夏休み……なハズ
桜花魔法学校が夏休み期間に入った。本来は魔石争奪戦が終わった次の日に終業式が合って夏休みに入るはずだったのが、被害が壮大なおかげで終業式が無しになり、夏休み期間に入ったのだ。
確か、赤砂学園が九月十三日に始業式が合って、桜花魔法学校は九月二十日に始業式があるような気がした。
桜花魔法学校はヒスティマにあるから良くわからないとしても、どうして日本にある赤砂学園の始業式が十三日なのか良くわからない。
別に赤砂学園が終業式をするのが遅いわけではない。他の学校と同じぐらいだ。
桜花魔法学校は魔石争奪戦が八月十五日にあったために納得できる。ただ、一ヶ月と一週間ほど夏休み期間が欲しかったとは言いたい所だ。
ちなみに、なぜボクがこんな事を考えているのかと言うと……。
「あの……。どうしてボク達は夏休みに旅をしているのでしょうか……?」
「知るか」
隣を歩くキリにそう言われながら、ボクは垂れる汗をぬぐう。それから遠くに見える木々を見ながらガックリと肩を落とす。あの遠くに見える森を抜けていくそうだ。先が見えなくて肩が落ちるのは当然だろう。
つまりはそういうことだ。夏休みと言う家で羽根を伸ばせる楽しい日々が一転。なぜかボクは嬉しくとも何とも無い猛暑の中。ヒスティマの地上を何人かと一緒に歩いている。魔法によって熱中症や脱水症状は免れているが。
そして、その発端は魔石争奪戦が終わった次の日にユウが持ってきた手紙だった。手紙に書いてあった事は[一緒に遠足に行きなさい♪]と柔らかい文字で書いてあった。あきらかに母であるカナの直筆だろう。同時に転送魔法も発動されてライコウの国外へとボク等七人の学生メンバーは出ていた。
ユウが出発の合図をすると、そこで待機していた四人のロピアルズメンバーが後を追っていった。
さすがに着替えさせてほしいと白夜が言うので、ユウがそれを待ってましたとばかりに物凄い量の衣服を取りだした。ユウが男性陣(なぜかボクはその男性陣に入れてもらえなかった)の目を一時的に潰すと、なぜか女性陣が全員してボクのファッションをどうしようか悩み始めて勝手に着せられた。
そして着せられたのが戦闘面も考えてくれたバトルドレス。肩の素肌が見えている水色の服に膝上までの水色のスカート。白を基調としている二―ソックスを履いている。そして、胸元からお腹まで隠す、白銀の鎧――とは言っても柔らかい服の様な金属のだった――が首輪になっている物からつながれている。それから腰には純白のパレオのような前の開いた物を着ていて、一見すると姫騎士コスチュームだった。
ちなみに全て魔法がかけられている魔法鎧だと言う事。
これくらいならばと抵抗無く着てしまったボクは少し落ち込んでたりする。スカートなのに……。
主に着替えたのはボクと白夜だけった。白夜はテニスウェアを着ていたのだから仕方が無い。今は漆黒のローブを羽織り、その下にはポロシャツと膝上までのスカートを着ていた。どこかの魔法学校の制服と言われると納得してしまいそうだった。実際には違うのだが。白夜はこう言う服を好むのだろうか。家にたくさんの服があったとはいえ、そのほとんどをボクに着せるためとか言っていたし、実際、新品に近かった物ばかりだった。
とまぁ服の話になってしまったが、ボク達は着替えて、ライコウから出発した。
ライコウを出て数十時間。いや、何日もかかっていることだろう。少なくともボクは五日は野宿をした記憶がある。その時は雑賀や妃鈴がテキパキと持ってきていた簡単に作れるテントを作っていた。
その間に雁也が荷物から食料を取り出す。魔法で加工されているようで、とても新鮮な食料ばかりだった。そしてなぜかボクが全て料理を受け持っていた。強制的に連れだされた旅でも、みんながおいしいと言って食べてくれるので作りがいはあるのだが。
貴重な夏休みがどんどん削れて行く。帰ってきたらもう夏休みは終わってしまいましたなんてオチは絶対にいらない。
