浜辺の夕日
最後ちょっとシリアス入ります。
「お、お兄ちゃん。リク、フランクフルト食べたい、な……?」
ボクは、お兄ちゃんと言う金輪際言わないと決めていたキーワードに恥ずかしさのあまり顔が紅葉の如く真っ赤になりながら、若干身をかがませながらと言われたので、自然と目線は上へと向いてしまう。曰く、両手は胸の前に持ってきなさいと言うことだった。
その状態で雑賀のお願いをしろと言う。それが罰ゲームだと。
ブシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!
雑賀から大量の血があふれ出た。
「え!? さ、雑賀さん!?」
「あぁ、こりゃぁ死んだねっ。リクちゃんの悩殺攻撃! 雑賀に無限ダメージってね!」
アキがそう補足するも、残念ながら雑賀は上半身を起こしたまんまで一ミリたりとも動かなかった。大量の血以外は。
あのビーチバレーは、何とか同点まで追いついたのだが、まさか次のサーブがユウだとは全くと言っていいほど分かる事ができなくて……。
――つまり、ボクが本気を出したとしてもどの道この運命にたどり着いていたと言うことだった。
それにしても、どうしてフランクフルトをチョイスしたのかが不思議だった。誰か食べたかった人がいたのだろうか?
そう考えていると、雑賀があふれ出た血をタオルで全部拭いて、それから鼻にティッシュを突っ込んでからボクの肩を掴んだ。
「さ、雑賀さん?」
「お……」
「お?」
わずかに口が動いたが、一番初めの「お」しか聞き取れなかった。だからボクは首を傾げると……。
「俺の妹の頼みだ!! いくらでも買ってやるさ!!!!」
「わぁ!? い、いきなり何で抱きついてくるんですか!?」
突如として肩を持っていた雑賀の手がボクの後ろへと周り、雑賀の胸へと飛びこまされてしまった。
「このっ。この小さいけどしっかりとあって、このヒップの柔らかさもたまらない!! やはりリクちゃんの抱き心地は最高だぁぁぁぁああ!!」
「ひゃぁ! ど、どこ触っているんですか!? やめてください! 離れてください!!」
ボクが本気で嫌がり始めてやっと、今の現状を理解できたのか、妃鈴がその手に持った大盾で雑賀だけを海に向かってホームランするという珍妙な技をやってのけた。
「大丈夫ですか? リクちゃん」
「うぅ……だ、大丈夫じゃないです……」
いろんな変なところを触られて、大丈夫な人なんていないんじゃないだろうか……。
そんなボクの姿を見てか、今度はなぜか妃鈴が抱きついてきた。
「あ、あの、妃鈴さん?」
「次からは天童さんが動く前に飛ばしてあげますからね? ですが、その前に天童さんを誘惑するような行為はやめてあげてください」
「ゆ、誘惑!? ぼ、ボクはそんなことしてないですけど!?」
よしよし、と妃鈴はボクの頭を撫でながら抱きつている。ただ、抱きついているので、キリや白夜ほどではないが、その豊満に育っている物が当たっていて、 ボクの顔は物凄い赤くなる。紅葉を通り越して、リンゴだ。
そんなボクのくちぱくに気がついたのか、妃鈴がやっとボクから離れてくれた。
「なんか……雑賀暴走したね~……」
「……大丈夫雑賀。……今のところは写真で取っておいたから、帰ったらデルタに物凄く怒られるといい」
「それ、ちっとも大丈夫ではなさそうですわ。ほら仙ちゃん。いつまで貴方も顔を赤らめていますの?」
「ば、馬鹿言うな! 俺が赤くなってる訳ないだろ!?」
「でも、赤らめてるよね♪ おもしろ~い♪」
「あ、赤くなってねぇし! あぁクソッ、俺はどっか行く!」
背後でそんな話しが繰り広げられ、キリはここから少し離れて、海の方へと向かっていった。だがしかし、雑賀がそちらの方向に飛ばされた事を思い出すと、右方向へと砂浜を歩いて行った。
「ところで……何でユウは罰ゲームしないの……?」
「罰ゲームは負けたチームで一番点数を取っていない人だけが受けるんだよ!」
あのゲーム。いろいろと不正が働き過ぎではないだろうか。明らかにボクを陥れるようなルールばかりが取り入れられている。
ボクは落ち込みながら視線を別の方へと見やる。
すると、そこでは寝虚とヘルが砂で何かを作っていたりしていた。
傍から見ると微笑ましい姿なのに今はなぜかそんな気がしない。
「おぉ、ヘルちゃん作るのじょうずぅ」
「ヘル、に弱点、は、ない」
ヘルが腰に手を当てながら目の前の自分作の砂を見上げる。
そこにはボクの身長ぐらいはありそうな物凄く大きい人型の人物像が……って。
「無理でしょ普通!? って言うか、それボク!? ボクを似せたでしょ!?」
「気の、せい」
その砂でつくられたボクは、恥ずかしそうな表情までがしっかりとしていて、水着の水玉模様もしっかりとついている。どれだけ本格的にやればこんな芸当ができるんだ!?
