明らかな魔力の使用を禁止
「え、えぇっと、この人ごみをどうやって避けて中に入るんですか……?」
もはや人ごみが壁となって中の様子が全く分からない。
時折、ボールが高く上がるのでビーチバレーをしている事はわかるのだが……。
背伸びをしても前が見えることは無い。この身長が恨めしい……。
「はいは~い。あんた達どいて~。今回のメインディッシュが通るんだから~」
「メインディッシュってなんですか!?」
もしかしてこなかった方が身のためだったんじゃないだろうかと思うボクを置いて、目の前の人だかりが一斉に左右へと割れた。まるで海が割れるアレみたいだ。
「おぉっ。さっき一番かわいい娘を呼びに行くって言ってた娘が戻ってきたぞ!」
「マジで!? うわっ。マジ可愛い! あの白銀の娘だよな!」
「可愛い~。そういえばあの娘、更衣室でも恥ずかしがってたわよね」
「マスコットみたいで可愛い!」
割れた瞬間に突き刺さるたくさんの人の視線。ボクはその視線に後ずさりをする。
「ほらほら、リクちゃん早く行くよ!」
「い、嫌ですよ……。なんでこんな見世物みたいな所に入って行かなくちゃいけないんですか!?」
「勝手に集まっただけよ」
アキとソウナが何とも無しに進んでしまうので、ボクは少しびくびくしながら先へと進む。
すると、中では四人がビーチバレーをやっていた。ネットを作り、審判台まで置かれており、なかなかに本格的だ。
ただ、人数的に無理なのか、審判は不在だ。
「ユウちゃん任せた!」
「オッケーマナ姉!」
「……甘い。……レナ」
「大丈夫ですわ!」
マナがボールをあげてユウがアタック。しかし白夜に容易に取られて、あがったボールをレナがまたあげて白夜にアタックを撃たせていた。
どちらも力が均衡していて面白いゲームとなっている。
ビーチバレー……。きっとキリだったら一人で三人相手にしても勝てそうな気がするが。主に背と腕のリーチを使って。女となったキリでも背の高さは約20cmとあまり変わっていないのだから。
「……えい」
白夜が小さな声でそう言いながらアタックをすると、そのボールはマナとユウの間を抜けて地面へと着いてしまった。
すると、周りから歓声がわきあがってきた。
「あっちゃぁ」
「……私達の勝ち」
頭を押さえているユウと、勝ち誇っている白夜。
どうやら決着がついてしまったらしい。審判台の隣にある得点をみると、どうやら接戦だったようで、周りのギャラリーも燃えていたのだろう。
何名かは血が吹き出ているが、一体何があったのだろう。
「あ、リクさん来たんですの?」
「やったぁ! じゃあ次はお兄ちゃんとユウのチームね♪」
「あの、ボクやるなんて言ってないですけど……」
とは言っても、周りのギャラリーの表情のキラキラとした目を見ていると、やらなければいけないのだろうかと考える。
「……じゃあ、さっき呼びに言ってたソウナとアキ。……リクちゃんとユウね」
ボクの言葉が届いていなかったのか、白夜が自然とボクを入れてくる。もうどうにでもなれと思いながらボクもコート内に入る。しっかりと線も入っていて、どこがアウトなのかわかりやすい。ボールはスイカの柄をしている。
「じゃあウチは観戦してるね~」
「わたくしはちょっと。仙ちゃんが気になりますから一旦戻りますわ」
マナは審判台とは反対側にあるイスに座り、レナは人ごみを抜けて行った。どうせならボクも連れて行って欲しかった。
ともあれ、ビーチバレーをやる事になった以上。全力でやる気だが。
「……じゃあ私が審判。……ちなみにリクちゃん、明らかな魔力を使うことは無し」
「あ、はい。わかりました」
魔力を使ってはいけない、となるとそれは個人の力を使う事になるのか。ボクとユウやアキは運動神経がいいと思うけど、ソウナは運動神経よくないし、大丈夫だろうか?
「……それじゃあ、25点先取で勝ち。……初めはソウナから」
「わかったわ」
白夜がソウナにボールを渡す。
「おぉ! 魔球が出るぞ!」
「あれ、どうやって打ってるんだろな~」
周りのギャラリーから不穏な言葉が聞こえてきた。
魔球……とは何だろうか?
「お兄ちゃん、ソウナさんのボールはユウが何とかして取るからお兄ちゃんはあがったボールを安定させてユウに頂戴」
「え? ソウナさんのボールそんなに取りにくい?」
運動神経や体力が無いと言うのに、ソウナにそんなボールを打つ事が出来るのだろうか?