とにかく、その五日間のあいだ。ひたすらボク達は歩き続けていた。一応道のりに沿っているのでたまに旅商人に出会い、買い物をしたりベレー帽を被ったアキが他の国について情報を貰ったりとしていた。
「そういえば、リクちゃん達は国外に出るのは初めてだっていうな」
あいかわらず暑苦しそうな枯れ葉色のコートを着ている雑賀。実はあのコートの内側はつねに風が吹いていてむしろ涼しいそうだ。
「はい。ボク、ライコウしか知らなかったですから。前にレナさんに敵国があると聞いたぐらいで」
空間が繋がっているのもライコウしかしらない。探せば他の国へとつながっている空間があるかもしれないが。
ボクがレナの方へと目を向けると、レナがコクリと頷いていた。
「俺はたまに外に出てたぜ。遊びにとか、オヤジの手伝いとかな」
「わたくしも出た事がありますわ。ですから少し話す事が出来たんですわ」
どうやらレナだけでなく、キリも外に出た事があるらしい。キリの父親にはあった事ないが、手伝いとは一体何をやっていたのだろうか。
「ウチは初めてかな~」
「情報だけなら持ってるよ!」
「……初めて」
その他、マナ、アキ、白夜は国外初なので、ボクは同じ境遇の人がいて安心する。
「何話してんの~? 早く行くよ~♪」
ユウがいつの間にか少し遠い所から手を振っている。五日間も歩きっぱなしなのに、あそこまで元気が出す事が出来れば苦労はしないのだが。
スキップしながらまた進み始めるユウ。その後を少し急ぎ足で追う。
「リク様。辛かったら言ってくださいね? 私が背負いますから」
「い、いえ。大丈夫です」
雁也に心配されて、大丈夫だと答える。
むしろ心配してほしい人は、他にいるからだ。
「ち、ちょっと……待って……」
はぁ。はぁ、と息を切らしてソウナが何とか追い付いてくる。というか、ユウがさっさと行ってしまうためにソウナがそれに付いていけていないのだ。
体力が無いソウナはすぐに息が切れる。そのためにさきほど雑賀の質問にも答えられなかった。
ボクはそのソウナの隣へと言って、ソウナの手を取る。
「大丈夫ですか? ソウナさん」
「ダメ……。リク君。背負ってもらえないかしら……?」
「えっと、それだったら狼に乗せてもらえばいいんじゃないですか?」
今ここでボクがソウナを背負う事になると、絶対に後で体力切れを起こす。ボクもボクであまり疲れたくないのだ。どれだけ歩くかわからないし。
ボクがあの聖獣の事を言うと、ソウナはその発想は無かったと言って魔法を発動した。
「〈セイントウルフ〉……」
すると、魔法陣から狼が出て来て、すぐにソウナがその背に乗った。
「ごめんなさい……。乗せてほしいの」
ソウナの言葉に反応したように狼が「グルルル」と喉を鳴らした。そして、ゆっくりと歩き始めた。
ずるいと思うが、ソウナは体力が無いのだから仕方ないと思う。
ボクもその後を追いかけはじめる。いつの間にかボクが最後尾となっていた。
「はぁ。最近地球に帰っていないような気がするから真一、怒ってるだろうなぁ……」
ホントは魔石争奪戦が終わって終業式が終わればしばらくは地球に居るつもりだったのだ。それはなぜか? 魔石争奪戦だったり、世界の柱を守るためだったりして、ヒスティマに居たために、終わったらしばらくはキリ達に任せて休もうかと思っていたからだ。
なのに、あの天然トラブルメーカーこと母親のおかげでボクはヒスティマを旅する事になってしまっている。
「しかも、どこに向かっているのかさえ聞かされないって……」
「聞いていないのですか? リクちゃん。私達はヘレスティアと言う国に向かっているのです」
訊いてもいないのに雁也が答えてくれた。しかもその言葉だとボクがすでに知っているような話し方だった。
そして、ボク達に出発する前にそんなことを話せるのは一人しかいなくて……。
こちらを見ていたユウに視線を向ける。
ばっ、としか形容できない擬音を鳴らしながらユウが視線を逸らした。
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