「それにしても、日が段々と落ちてきたね~」
マナの言う通り、太陽はもう夕方となって来ていて、店は閉めるところがあったり、来ていた他のグループも水着から着替えて砂浜にお別れをする人が徐々に出てきはじめた。
「そうですね。あまり夜になると危ないかもしれませんし、そろそろ引き上げましょう。みなさん、先に水着を着替えてきていいですよ?」
「は~い♪」
ユウが元気な声をあげて、水着を着替えに更衣室に向かって行った。その後を他の人達もついて行く。残ったのはボクとアキとヘルと寝虚と妃鈴。
「リクちゃんやアキさんも、先に着替えてきては?」
「ええ、そうなんですけど……キリさんはどこ行ったのかなって」
先程、更衣室とは逆の方面へと向かって行ったような気がする。
ボク一人じゃ心細いし、やはりここはキリがいなくては。
「それじゃあ、私も行こうかな。リクちゃん達がしっかりと更衣室に来てくれないと私の立場も無いし」
なぜアキの立場が無いのかは置いておいて、ボクはキリが向かって言ったであろう方向へと歩いて行った。少し肌寒くなってきたし、走った方がいいかもしれない。
「そういえばリクちゃん。今日は楽しかった?」
「え?」
アキがそう聞いてきたのでボクはつい聞き返してしまった。
「今日は楽しかった? って聞いただけだよ?」
「あ、はい。いろいろとありましたけど、やっぱりみんなと遊ぶのは楽しいです。す、少し恥ずかしかったですけど……」
ビーチバレーをしていた時の周りのギャラリーの事を思い出す。
「あははっ。そっかぁ。それじゃあさ、これからは本題に移りたいんだけど……」
「本題?」
「うん。新聞にさ、この事書いてもいいかな?」
アキがボクに言いたい事ってそれなのだろうか?
いつも遠慮なしに新聞に何でもかんでも書くような人だと思っていたが、それは間違いだったのだろうか。
「今、私が許可も無しに書いてると思ったでしょ?」
「う……」
思いっきり図星を疲れてボクは冷や汗が垂れる。
「あははっ。リクちゃんは顔に出やすいなぁ。まぁこの顔に出た物を読むと言うすごい技術を教えてくれたのは師匠なんだけどね」
「師匠?」
「うん。私、師匠がいるんだよ。今はどこに居るか分からないけど、でもいつか、また会ってお礼したいんだ。私とハナを引き取って武藤新聞屋を開かせてくれたお父さんみたいな存在だけどさっ」
アキが懐かしむような目で遠い空を見ていた。きっと何年も会っていないのだろう。アキの師匠……。とても気になる。
「その師匠さんはどんな人なんですか?」
「すっごく、優しい人だよ」
自信持って言うアキに、ボクはそんな師匠を思い浮かべてみた。
武藤新聞屋を開かせてくれた師匠と言うのは、アキに情報屋何やらをたくさん教えてくれているような存在なのだろう。
「どんな優しい所があったんですか?」
「ん? 師匠、あんまりお金が無いのに私やハナにお腹いっぱいご飯をよく食べさせてくれるの。私がね? 初めてその事に気がついて、その日あんまりご飯食べなくて師匠にあげた事があるんだ。師匠に怒られちゃった。しっかりご飯は残さず食べなさいって。あぁ、私って愛されてるんだなって思っちゃった」
アキは笑っていた。その笑みはどこか自虐で、当時の事を思い出しているのだろう。
「アキさんは……その師匠の事をどう思っているんですか?」
「さっきも言ったよ。私は師匠の事をお父さんだと思ってる。私もハナも、同じ夜に血のつながった両親が小さい頃に死んじゃったから。暗殺でね? 誰に殺されたのか全く分からないの」
小さい頃……そう聞いてボクは昨日の夜のキリの言葉を思い出していた。
キリも小さい頃に両親を亡くしている。きっとそれが被ったので、アキはキリの話をつい聞いてしまったのではないだろうか?
「おっと、話は終わり。とりあえず、あそこに見えるナンパされているキリから、男たちを救わないとねっ」
アキにそう言われ、ボクは真正面を見る。すると、少し遠いところでキリが数人の男に寄り添われていた。そのキリから雷がバチバチしているのがここからでもよく見える。だがそれは男たちには見えていないらしい。
ボクとアキはそこから走り始めた。
アキの言った通り、とりあえず、ナンパしている男たちを救わなければと思いながら。
「だから私はどんな危険な情報でも探すんだ。私とハナのそれぞれの両親を殺した奴に償わせるために」
アキのその呟きは、前を走るボクには届く事はなかった。
誤字、脱字、修正点があれば指摘を。
感想や質問も待ってます。