を一突きした。神経、精神的なダメージによる矢なので肉体には損傷もないし、ショックによる気絶をさせただけだ。
その気絶をさせた男の目を開かせ、自分のオッドアイである内、黄色である左目と目を合わせる。
魔眼使い。それは雁也のようにオッドアイを持ち、更にその両目に魔力がこもっているような人間を指す。
魔眼使いである魔法使いはその両目に宿る魔力を使って魔法を使うのだ。それだけでなく、それぞれの目から、専用の魔法を使う事が出来る。その魔法もそれぞれの魔眼使いによって使える魔法が違う。
そして、青色である右目は〈レアリーダウト〉と言って、嘘を見抜けるだけの魔法。
「〈ハーフソウル〉」
左目に宿る魔法を使うと、その男が急に苦しみ出した。
その男の声が漏れないように口元を押さえ、しばらくすると男は静かになった。
それから、男の兵士を掴んでいた手で次第に男の中へと沈んでいった。
「よし」
私はそのまま、男の中に侵入。次に目を開けた時には、その兵士だった男が目を開けた。
「ふむ。こんなものですね」
声も変わった。先程までの雁也の声ではなく、兵士の声だ。
そして、少し集中してしまったからか――パリィンッ。
「!?」
私は音をなった方を見た。すると一人のメイドが扉を開けてコップを割っていた。
メイドはその綺麗な緑色の髪を揺らしながら部屋からとっさに出て行こうとする所で、私はそのメイドの心臓へと矢を一突きさせて気絶させる。
すぐにメイドを部屋の中へと運び、扉を閉める。
「困りましたね……」
さっきと同じ方法では器は一つしか作れないし、操る事も出来ない。仕方ないのでメイドの目をあけて自分の左目を合わせる。
「仕方ありません」
実は、〈ハーフソウル〉とは男に使った時は少し違う使い方をした。〈ハーフソウル〉とは自分の魂を半分にして相手の魂に上書きをして操る魔法だ。本来人の中に入って全てを乗っ取るのではない。
メイドは苦しみもせず、雁也の左目を見ると、すぐに自分の足で立った。
「……魔力が半減するのは少し嫌ですね」
「仕方ないでしょう。それが我々の左目に宿る魔法なのですから」
独り言のように呟いたと思ったら、目の前に立つメイドが会話をしてくれた。
そう。今目の前に居るメイドの精神は、私が操っている。正確には、二人目の私だ。魂の半分を入れたので二人目が現れたと言うことだ。そして魂に魔力は追従する。魂を半分にしたら、最大魔力も半分になる。
緑色の髪で少しあどけなさの感じる面持ちという外見は変わらないものの、その両の目はすでに右目が青色、左目が黄色というオッドアイに変わっている。
この兵士の両の目も同じようにオッドアイになっているだろう。ただ、兵士は雁也がそのまま乗っ取ったので両の目は茶色になっている。カラーコンタクトをしていたのだ。
そのメイドにも、元の色であった、ピンク色のカラーコンタクトを渡すと、メイドは両目にそのカラーコンタクトを入れた。
それから、それぞれの記憶を探る。乗っ取った相手の記憶ぐらいは簡単に覗ける。じゃなければ潜入なんてできないだろう。
「このメイドの名前はミュア、ですね。」
「この兵士の名前は――」
すると、扉が急に開いた。
「おぉ、レグル。仕事……だぞ……。わりぃ、邪魔したな」
開いたと思ったらまたすぐに閉じた。
記憶を除く。今の男はこの兵士の親友か。名前はオズ。
そして、何故オズがすぐに扉を閉じたかと言うと、目の前に居るミュアとレグルが恋人同士だと言う事だったらしい。
オズは邪魔したと思って外に出る。なるほど。分かりやすい状況だ。
「それじゃあ行こうか」
「そうですね。私は割ったコップとかを報告して怒られに行かなくては……」
そういえば、先程コップを割っていたな。
ま、それも仕方の無い事か。
「不運だな」
「同じ自分に不運とか言われるって……」
それはともかく、ミュアは割れたコップなどを持って厨房の方へと向かって行った。
「えっと、もういいか?」
「悪いな。呼びに来てもらったのに。行こう」