「それじゃあ……いくわ!」
そう言って、ソウナがボールを高く上げ……魔力供給線が見えた次の瞬間。
――ボールが左右に大きくぶれながらネットを超えてきた。
「え!?」
今しがた、白夜が魔力を使ってはいけないと言ったはずだ。思いっきり今使ってたよ!?
「くっ」
ユウはその左右にぶれたボールを何とかして腕にあてるも、ボールはボクの方へとは来ずに反対方向へと弾かれてしまった。
「うおぉぉぉぉ!」「出たよ魔球!」「すげぇ!」「どうやったらあんなの打てるんだ!?」
ギャラリーは魔力が使われた事に気がついていなかったようだ。それもそうだろう。ソウナは魔力解放をしていないのだから。おそらく今使った魔力はディスの力を使ったもの。だから一般人には気づかれなかったのだろう。
「えぇ!? ちょ、白夜さん。あれ無しなんじゃないんですか!?」
「……何が?」
ボクが抗議しても、白夜はあっさりと流した。
自分が先程まで言った言葉を忘れたのだろうか。
「だって……今魔力……」
使っていたじゃないですか。という言葉は、後ろから話しかけてきたユウの言葉によって中断されてしまった。
「お兄ちゃん。周りのギャラリーのみんなに魔力を使っているってばれなければいくらでも魔力を使っていいんだよ。明らかな魔力とはそういう事」
それってつまり、イカサマと言わないだろうか?
しかし……そうか。魔力を使っている事がばれなければいいのか。
……難しくないですか!?
魔力扱いが物凄い下手――とは言っても少しは上達した――ボクが魔力を使っている事をばれないようにプレイすると言う事ができるはずも無くて……。
(け、結局ボクは魔力を使わずに戦わなければいけない……。たぶん三人とも魔法を使うよね?)
ルナがきっと起きているだろうが、自分の戦いでルナを利用してもいいものだろうかと思うので、ボクはルナを使うと言う選択肢はなかった。
『律儀じゃのぅ……』
『ですね。りくさん。そうなさんは『ディス』をつかっているのですよ?』
確かにそうだが、ソウナは仕方ないだろう。運動神経とかよくないし、体力も無いのだから。
ただ、アキがどうやって魔力を隠しながらプレイするか、だ。彼女は神を持っていない。だからまず魔力解放をしなければいけないはずだ。
そうすれば他の人がわかる。だからそれ以外の方法をしようとするのだが、彼女にそれ以外の方法があるとは思えない。
「ハッ!」
ソウナがまた魔力のこもったボールを打つ。それは先程と同じように左右に大きく揺れ、とても取りずらくする。
ユウは、今度こそはしっかりと取れ、ボールは高く上がる。ボクはその高く上がったボールをユウへとパスをすると、ユウはそれを魔力のこもった手でアタックを打った。
すると、地面へと着く前に、アキがそれを受け取る。あがったボールはソウナへとつなぎ。最後にアキのアタック。
すると、どうしてか、アキが魔力をこもった手でアタックをしたのだ。
「!?」
ボクはその事に驚き、ボールへと手が届かずに地面へと落ちてしまった。
「ふっふっふ。リクちゃん、残念だったね!」
アキが勝ち誇った笑みを浮かべているが、ボクはどうしてアキが魔力を使えたのかが分からなかった。周りのギャラリーは気がついていない。
「リクちゃ~ん。頑張って~」
コートの外で応援してくるマナ。
「はい、頑張ります!」
ボクはそのマナの応援に答えて、顔を向けた。
マナはイスに座りながら、その手に持つカメラでボクやアキなどを撮っていた。夏の思い出、記念写真にでもするのだろう。ボクはそう考えてネット越しに居るソウナ達を見る。
――そして確認するようにしてマナへとまた振り向いた。
「?」
マナはその様子に頭の上にハテナを浮かべる。
写真を撮っていたカメラの手を止めてハテナを浮かべている。
カメラ……。アキの武器。つまりアキは試合をする前に魔力解放して武器も喚び出しているという事。
……ボクはアキへと向き直った。
そこではアキが笑顔になりながらこちらにピースをしていた。先程の勝ち誇ったような顔ではないと、断言できるほどだった。同じ顔なハズなのに……。
誰が白夜さんの胸が揺れるシーンを書いてやるものか!←
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