「いいってことよ。って言うか、わびるのは俺の方だぜ」
「それもそうか」
私がそう言うと、オズは笑った。それにつられて私も笑ってしまい、仕事場について早々、上官に起こられた。
★
(メイド服か……久しぶりと言うか。最近は男の体ばかりに入ってたからなぁ)
何と言うか、少し落ち着かない。
ミュアと言う女性は、体があまり凹凸の激しいスタイルでは無いので動きやすい。ミュア個人の魔力の武器を顕現すると、ミュアが使っている武器はナイフだった。サバイバルナイフと言われる物で、刃が収納できるタイプだ。
そして、歩いているとようやく厨房へとたどり着く。すると、厨房へと入った瞬間に話しかけられた。
「あ! ミュアどこ行ってたの? コップ持って……ってえぇ!? 割っちゃったの!?」
「う……。め、メイド長には内緒にして欲しい……なぁって」
なるべくミュア本人に近い喋り方で喋る。
「まったくミュア。あんた何回コップとか皿とか割れば気が済むのよ。そういえば、前割ったのは高級な壺だったわよね?」
目の前に居る同僚。リンスマリア、略してリンが肩を落としながら言う。
記憶を探っても、このミュアと言うメイドが何度も物品を割っていたり壊していたりする記憶がある。……少し入る器を間違えたのかもしれない。ミュアの振りをしていると、私が何回もそのメイド長に怒られるという……。
「メイド長には言わないでって言っても無駄よ? だってあのメイド長よ? どこからか嗅ぎつけて来て絶対に怒られるわよ」
「ばれないようにできないかな?」
「無理よ。だってメイド長は物の数とか全部覚えてて、それでいて毎日調べてるのよ? 一個も減って無いかって」
絶対に怒られるパターンだ。仕方が無い、素直に怒られよう。実際、ミュア本人も何回かメイド長に自分から言っているようだから言っても大丈夫だろう。
「うぅ。メイド長怖いよぉ……。リン。一緒に怒られてぇ」
「嫌よ!?」
「友達のよしみでしょ?」
「それで承諾する人はいないと思うわ! あ、ほら、メイド長来たよ!」
リンが厨房の入口へと指を指した。誰が入ってきたのか分かる。メイド長と言っていたし、間違いないだろう。
私は肩をワザとびくつかせて、ゆっくりと後ろへと振り向いた。
すると、そこではメイド長が仁王立ちで立っていた。
「ミュア。貴女また何かやらかしたザマスか?」
「な、何でそう思うのですか……?」
「貴女が目に分かるように怯えているからザマス!」
メイド長。通称仁王像。確かに分かる気がする。
だって後ろに、仁王像の形をした闘気が……。
「お仕置きザマス! 『家政婦』として、今からミュアに戦闘訓練ザマス!!」
「えぇ!? ど、どうして私が戦闘訓練なんかを!?」
「お仕置きザマス! さぁくるザマス!」
「い、いやぁ! リン! た、助けてぇ!」
メイド長に首襟を持たれ、空中へと持ち上げられる。どこにこんな力があるのかと思うが、少し納得した所がある。
取り合えずミュアの場合。いつもリンへと助けを求めていたのでこの状況で助けを求める……が、メイド長がギンッとリンへと鋭い眼光を向けた。
「が、頑張って~。ミュア~」
完全に見捨てられた。いや、メイド長のあの鋭すぎる眼光を向けられると、おそらく誰もが委縮してしまうのだろう。
そうして、勝手に木刀を持たされ、フライパンを持つメイド長と対峙すると言う奇妙な絵になりながらも、ミュアの戦闘力はゼロに近いので、私はすぐにやられたフリをした。フライパンがとてつもなく痛かった。
だけどこんなにも早く収穫があるとは思えなかった。
今目の前に居るメイド長が、名付きの『家政婦』だと言う情報を得られた。桜花魔法学校を襲ったと言う『執事』が『メイド』も居ると言っていた。
つまりこの目の前に居るメイド長……。
――物凄く鋭い眼光を放つ老母が『執事』と対になる『家政婦』か……。
正直に言おう。こんな婆さんとは私も対峙したくない。
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